結晶化過程で安定な結晶はどのようにして選ばれるか?

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2020-07-02 東京大学

○発表者:

田中  肇(東京大学 生産技術研究所 教授:研究当時)

タン ペン(復旦大学 准教授)

○発表のポイント:

◆同じ組成の化学物質で複数の結晶構造が形成可能な「結晶多形」を示す系において、どのようにして最も安定な結晶構造が選択されるのかは未解明であったが、コロイド系(注1)の一粒子レベル観察により、どのように最終構造が形成されるかを明らかにすることに成功した。

◆液体の中でできては消える局所的に安定な構造の存在下で、結晶化初期には、さまざまな結晶構造を内包した結晶の核が形成されるが、これらの構造が競合しながら、時間とともにより安定な結晶が徐々に発達し安定化されていく機構を明らかにした点に新規性がある。

◆この成果は、長年の未解明問題であった結晶多形の選択の原理を微視的レベルで実験的に明らかにした点に、最大のインパクトがある。薬の製剤などを含むさまざまな系における結晶化制御の理解に大きく貢献すると期待される。

○発表概要:

 東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授(研究当時、現:シニア協力員)、復旦大学のタン ペン 准教授、リー ミンフアン 大学院生、チェン ヤンシャン 大学院生の共同研究グループは、同じ組成の化学物質で複数の結晶が形成可能な「結晶多形」を示すコロイド系において、液体から最終的な結晶構造がどのようにして選択されるのかについて明らかにすべく研究を行った。例えば、炭素の結晶には、グラファイト、ダイヤモンドなど複数の結晶構造が存在することが広く知られている。このような結晶多形は、薬品分野をはじめとするさまざまな材料の結晶制御の観点から重要な問題として広く認識されてきたが、その物理的な機構は未解明のままであった。

 今回、本研究グループは、共焦点レーザ顕微鏡を用いた荷電コロイド系(注2)の一粒子レベルでの三次元観察により、結晶化の素過程を実時間で追跡することに成功した。液体の中でできては消える局所的に安定な構造を解析することにより、液体の中には結晶多形に関係した複数の結晶的な構造が形成され、それらが競合しながら次第により安定な結晶形が選択されていく様子を直接とらえることに成功した(図1参照)。この競合過程は結晶化の初期だけではなく、結晶が系を覆いつくした後も、結晶の境界(結晶粒界)においても進行し、次第に最も安定な結晶が支配的になっていく機構を明らかにした。

 本研究により、複数の結晶形を持つ系において、液体からこれらの結晶がどのように生まれ、成長し、さらには最終的な結晶構造が形成されるのかについての、微視的な物理的機構が明らかにされた。本研究は、薬の製剤などを含む、さまざまな結晶性材料の結晶化の制御に基礎的な指針を与えた点にインパクトがある。

 本成果は2020年7月1日(米国東部夏時間)に「Science Advances」のオンライン速報版で公開された。

○発表内容:

 東京大学 生産技術研究所の田中 肇 教授(研究当時、現:シニア協力員)、復旦大学のタン ペン 教授、リー ミンフアン 大学院生、チェン ヤンシャン 大学院生の共同研究グループは、複数の結晶形を示すコロイド系において、液体から最終的な結晶構造がどのようにして選択され形成されるのかについて明らかにすべく研究を行った。

 例えば、炭素の結晶には、グラファイト、ダイヤモンドなど複数の結晶構造が存在することは広く知られている。このように、同じ組成の化学物質に、多くの結晶形が存在することを「結晶多形」と呼び、我々に身近な二酸化ケイ素や水にも多くの結晶多形が存在することが知られている。このような結晶多形は、薬にも存在し、その制御は工業的にも極めて重要であるが、結晶形選択の物理的な機構は未解明のままであった。

 本研究グループは、結晶多形をもつコロイド系をモデル系として用い、共焦点レーザ顕微鏡を用いることで、結晶化初期から後期過程にわたる全過程を、一粒子レベルの分解能で三次元観察することに成功した。

 結晶化前の液体構造の構造解析により、液体の中に局所的に結晶と同じ対称性を持つ構造が生成されること、また、その構造が結晶多形に関係した複数の構造からなることを明らかにした。そのような結晶の前駆体から結晶が生まれ成長していく過程で、初期には、結晶核の中に複数の結晶形の構造が共存するが、時間とともにそれらの構造の競合の下でより安定な結晶構造が徐々に支配的になること、すなわち、このプロセスが決定論的ではなく確率的に進行することが明らかとなった。さらに、結晶化の最終段階で、結晶がほぼ全系を覆いつくした後においても、より安定な結晶と不安定な結晶の境界(結晶粒界)において、構造の揺らぎを伴いながら徐々に不安定な結晶構造が、安定な結晶構造に変化していくことを発見した。

 本研究の最大のインパクトは、長年の謎であった、液体から結晶がどのようにして生まれ、また最も安定な結晶がどのように選択されるのかについて、微視的レベルでの物理的な機構を明らかにした点にある。ここで得られた知見は、薬の製剤などを含む、さまざまな結晶性材料の結晶制御に役立つものと期待される。

○発表雑誌:

雑誌名:「Science Advances」(7月1日版)

論文タイトル: Revealing roles of competing local structural orderings in crystallization of polymorphic systems

著者: Minhuan Li, Yanshuang Chen, Hajime Tanaka, Peng Tan

DOI番号: 10.1126/sciadv.aaw8938

○問い合わせ先:

東京大学 生産技術研究所

シニア協力員 田中 肇(たなか はじめ)

○用語解説:

(注1)コロイド

 ここでは、大きさ2ミクロン程度の大きさの揃った球形の固体粒子が液体に分散したものを指す。

(注2)荷電コロイド

 電荷を帯びたコロイドのこと。

○添付資料:

図1:コロイド液体中に形成され成長する結晶的秩序の様子。上の段:結晶的な構造は揺らぎながらも成長し、その過程で最も安定なbcc的な構造が徐々に支配的になっていく様子が見られる。下の段:クラスターの中の一つの粒子が、どの結晶構造に属しているかを時間の関数として示したもの。初期には、液体的な無秩序な構造(灰色)であったものが、揺らぎながらも、次第に最も安定なbcc型の構造(オレンジ色)の滞在時間が長くなっていくことがわかる。

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