新たなフォトニック結晶構造を用いて半導体レーザーの高輝度化に成功

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~来たるべき超スマート社会におけるスマート製造やスマートモビリティーに貢献~

2018/12/18 京都大学,科学技術振興機構(JST)

京都大学 工学研究科の野田 進 教授、吉田 昌宏 博士課程学生、メーナカ・デ・ゾイサ 講師、石崎 賢司 助教、および河崎 正人 研究員(三菱電機から京大に常駐)らのグループは、独自の「2重格子フォトニック結晶注1)」共振器を用いて、半導体レーザーの高輝度注2)化(=高出力・高ビーム品質注3)動作)に成功しました。

来たるべき超スマート社会(Society 5.0)においては、スマートモビリティー(自動車やロボットの自動運転)やスマート製造の核となる高度センシングや光加工のための、高輝度半導体レーザーが必要とされています。しかしながら、従来の半導体レーザーは、高輝度化のため、光出射面積を増大し高出力化を図ろうとすると、ビーム品質が劣化し、逆に輝度が低下するという問題がありました。研究グループは、光出射面積を従来の半導体レーザーの10,000倍以上大きくしてもビーム品質の劣化がない、新たなフォトニック結晶構造「2重格子フォトニック結晶」を考案し、10W級の高出力でありながら、ビーム拡がり角が極めて狭く(<0.3˚)、極めて高いビーム品質(M2~2)を達成し、高安定・高輝度動作に初めて成功しました。この成果は、フォトニック結晶レーザーが今後の超スマート社会を支える光源として極めて有望であることを示すものです。

本成果は、2018年12月18日(日本時間)、国際学術誌「Nature Materials」のオンライン版で公開されます。

本研究は、以下の事業・研究開発課題により支援を受けました。
戦略的創造研究推進事業 ACCEL
研究開発課題 :フォトニック結晶レーザーの高輝度・高出力化」(JPMJAC1303)
研究代表者 :野田 進
プログラムマネージャー :八木 重典
研究開発期間 :2013年度~2017年度
本プロジェクト推進中に、高ビーム品質・高出力動作(=高輝度動作)を可能とする「2重格子フォトニック結晶共振器」の基本概念創出とその実証に成功しました。
<背景>

半導体レーザーは、これまで、波長域の拡大や高速化などの性能向上により、小型・安価・低消費電力という特性を生かして、特に情報通信・光記録分野において広く普及し、社会に大きく貢献してきました。しかしながら、従来の半導体レーザーは、輝度(すなわち、レーザー光をいかに強く集光できるか、あるいは、ビーム拡がりをいかに狭くできるかの指標)に限界があり、これがボトルネックとなって、高輝度が要求される光加工、高度センシング、医療・生命科学分野への展開においては、大がかりな炭酸ガス(CO2)レーザーなどの気体レーザーや、固体・ファイバーレーザーなどが主に用いられているのが現状です。

来たるべき超スマート社会(Society 5.0)におけるスマート製造においては、その核となる光加工用光源として、小型・安価・低消費電力・高制御性という半導体レーザーの持つ特徴を生かすことが必須であり、半導体レーザーの安定した高輝度動作の実現は極めて重要です。小型でワンチップの半導体レーザーを高輝度化することができれば、直接半導体レーザー加工が可能になり、レーザー加工機の超小型化・低消費電力化・低コスト化が進むものと期待され、さらに、ロボットへの直接搭載なども可能となり、その適用範囲の大幅な拡大が期待されます。

また、高輝度半導体レーザー光源技術は、近年、世界中で活発化しているスマートモビリティー、すなわち、自動車の自動運転や、ロボットの自動走行などに向けたLiDAR注4)などの高度センシングシステムへの応用においても極めて重要です。この分野では、現在、ビーム品質の悪い低輝度の半導体レーザーを用いた検討がなされていますが、複雑な光学系や複雑な制御・調整が必須であり、コストの増大、サイズの増大、さらには信頼性の低下などの問題を生じています。このような課題を克服できるような高安定かつ高輝度の半導体レーザー光源が開発できれば、スマートモビリティーの実現に大きく貢献することが可能になると期待されます。

