B型肝炎ウイルスを細胞内へと導くものたち

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ウイルスの細胞内侵入経路を解明

2019-04-02 日本医療研究開発機構

九州大学大学院理学研究院の岩本将士特任助教、岩見真吾准教授、国立感染症研究所の渡士幸一主任研究官らの国際共同研究グループ(日本とフランスの共同研究)は、B型肝炎ウイルス(HBV)が細胞へ感染する仕組みを新たに解明しました。

HBVの持続感染者は世界でおよそ2億6千万人、日本で100万人にのぼると推計されており、肝硬変や肝細胞がんの主要原因となります。HBVは肝細胞表面に存在するナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP)に結合することで標的肝細胞に吸着しますが、その後どのように細胞内へ侵入するかはこれまで明らかでありませんでした。研究グループは独自のHBV感染実験系を用いて、上皮成長因子受容体(EGFR)がHBVの細胞内侵入を媒介することを明らかにしました。NTCPとEGFRはもともと細胞表面から内部までを共に移動していますが、HBVはこれに「乗車」することで細胞内部まで効率よく到達すること、EGFRとNTCPの共動関係を解消すればHBVは受容体NTCPに結合したまま細胞内部へは至らないことが示されました。EGFRは抗がん剤の標的としても知られており、既存のEGFR標的薬がHBV感染を阻害することも明らかになりました。この研究成果はHBV感染機序の理解を深めるだけでなく、新規HBV治療薬の開発に大きく貢献すると期待されます。

本研究の一部は、日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究革新イニシアティブ「ウイルス感染ネットワークの動的制御による持続感染の運命決定機構」(研究開発代表者 渡士幸一)、肝炎等克服実用化研究事業「ケミカルバイオロジー・数理解析を利用したB型肝炎創薬研究」(研究開発代表者 渡士幸一)の支援を受けています。

本研究成果は、2019年4月1日(月)午後3時(米国東部時間)に米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に掲載されます。


(参考図)

本研究で明らかにしたHBV細胞内侵入モデル図(左絵)とその阻害方法(右絵)。HBVは受容体NTCPと結合した後、受容体共役因子EGFRと共に細胞内へ侵入する。EGFR阻害剤ゲフィチニブはEGFRの機能を阻害することで、ウイルス感染を防ぐことができる。

研究の背景

B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染者は世界でおよそ2億6千万人にのぼると推定されています。HBV感染を原因とした肝硬変・肝がんなどの発症は毎年80万人以上の死亡要因(2017年 WHO統計)となり、公衆衛生上対策が急務の感染症です。そのため、HBVを治療・予防する抗ウイルス薬の開発が強く求められていますが、そのためにはHBVがどのように宿主に感染し増殖するのかを理解することが重要です。これまでHBVが標的肝細胞にどのように侵入するかに関しては、ほとんど明らかではありませんでした。

内容

本研究で九州大学および国立感染症研究所を中心とした国際研究グループは、HBVが細胞内へ侵入する際に上皮成長因子受容体(EGFR)が必須であることを明らかにしました。HBVは受容体であるナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP)と結合することで標的細胞へ吸着しますが、その後どのように細胞内への侵入が制御されているかはわかっていませんでした。今回、EGFRはNTCPと相互作用し細胞内を移動していること、HBVはこのNTCP-EGFR複合体と共に細胞表面から細胞内へと侵入することがわかりました。EGFRを欠損させた細胞ではNTCPと結合したHBVが細胞内へと侵入することができず、細胞表面に留まり続けました。また、EGFRと結合しないNTCP変異体はHBVと吸着はできますが、細胞内への侵入を誘導できませんでした。つまりEGFRはHBV-NTCPの細胞内への侵入の駆動力になっていると考えられました。EGFR とNTCPの結合をペプチドで阻害した場合、またEGFRの機能を阻害する化合物の存在下ではHBVが細胞内へ侵入できず、HBV感染が阻害されることを示しました。これら研究成果はNTCPのウイルス受容体機能にはEGFRが必須であり、EGFRがHBVの細胞内侵入を媒介する受容体共役因子であることを初めて明らかにしたものです。

今後の展開

本研究ではHBVの宿主細胞表面から細胞内部への侵入開始にはEGFRが重要な役割を果たすことを明らかにしました。EGFRは細胞の生存に必須であり多様な生理機能を有していることから、これまで最も研究されて来た膜タンパク質の1つです。過去の膨大なEGFR研究の知見を利用して、未だ明らかとなっていないHBV感染機序を解明することができると期待できます。

また、EGFRを標的とした薬は抗がん剤としてすでに開発されており、その一つであるゲフィチニブがHBV感染を阻害することも示しました。本研究成果を利用して新たな抗ウイルス薬の開発が可能になると考えられますので、今後この成果から日本独自の創薬研究を発展させていきたいと思います。

発表論文
雑誌名:
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
論文名:
“Epidermal growth factor receptor is a host entry cofactor triggering hepatitis B virus internalization”
著者名:
Masashi Iwamoto, Wakana Saso, Ryuichi Sugiyama, Koji Ishii, Mio Ohki, Shushi Nagamori, Ryosuke Suzuki, Hideki Aizaki, Akihide Ryo, Ji-Hye Yun, Sam-Yong Park, Naoko Ohtani, Masamichi Muramatsu, Shingo Iwami, Yasuhito Tanaka, Camille Sureau, Takaji Wakita, Koichi Watashi.
DOI:
10.1073/pnas.1811064116
謝辞

本研究の一部は、日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)、肝炎等克服実用化研究事業の支援を受けています。

お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ先

国立感染症研究所
主任研究官 渡士 幸一(わたし こういち)

報道に関するお問い合わせ先

九州大学広報室

国立感染症研究所総務部調整課

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 感染症研究課

感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)

肝炎等克服実用化研究事業

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