2018-01-26 JR Iレビュー 2018 Vol.2, No.53 株式会社日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 藤田 哲雄
1.オープンイノベーションの概念が提唱されて10年以上になるが、わが国における取り組みはあまり進んでいない。産学連携については、徐々に成果を挙げつつあるが、大企業の半数以上において、オープンイノベーションへの取り組みは10年前と変化していない。
2.これまでわが国のオープンイノベーションに関する政策は、専ら産学連携の促進に向けたものであったが、2015年頃より、大企業とベンチャー企業のオープンイノベーションが重要であることの認識が広まった。また、産学連携についても研究開発フェーズのみならず、探索や事業化のフェーズでも施策が必要であることが認識されるようになった。もっとも、このように拡大したオープンイノベーションの捉え方は、まだ政策には反映されていない。
3.イノベーションとは本来、既存の知識の新結合を意味し、必ずしも新製品や新技術を生み出す必要はない。オープンイノベーションで期待されるのは、外部の知識と自社の知識を結合させることによって、新たな価値を生み出し事業化することである。
4.わが国の大企業は、既存事業に集中する守りの経営を続けてきたことにより、独力で新規事業を生み出す力が弱い。このようななか、ベンチャー企業とのオープンイノベーションを通じた新規事業創造への取り組みが広がっている。それにはさまざまな方法が利用されているが、なかでもアクセラレーターやコーポレートアクセラレーターは近年登場した新たな手法として注目されている。
5.わが国の企業にオープンイノベーションが必要なのは、新しいデジタル技術の普及によって、従来のビジネスモデルが大きく変化しつつあること、また、商品・サービス別の業界構造から社会エコシステムへの構造転換に対応する必要があること、が理由である。
6.欧州ではオープンイノベーションは産業、大学、政府のほか、ユーザーもしくは市民を巻き込んだオープンイノベーション2.0へと概念を発展させている。その目的は企業の成長ではなく、社会課題の解決である。このような捉え方は、デジタル変革によって現在起こりつつあるイノベーションが、単なる企業の成長にとどまらず、イノベーションがもたらす産業や社会の構造を変化にも対応できるものとして注目される。
7.わが国の企業は、オープンイノベーションに本格的に取り組み始めたばかりであるが、中長期的に育てる心構えが必要である。政府は、産学連携に資源を集中するのではなく、企業間のオープンイノベーションの促進政策を検討すべきである。オープンイノベーションは、産業や社会構造の変化と裏表の関係にあり、従来の規制体系をどのように新たなエコシステムに対応させていくかを検討すべきであろう。