謎の爆発現象AT2018cowの正体に、偏光観測で迫る

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2019-11-19   国立天文台

台湾・中原大学の黄麗錦氏、東北大学の霜田治朗氏、當真賢二氏、台湾・中央大学の浦田裕次氏らを中心とした国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使って謎の爆発現象 AT2018cowを観測し、スペクトルの時間変動と微弱な偏光の特性を調べました。その結果、爆発が潮汐破壊現象ではなく、超新星後に形成されるブラックホール又は中性子星をエンジンとするコンパクト天体であれば観測結果を無理なく説明でき、謎の爆発現象の解明が大きく一歩すすみました。さらに、アルマ望遠鏡で高周波の偏光特性を詳しく調べれば、AT2018cowや同様の突発天体が高エネルギー宇宙線の起源であることを検証でき、マルチメッセンジャー天文学へ活用できることを示しました。

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謎の爆発現象AT2018cowの想像図

Credit: 国立天文台

AT2018cowは、小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS、アトラス)チームがハワイに設置した50cm光学望遠鏡を使って、2018年6月16日(UT、以下日時は全て同様)にヘルクレス座の方角およそ2億光年の距離にある系外銀河CGCG 137-068で発見されました。可視光で急速に増光し、一般的な超新星の少なくとも10倍の明るさがあり、X線や電波でも非常に明るい対応天体が発見された極めてエネルギーの高い突発天体でした。ハワイにあるサブミリ波干渉計(SMA)によるミリ波・サブミリ波での集中的な追観測を行っていた、カリフォルニア工科大学を中心としたグループやノースウェスタン大学のラファエラ・マルグッティ(Raffaella Margutti)氏らのグループの多波長観測の結果から、爆発現象そのものとは別に、中心にそれらの放射を支える機関、つまりエンジンのようなものが必要であることが示されていました(2019年1月発表の観測成果『謎の爆発現象AT2018cowの正体に迫る』)。

黄氏ら国際観測チームによるアルマ望遠鏡の観測は発見から11日後と17日後の2回行われました。アルマ望遠鏡の一般的な観測は毎年4月に提出された観測提案に基づいて行われますが、突発天体の観測に対応するために「所長裁量時間」が設けられています。研究チームは、これまでの宇宙最大規模の爆発現象であるガンマ線バーストの追跡観測の経験をもとに、発見からわずか6日後に所長裁量時間による観測を行うための特別な提案を行い、その3日後に観測を実行することが認められました。3つのAT2018cow観測計画が所長裁量時間として採択され、黄氏らの観測はその中の1つです。提案責任者の黄氏は、「突発天体の観測は、週末も関係なく準備して行う必要がありましたので、観測をサポートするアルマ望遠鏡スタッフに感謝します。特に、アルマ望遠鏡がある時差が真逆のチリと連絡を取るために週末の深夜・早朝まで対応してくれたサポートサイエンティストの謝佩穎博士(台湾・中央研究院)には大変感謝しています」と語ります。

国際研究チームは、アルマ望遠鏡の高い感度と偏光観測機能を活かして、高エネルギー天体現象に特有な放射のスペクトルピークの前後でAT2018cowの微弱な偏光特性を測定することに成功しました。11日後の1回目の観測後に、すばやくデータを確認することで、17日後の2回目の観測がスペクトルのピークよりも高周波側で行えるように観測を修正しました。解析を担当した浦田氏は、「謎の突発天体の変動を限られたデータからすばやく予想して次の計画を立てることは突発天体観測の醍醐味です」と語ります。研究チームは、さらに12mアレイとモリタアレイで同時に、しかも異なる周波数帯でAT2018cowを観測することで、時々刻々と変動する天体のスペクトルを広い周波数の帯域で効率よく取得しました。これにより、特異な突発天体を理解するのに欠かせないスペクトルのピークの時間変動も精度よく測定することに成功しています。霜田氏は、「観測結果は、高密度・強磁場の環境下でAT2018cowが発生していることを示唆しています。これは、AT2018cowがブラックホールに近づきすぎた星が壊れる潮汐破壊現象ではなく、超新星後に形成されるブラックホール又は中性子星をエンジンとするコンパクト天体を起源とする説で自然に説明できます。」と語ります。

霜田氏はさらに「AT2018cowが特異な超新星であれば、高エネルギー宇宙線の加速器であることが期待されます」とコメントしています。宇宙線とは、約100年前にヴィクトール・フランツ・ヘス(Victor F. Hess)により発見された宇宙空間を飛び交う荷電粒子のことで、その起源は今もって解明されていません。起源となる天体は、天体の磁場によって宇宙線を閉じ込める必要があり、天体のプラズマ中に発生する大小さまざまな渦(磁気乱流)のサイズが大きいほど、エネルギーの高い宇宙線をつくれます。最も大きい渦が取り得るサイズは、電波の偏光観測で見積もることができます。今回のミリ波(230GHz)での測定を考慮すると、もっと高周波数帯のテラヘルツ波付近で微弱な偏光を捉えることができれば、AT2018cowのような特異な超新星が宇宙線の起源であることが検証でき、さらなるアルマ望遠鏡での観測で実現できると期待されます。

論文・研究成果

この観測成果は、Huang, Shimoda et al. “ALMA Polarimetry of AT2018cow”として、2019年6月12日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

黄麗錦(台湾・中原大学)、霜田治朗(東北大学)、浦田裕次(台湾・中央大学)、當真賢二(東北大学)、山岡和貴(名古屋大学)、浅田圭一(台湾・中央研究院)、永井洋(国立天文台/総合研究大学院大学)、高橋智子(合同アルマ観測所/国立天文台/総合研究大学院大学)、パーティパス グレン(米国・ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)、田代信(埼玉大学)

この研究は、台湾科技部研究補助金(MoST 105-2112-M-008-013-MY3、MoST106-2119-M-001-027)、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 18H01245)および台湾教育部の支援を受けています。

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