2020-06-16 早稲田大学,千葉大学
ポイント
- 植物種子の油脂から生産されるバイオディーゼルは、化石燃料に代替する次世代の燃料として注目されている。
- バイオディーセルの原料植物として注目されているカメリナにシロイヌナズナ由来の高速型ミオシンを異種発現させ、植物の成長促進や種子数を増加させることに成功した。
- 種子の生産量が増えることでバイオディーゼルの生産や、さらに高速型ミオシンが植物増産技術として汎用性を持つことが示され、トウモロコシやイネなどさまざまな資源植物の増産が期待される。
JST 戦略的創造研究推進事業において、早稲田大学の段 中瑞 研究員と富永 基樹 准教授らの研究グループは、バイオディーゼルに有用な原料植物として期待されるカメリナ(Camelina sativa)で、シロイヌナズナ由来のたんぱく質(人工的に高速化を施したモーターたんぱく質)を異種発現させることにより、植物体の成長促進や種子数の増加に成功しました。
藻類から高等植物までのあらゆる植物の細胞では、小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官と共に細胞質が活発に動く原形質流動という現象が見られます。原形質流動は細胞小器官に結合したモーターたんぱく質のミオシンXIが、細胞骨格を構成するアクチン繊維の上を運動することによって発生することが知られています。これまでに研究グループは、高速型ミオシンの開発によりモデル植物であるシロイヌナズナの成長促進やサイズの大型化を明らかにしてきており、この技術のシロイヌナズナ以外の植物への応用が期待されていました。
今回研究グループは、カメリナにシロイヌナズナミオシンXI由来の高速型ミオシンXI遺伝子を異種発現させ、カメリナの茎や葉の成長が促進されるとともに、種子数も増加することを明らかにしました。
本成果により、高速型ミオシンXIはシロイヌナズナ以外の植物において、成長促進や種子の増産に有効であることが初めて示されました。また、近縁種であれば、異種の高速型ミオシンXI遺伝子を発現させることでも、増産効果が得られることが明らかとなりました。
本研究成果は、2020年6月16日(日本時間)に植物細胞分子生物学会誌「Plant Biotechnology」のオンライン版で公開されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)
研究領域:「生物資源の制御によるバイオマス・有用成分の増産」
(運営総括:近藤 昭彦 神戸大学 教授)
研究開発課題名:「原形質流動の人工制御:植物バイオマス増産の基盤技術としての確立」
研究開発代表者:富永 基樹(早稲田大学 教育・総合科学学術院 准教授)
研究開発期間:平成26年10月~令和2年3月
あらゆる植物の細胞内では、原形質流動と呼ばれる細胞内輸送がみられます。シロイヌナズナで原形質流動を発生しているミオシンモーターを人工的に高速化したところ、植物の大型化が明らかとなりました。本研究課題では、ミオシンのさらなる高速化によりシステムとしての完成を進めるとともに、資源植物として有望視されているイネでの検証実験を行い、さまざまな植物バイオマス増産に適応可能な普遍的基盤技術としての確立を目指します。
<論文タイトル>
- “Heterologous transformation of Camelina sativa with high-speed chimeric myosin XI-2 promotes plant growth and leads to increased seed yield”
(カメリナにおける高速型キメラミオシンXI-2の異種発現は植物成長や種子生産を増強させる) - DOI:10.5511/plantbiotechnology.20.0225b
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
富永 基樹(トミナガ モトキ)
早稲田大学 教育・総合科学学術院 准教授
<JST事業に関すること>
大矢 克(オオヤ マサル)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部 低炭素研究推進グループ
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
早稲田大学 広報室 広報課
千葉大学 企画総務部 渉外企画課 広報室