ダイヤモンドデバイスの性能向上に大きく貢献
2020-06-17 京都大学
田中耕一郎 理学研究科教授(高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)連携主任研究者)、中暢子 同准教授、挾間優治 同博士課程学生、市井智章 同博士課程学生(研究当時)の研究グループは、広帯域テラヘルツ時間領域分光法を用いて、ダイヤモンドにおける励起子と自由キャリア間の平衡定数の精密測定に成功しました。
ダイヤモンドは、従来の半導体には見られない優れた物理特性(高い熱伝導率・絶縁破壊電圧など)を有しています。このため、次世代のパワーデバイスや深紫外ダイオードとしての応用に期待が集まっています。従来の半導体(SiやGaAsなど)においては、電子とホールが束縛状態を形成して中性状態となった「励起子」はイオン化エネルギーが小さいため常温では不安定であり、デバイス設計には現れてきませんでした。しかし、ダイヤモンドは励起子が室温でも安定に存在するために、電場では駆動できない中性状態の「励起子」の存在はデバイス設計で無視することができません。そのためには、ダイヤモンドにおけるキャリア・励起子の基礎的な理解は不可欠ですが、不明な点が多いのが現状です。例えば、キャリアの輸送特性に大きく関わる自由キャリア−励起子間の平衡定数は、従来の発光測定では精密に評価することは難しく、正確な値はわかっていませんでした。
本研究グループは、近年、自由キャリアと励起子の平衡定数の決定に有力視されていた、広帯域テラヘルツ時間領域分光法を用いることで、平衡定数の精密測定に成功しました。これにより、様々な温度・密度に対し、自由キャリアと励起子の存在比率が予測でき、ダイヤモンドのデバイス設計・性能向上の指針に大きく貢献します。
本研究成果は、2020年6月9日に、国際学術誌「Applied Physics Letters」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究のイメージ図
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1063/5.0006993
T. Ichii, Y. Hazama, N. Naka, and K. Tanaka (2020). Study of detailed balance between excitons and free carriers in diamond using broadband terahertz time-domain spectroscopy. Applied Physics Letters, 116(23):231102.