2018/11/06 環境省
「WMO/UNEP オゾン層破壊の科学アセスメント」が4年ぶりに更新されるにあたり、このたび総括要旨が公表されました。大気中のオゾン層破壊物質の量が減少し、成層圏オゾンの回復が始まっていること等がとりまとめられています。
「オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書」の下に設置されている科学評価パネルでは、世界気象機関(WMO)、国連環境計画(UNEP)と連携し、概ね4年ごとに「WMO/UNEP オゾン層破壊の科学アセスメント」をとりまとめています。11月5日(月)、キト(エクアドル)で開催中のモントリオール議定書第30回締約国会合(MOP30)において、2018年版アセスメントの総括要旨が公表されました。
<要旨掲載URL>
要点は以下のとおりです。
- モントリオール議定書の下に実施された施策により、大気中のオゾン層破壊物質の量が減少し、成層圏オゾンの回復が始まっている。
- (モントリオール議定書の)キガリ改正により、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)を要因とする2100年における全球平均地上気温の上昇を(規制無しの場合の)0.3~0.5℃から0.1℃以下に抑制すると予測される。
- CFC-11の全球での放出量が予期せず増加している。
- 四塩化炭素の主要な放出源は、以前は認識されていなかったが、定量的に特定されている。
- 成層圏オゾンの保護のため、モントリオール議定書を継続して成功させるためには、議定書を継続して遵守することが不可欠である。
また、アセスメントにおいては、クロロフルオロカーボン類(CFCs)、ハロンおよびハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)を回収して破壊する等の対策を行うことで、キガリ改正による対策に加えて更なるオゾン層回復効果があるとしています。
上記内容を含んだ概要の日本語訳は別紙のとおりです。
今後、レポート本体が12月末に科学評価パネルから国連環境計画に提出される予定です。気象庁・環境省は、これらの科学的評価を踏まえつつ、引き続きオゾン層の観測・監視を実施していきます。
添付資料
「WMO/UNEP オゾン層破壊の科学アセスメント:2018」の総括要旨の概要(仮訳)
オゾン層破壊の科学アセスメントは、その原稿作成と査読に貢献した世界中の多くの科学者たち の見解を反映させることによりオゾン層破壊に関する科学的な理解の進展をまとめたものであり、 モントリオール議定書締約国による意思決定のための科学的な基盤を追加するものである。このア セスメントは、期間を延ばした観測データ、新しい化学気候モデルシミュレーション及び新しい解 析結果に基づいている。
モントリオール議定書の下に実施された施策により、大気中のオゾン層破壊物質の量が減少し、成 層圏オゾンの回復が始まっている。
●モントリオール議定書により規制された長寿命のオゾン層破壊物質に起因する対流圏の塩素と 臭素の量はともに、前回のアセスメント(2014年)以降も減少を続けている(図1(a))。
● 今回得られた重要な根拠から、オゾン層破壊物質の減少が、以下のようなオゾン変化傾向に大 きく影響していることが示唆される。
南極オゾンホールは、毎年発生しているが、回復傾向にある。モントリオール議定書による規 制の結果、極域において近年発生しているものを大きく上回る顕著なオゾン破壊はみられなく なった。 極域外側(中緯度と熱帯)の上部成層圏オゾンは、2000年以降、10年あたり1~3%増加して いる(図2)。
● 1997~2016年の全球(南緯60度~北緯60度)のオゾン全量には、有意な変化傾向は確認できず、 前回のアセスメント以降もオゾン全量の平均は、1964~1980年(顕著なオゾン破壊が起こる 前の期間)よりおよそ2%少ない状態を保っている。
● 今世紀後半のオゾン層の変化予測は、地域によって増加あるいは減少というように複雑になっ ている。オゾン全量が1980年(オゾン破壊が顕著になる前の指標となる年)の量に回復するの は、北半球中緯度では2030年代、南半球中緯度では今世紀半ば頃と予測される。南極オゾンホ ールは、次第に縮小し、(南極オゾンホールが発生する)春のオゾン全量が1980年の量に回復 するのは2060年代と予測される(図1(d))。
(モントリオール議定書の)キガリ改正により、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)を要因と する2100年における全球平均地上気温の上昇を(規制無しの場合の)0.3~0.5℃から0.1℃以下に 抑制すると予測される(図3)。
キガリ改正の規定による気温上昇抑制の大きさ(0.2~0.4 ℃)は、今世紀における全球平均地上 気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に抑えることを目的とした2015年のパリ協定にお いて大きな意味合いを持つ。
CFC-11の全球での放出量が予期せず増加している(図4)。
2つの独立したネットワークによる観測によれば、全球のCFC-11排出量は2012年以降増加して おり、前回アセスメント(2014年)で報告された大気中濃度の安定した減少は鈍化している。 2014~2016年の全球の濃度減少率は、2002~2012年に比べ2/3にとどまっている。東アジアか らのCFC-11の排出量は、2012年以降増加しているが、全球の排出量の増加にどれだけ寄与し ているかは良くわかっていない。どの国(々)で排出量が増加しているかも特定されていな い。
四塩化炭素の主要な排出源は、以前は認識されていなかったが、定量的に特定されている。
四塩化炭素の発生源には、クロロメタン類やテトラクロロエチレンの生産過程の意図しない副 産物としての排出や、塩素アルカリ過程の一過性の排出が含まれる。四塩化炭素の全球の収支 は、前回アセスメント(2014年)以上によく理解されており、以前確認されていた、観測から 推測される排出量と産業統計から見積もられる排出量の差は大きく減少している。
成層圏オゾンの保護のため、モントリオール議定書を継続して成功させるためには、議定書を継続 して遵守することが不可欠である。
●オゾン層の回復を早めるために可能な施策は限られているが、それは効果的な行動が既に実施 されているためである。残されている施策として、四塩化炭素やジクロロメタンなど規制済及 び未規制の物質の排出を完全になくすこと、未破壊のCFCs、ハロン及びHCFCsを回収して破 壊すること、HCFCsと臭化メチルの生成を廃止することがあり、それぞれオゾン回復に一定 の効果をもたらす。二酸化炭素、メタン及び一酸化二窒素の将来の排出は、気候と大気化学過 程への影響を通して、将来のオゾン層にとって極めて重大な意味合いを持つ。一酸化二窒素の 排出の緩和によっても、オゾン回復に一定の効果をもたらす。
- 連絡先
- 環境省地球環境局地球温暖化対策課フロン対策室
室長 馬場 康弘
室長補佐 中村 祥 (内線6752)