<研究手法・成果>

上述のような背景のもと、従来の半導体レーザーの限界を打破し、高安定・高輝度半導体レーザー実現の決め手となると期待されているのが、「フォトニック結晶レーザー」です。本レーザーは、フォトニック結晶の活用により、原理的に、大面積でも単一モード動作注5)(=高ビーム品質動作)が可能という特長を有しています。そのため、フォトニック結晶レーザーの発光面積を拡大していくことで、光出力を増大させつつも、高い集束性を得ることができ、従来の半導体レーザーの限界を超える輝度を得ることが可能となると期待されます。

本研究においては、このフォトニック結晶レーザーの心臓部となるフォトニック結晶共振器として、「2重格子フォトニック結晶」(図1)という、2つのフォトニック結晶をxおよびy方向に4分の1波長だけずらして重ねた独自の共振器構造を提案し、この新たな共振器を用いることで、500μmφ以上という従来の半導体レーザーの10,000倍以上の大面積であっても、単一モード動作を実現しました。これにより、狭出射角(<0.3°)で、10W級の高出力・高ビーム品質(M2~2)動作、すなわち、300MWcm-2sr-1以上という輝度を達成し、これまでの半導体レーザーを超える高安定・高輝度動作を実現することに成功しました(図2)。このことは、大型のガスレーザーやディスク/ファイバーレーザーに迫る輝度(≧1GWcm-2sr-1)を持つ高安定・高輝度半導体レーザーの実現がいよいよ視野に入ってきたこと、すなわち、来たるべき超スマート社会におけるスマート製造やスマートモビリティーへの適用可能性が見えてきたことを意味し、その意義は極めて大きいと言えます。

<波及効果、今後の予定>

今後は、この進展著しいフォトニック結晶レーザー技術をさらに発展させ、その高機能化(10~100psの短パルス動作や青紫色の短波長領域への展開)の推進強化、さらに、一層の高輝度化、スマート化(例えば機械学習との融合など)を推進していきます。これらの研究推進により、ガスレーザーやファイバーレーザーに迫る輝度(≧1GWcm-2sr-1)が実現され、また、短パルス・短波長動作が実現されると、いよいよ、加工・製造(精密加工、金属加工など含む)、高度センシング・計測、さらには医療・生命科学へと、小型・安価・低消費電力・高制御性の半導体レーザーをメインプレーヤーとして適用していくことが可能となるものと期待されます。これらは、超スマート社会(Society 5.0)を支える鍵となり、そのインパクトは極めて大きいと言えます。

さまざまな調査機関の調べによると、加工分野や、LiDARなどのセンシング分野は、極めて大きな市場を持つことが予測されています。加工分野では、コンパクト性や高い効率が得られるフォトニック結晶レーザー単体あるいは少数の合波で、従来の大型レーザーを置き換え、発展させることで、大きなイノベーション創出が期待されます。また、センシング分野では、フォトニック結晶レーザーの、ビーム整形用の光学系が不要、高いSN比(信号雑音比)、高い環境変化耐性などの特徴から、市場での優位性が期待されます。さらに、これらに加えて、光源(ヘッドライト、プロジェクターなど)、医療・美容(レーザーメス、レーザー治療、脱毛など)や生命科学分野(レーザー顕微鏡など)への応用においても、高ビーム品質を生かした大きな波及効果が期待されます。

<研究者のコメント>

1999年にフォトニック結晶レーザーを発明して以来、着実に研究開発を進め、2014年に0.2W級のフォトニック結晶レーザーの実用化を開始、さらに、今回、高出力・高ビーム品質動作(~10W、M2~2)、すなわち輝度300MWcm-2sr-1以上の実現に初めて成功することができました。今回の成果は、まさに、フォトニック結晶レーザーの持つ大面積でコヒーレント発振可能という特長(他の半導体レーザーでは実現が困難な特長)を明快に示した結果であると言え、超スマート社会(Society 5.0)におけるスマート製造を支える超小型加工システムへ向けた高輝度半導体レーザー光源として、また、スマートモビリティーを支える高輝度センシング光源としての発展の基礎が築かれたと考えています。今後、フォトニック結晶レーザーの一層の高輝度化とスマート化、さらには、その社会実装を目指し、研究を進めていきたいと思っています。

