CO2に対する気候感度の不確実幅が低減~国際研究チームの4年がかりの研究による成果~

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2020-08-04 東京大学

東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩教授を含む国際研究チームは、4年をかけて平衡気候感度(大気中CO2濃度倍増時の地球全体の地表気温上昇量)の評価を行い、様々な証拠を組み合わせることでその推定幅を導きました。その結果は、2.6―3.9℃となり、これまでのIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書の推定よりも明らかに狭くなりました。

地球温暖化で地表気温が何℃上昇するかは、将来のCO2排出シナリオと気候システム自身の特性によって決まります。後者は、理想的に大気中CO2濃度を倍にしたときの平衡状態における気温上昇量―すなわち気候感度―で表されますが、この値に幅があることが将来の温暖化レベルに不確実性をもたらしています。気候感度を最初に推定した、1979年の米国National Research Councilの報告書以来、感度の幅は約3℃と広いままで、最新のIPCC第5次評価報告書では1.5―4.5℃となっています。

今回、ニューサウスウェールズ大学、英国気象局、ワシントン大学、リーズ大学、東京大学、エジンバラ大学、NASA、ローレンスリバモア国立研究所などの研究者が主導する総勢25名の気候科学者による研究チームは、複数の証拠を組み合わせて用いることで、気候感度の幅を狭めることに成功しました。具体的には、20世紀以降の観測された気温データ、氷期など過去の気候における気温変化の推定、全球気候モデルによるシミュレーション、衛星観測データや雲の詳細な数値モデルから得られる気候システム内部の物理プロセス理解などに基づく気候感度の推定を複数行い、統計理論を用いてそれらを重ね合わせて統合的に気候感度の幅を推定しました。その結果、2℃よりも低い、あるいは4.5℃よりも高い気候感度の可能性は非常に低いことが明らかになり、結果としてIPCC報告書を含む過去の評価よりも気候感度の不確実性が大きく低減されました。

今回の成果は、気候科学コミュニティが総力を挙げて取り組んだことで、40年以上変わらなかった気候感度の推定幅を狭めることができたことを示しており、科学的な意義はもちろん、パリ協定に基づくグローバルストックテイク(各国のCO2排出削減の見直し)にも影響する点で、社会的意義があります。

本論文の筆頭著者であるSteven Sherwood教授(ニューサウスウェールズ大学)は、「気候感度の推定幅を狭めることは、1979年のチャーニ―らによる最初の報告書以来の科学的挑戦でした」と話します。 論文で、物理プロセス理解に基づく気候感度の推定を主導した渡部教授は、「この評価のきっかけは、イタリアの国際学会でのランチ後の雑談でした。それから4年もかかるとは思っていませんでしたが、この成果は温暖化の基礎研究としてマイルストーンになるでしょう」と話します。さらに、波及効果について「2021年公開予定のIPCC第6次評価報告書に対しても大きな貢献になるはずです」と述べています。また、論文の共著者の一人でオーストラリア国立大学のEelco Rohling教授は、「専門の異なる国際的なチームが時間をかけて協力することで、科学の厄介な問題を解きほぐすことができたよい例だ」と評価し、「世界の政策決定者たちも、温暖化の最悪のシナリオに先んじて行動するために、同じ精神で協力しあうことができるはずだ」と話しています。

過去80万年間の大気中CO2濃度​ 

紀元前80万年前から現在までの大気中CO2濃度の変遷。青線は南極での氷河や氷床から得られたデータ、赤線はハワイマウナロア島で観測された1958年以降のデータを示す。20世紀以降のCO2濃度の上昇が過去80万年間に見られなかったレベルであることが明らかにわかる。

© 2020 吉森正和(元データはアメリカ大気海洋庁およびスクリプス海洋研究所のウェブサイトより取得)

論文情報

Sherwood, S., M.J. Webb, J.D. Annan, K.C. Armour, P.M. Forster, J.C. Hargreaves, G. Hegerl, S. A. Klein, K.D. Marvel, E.J. Rohling, M. Watanabe, T. Andrews, P. Braconnot, C.S. Bretherton, G.L. Foster, Z. Hausfather, A.S. von der Heydt, R. Knutti, T. Mauritsen, J.R. Norris, C. Proistosescu, M. Rugenstein, G.A. Schmidt, K.B. Tokarska, M.D. Zelinka, “An assessment of Earth’s climate sensitivity using multiple lines of evidence,” Review of Geophysics: 2020年7月22日, doi:10.1029/2019RG000678.

論文へのリンク (掲載誌)

1702地球物理及び地球化学1902環境測定1904環境影響評価
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