ジャコビニ・ツィナー彗星から複雑な有機物由来の赤外線輝線バンドを検出

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2019-11-19   国立天文台

原始太陽系で作られた彗星の有機物が地球にもたらされる様子の模式図原始太陽系で作られた彗星の有機物が地球にもたらされる様子の模式図。彗星は原始太陽系円盤の中で形成された微惑星の生き残りと考えられています。そのほとんどが氷とダストでできていますが、有機分子にも富むことが知られています。彗星に複雑な有機分子が存在すれば、それらは水や様々な分子とともに、地球との衝突や彗星から放出されたダストによる流星という形をとって原始地球に降り注いだと考えられます。(クレジット:京都産業大学) オリジナルサイズ(1.1MB)

彗星(すいせい)は、地球に水や有機物をもたらした起源天体の一つと考えられていますが、その起源は現在でも完全には理解されていません。彗星にどの程度の有機物が存在するのか、またどういう経路を通じて地球に運ばれたのかなど、まだまだ解明すべき点があります。

今回、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、京都産業大学(神山天文台)、国立天文台、岡山理科大学の研究チームは、「10月りゅう座流星群」の母天体であるジャコビニ・ツィナー彗星(21P/Giacobini-Zinner)について、2005年7月5日(世界時)にすばる望遠鏡の中間赤外線観測装置「COMICS(コミックス)」で観測されたデータを詳細に解析しました。その結果、この彗星に含まれるシリケイト(ケイ酸塩)鉱物由来の輝線バンドに加えて、彗星において未知の輝線バンドを検出しました。これら未知の輝線バンドは、脂肪族炭化水素や多環芳香族炭化水素といった複雑な有機分子に起因する可能性が高く、ジャコビニ・ツィナー彗星に大量の有機物が含まれていることが明らかになりました。こうした有機物は高温環境で形成されやすいことが知られています。

一方で、彗星形成時における「太陽からの距離」の指標となるシリケイト鉱物の結晶度は彗星の平均的な値を示すことも分かりました。すなわち、ジャコビニ・ツィナー彗星は「太陽からの距離」という観点では、他の多くの彗星と似たような領域で形成されたと考えられます。

これらの結果を総合すると、ジャコビニ・ツィナー彗星は、太陽からの距離は他の彗星と似ているにも関わらず、他の彗星より暖かい場所で形成された可能性が示されました。このような特殊な場所の有力な候補として、原始太陽系円盤では木星などの巨大惑星周囲に作られる「周惑星円盤」が挙げられます。周惑星円盤は周囲よりも密度が濃く温度も高くなるため、有機物が形成される可能性が高いのです。

彗星の本体である氷微惑星は今から約46億年前の原始太陽系円盤中で形成されたと考えられていますが、本研究により、その形成領域と温度環境に大きな多様性があることが明らかになりました。さまざまな環境で作られた彗星の一部には、暖かい環境で作られた複雑な有機物をたくさん含んでいるものもあり、その彗星から放出された物質が、流星という形で太古から地球へこうした有機物を供給してきたと考えられます。

この研究成果は、国際的な惑星科学誌『イカルス』に2019年11月18日付で掲載されました。
T. Ootsubo et al. “Unidentified infrared emission features in mid-infrared spectrum of comet 21P/Giacobini-Zinner”