<付記>

本研究は、以下のプロジェクトからも支援を受けました。

  • 文部科学省「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」(2008年度~2017年度):本プログラムにおいて、フォトニック・ナノ構造の作製プロセスの一部を構築するとともに、連携ネットワークのメリットを生かし、さまざまな研究推進ヒントを得ることができました。
  • NEDOプロジェクト(2016年度から推進中):JST ACCELプロジェクトの成果をもとにして、短パルス化、短波長化を目指したもの。短パルス化動作の肝になるのが2重格子共振器であり、本NEDOプロジェクトで行った時間領域での理論・実験研究により、2重格子共振器のさらなる深化(安定な単一モード共振器の詳細設計)を達成することができました。
<参考図>
図1 フォトニック結晶レーザーと「2重格子フォトニック結晶」共振器の模式図

図1 フォトニック結晶レーザーと「2重格子フォトニック結晶」共振器の模式図

図2

図2

(左)室温パルス動作時の電流-光出力特性。連続動作時にも、~7Wという高い出力が得られています。
(右上)10W動作時の近視野像および遠視野像。
(右下)さまざまな光出力におけるビーム品質。極めて狭いビーム拡がり角(<0.3˚)で、高いビーム品質(M2~2)(=高輝度動作)が得られています。

<用語解説>
注1)フォトニック結晶
光の波長程度の周期的屈折率分布を持つ光材料で、さまざまな光制御が可能な光ナノ構造として注目されています。本研究では、図1に示すような、2つのフォトニック結晶をxおよびy方向に4分の1波長だけずらして重ねた、新たな「2重格子フォトニック結晶」を考案しました。
注2)輝度
レーザー光をいかに強く集光できるか、あるいは、ビーム拡がりをいかに狭くできるかを示す指標であり、単位面積、単位立体角あたりの光出力と定義されます。高輝度化を実現することは、光加工や高度センシングへの応用上極めて重要です。下記、注3)のビーム品質と密接な関係があり、ビーム品質が高いほど、輝度を高くできます。
注3)ビーム品質
レーザービームの集束性、発散性の指標であり、上記、注2)の輝度と密接に関係します。ビーム品質の定量的な指標の1つとして、理想的なビーム(=ガウスビーム)に近いかどうかという観点で、M2(エムスクエア)が用いられます。M2が小さいほど、ガウスビームに近く、M2=1~2が理想的なビーム品質と言えます。通常の半導体レーザーでは、高出力化のため、ビーム出射領域を、数10μm~100μm程度に増大すると、ビーム品質が著しく劣化し、M2>数10~100となります。上記、注2)の輝度は、M2に逆比例し、M2が大きくなると急激に輝度が低下します。
注4)LiDAR
Light Detection and Ranging(LiDAR)は、レーザー光を用いたリモートセンシング技術の1つであり、パルスレーザー光を出射し、それに対する散乱光を検出することで、遠距離にある対象物までの距離やその対象の性質を分析するものです。近年、自動車やロボットの自動運転に不可欠なセンシング技術として関心を集めています。
注5)単一モード動作
モードとは、半導体レーザーの動作の形態を表します。単一モード動作とは、発振状態が安定した1つの形態のみで動作する様を表します。半導体レーザーが単一モードで動作することにより、上記、注3)で述べた理想的なガウスビームに近いビームが得られ、高ビーム品質動作が実現されます。
<論文情報>

タイトル : “Double-lattice photonic-crystal resonators enabling high-brightness semiconductor lasers with symmetric narrow-divergence beams”
(半導体レーザーの狭出射角・高輝度動作を可能とする「2重格子フォトニック結晶共振器」)
DOI : 10.1038/s41563-018-0242-y

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
野田 進(ノダ ススム)
京都大学 大学院工学研究科 教授

<JST事業に関すること>
寺下 大地(テラシタ ダイチ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当>
京都大学 総務部 広報課 国際広報室
科学技術振興機構 広報課

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