香料の原料となるカテコールを微生物で発酵生産する技術の開発に成功

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スマートセル技術を活用し、世界最高レベルの生産濃度達成

 

2020-12-02 新エネルギー・産業技術総合開発機構,地球環境産業技術研究機構

NEDOと公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)は、微生物を用いた高機能品生産技術の開発(スマートセルプロジェクト)に取り組んでおり、香料などの原料となるカテコールを微生物によって発酵生産する技術を開発しました。本プロジェクトで新たに開発された複数の基盤技術を活用することでカテコールの生産濃度を段階的に向上させることができ、初期生産株の約500倍となる世界最高レベルのカテコール生産濃度を達成することができました。

今回開発した発酵生産技術により、従来は石油由来だった原料を再生可能資源由来に転換することができるため、環境に配慮した持続可能なカテコール生産の実現が期待できます。

カテコール生産技術の比較

図1 カテコール生産技術の比較

1.概要

香料の原料※1や半導体の加工材料として需要が高いカテコールなどの芳香族化合物※2は主に石油を原料として化学合成されていることから環境への課題を抱えており、持続可能な社会構築と実現のためにはバイオマスなど再生可能資源を原料とする製造法の開発が望まれています(図1)。このような課題を解決する製造法の一つとして、植物由来の糖を原料とした微生物発酵法が挙げられます。しかし、カテコールを含む多くの芳香族化合物は微生物全般に対して毒性を示すこと、生産代謝経路※3が長く複雑であることなどが原因となり、発酵による生産は極めて困難でした。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)は2016年度から「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発※4」(以下、スマートセルプロジェクト)に取り組んでおり、生物機能を活用した新たな産業群「スマートセルインダストリー」の創生を視野に入れ、スマートセル(潜在的な生物機能を引き出した賢い細胞)を生み出すための基盤となる技術の確立を目指しています。RITEはこのプロジェクトにおいて、さまざまな研究機関とともに短期間で微生物の物質生産性の向上を達成するために、情報解析をベースとした複数の基盤技術※5の高精度化を図るとともに、生産ターゲットを定めて基盤技術の有効性を検証してきました。

今回、生産ターゲットをカテコールに定め、コリネ型細菌(学名 Corynebacterium glutamicum 以下コリネ菌)を改変することでカテコール生産株※6を開発しました。この生産株に複数の基盤技術を活用した結果、生産濃度が段階的に向上し、開発初期の生産株が示した値の約500倍※7のカテコール生産濃度を達成することができました。これは発酵生産における世界最高レベルの濃度です(RITE調べ)。今回開発した発酵生産技術により、これまで石油原料に頼っていたカテコール製造について再生可能資源由来に転換することができるため、環境に配慮した持続可能な生産への効果が期待できます。

今後NEDOは本研究成果を先行事例として、生物機能を活用して高機能な化学品や医薬品などを生産する次世代産業「スマートセルインダストリー」の実現を目指します。また、RITEはスマートセルプロジェクトでの技術をベースとして、さらに生産株へ改良を加えるとともに、大量生産法の開発などを進めて早期の実用化を目指します。

なお、本成果は、12月9日から11日まで東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2021」のNEDOブースで展示・発表する予定です。また、12月9日にイイノホール(東京)およびWEB配信(ハイブリッド開催)される「革新的環境技術シンポジウム2020 ~ビヨンド・ゼロに向けたイノベーションの推進~」でも発表します。

「nanotech2021」

「革新的環境技術シンポジウム2020」

2.今回の成果

スマートセルプロジェクトで開発された基盤技術を活用することで、カテコールを効率的に生産するための代謝経路を設計しました(図2)。この経路をコリネ菌の細胞内に再現することでカテコールの高生産株を開発しました。目的物質の生産性を高める基盤技術は複数種類開発されており、それぞれ生産を効率化させるための手段を導き出す手法が全く異なっています。そのため各基盤技術からの代謝経路の改善手段を一つの生産株に重ねて適用することができます。今回、複数の基盤技術を活用することにより段階的に生産性が向上し、カテコール生産濃度は初期生産株の約500倍になりました。これにより世界最高レベルのカテコール生産濃度を達成することができました(図2)。

研究開発成果

図2 研究開発成果

【注釈】
※1 香料の原料
カテコールはバニリンやヘリオトロピンなどの香料の原料として用いられます。
※2 芳香族化合物
ベンゼン環など、環状構造をもつ有機化合物です。
※3 代謝経路
生物の細胞内で連鎖的に行われる、酵素を触媒とした化学反応のつながりのことです。ここでは原料となる糖が一連の酵素反応によって少しずつ形を変え、目的物であるカテコールに変換されるまでの全ての反応をつなげた道のりを示します。
※4 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発
研究開発項目:
微生物による高機能品生産技術開発/高生産性微生物創生に資する情報解析システムの開発/コリネ菌を用いた有用芳香族化合物の生産性向上による代謝解析技術の有効性検証
事業期間:
2016~2020年度
委託先:
公益財団法人地球環境産業技術研究機構
共同研究機関:
国立研究開発法人理化学研究所、国立大学法人京都大学、国立大学法人大阪大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人神戸大学、国立大学法人東北大学、株式会社日立製作所
※5 基盤技術
スマートセルプロジェクトで開発された、短期間での微生物の物質生産性向上を達成するための複数の技術です。
参考: NEDOスマートセルプロジェクト
※6 株
ここでは、コリネ菌に対して改変を加えて生産能力などの特徴を持たせた、均一な微生物集団のことです。
※7 約500倍
RITEにて実施した、単に生産代謝経路をカテコールまでつないだだけの生産株が示した値との比較です。
3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 バイオエコノミー推進室 担当:金田、林
(公財)地球環境産業技術研究機構 バイオ研究グループ 担当:乾、久保田

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、鈴木(美)

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