-未踏の原子核世界の開拓が加速-
2017-12-22 理化学研究所
要旨
理化学研究所(理研)仁科加速器研究センターRIビーム分離生成装置チームの福田直樹仁科センター研究員、吉田光一チームリーダーらの国際共同研究グループ※は理研の重イオン[1]加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[2]」を用いて、マンガンからエルビウム(原子番号25~68)まで73種の新しい放射性同位元素(RI)[3]を発見しました。
2017年8月、欧米の重力波[4]望遠鏡が中性子星合体[5]による重力波を初めて検出し、注目を集めました。現在、鉄よりも重い元素(重元素)は、中性子星合体のような特殊な環境下で原子核の連続的な中性子捕獲反応[6]とβ崩壊[6]との競合が起こり、その果てにRIを経由して合成された(r過程[6])、と考えられています。このr過程元素合成の謎を解明するには、それらRIのさまざまな性質を調べることが必要です。しかし、RIを人工的に作る際の生成率は非常に低いため、新しいRIの生成は容易ではありません。
これまで、RIBF加速器施設に設置された超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)[7]を用いた研究では、2007年に初めて新しいRIを発見して以降、59種の新RIの発見が論文発表されています注1~3)。国際共同研究グループは、2011年~2013年に加速器の性能向上によりビーム強度が以前の約10倍に増強されたことから、再び新RIの発見に挑みました。探索実験では、ウラン-238およびキセノン-124ビームを、超伝導リングサイクロトロン(SRC)[8]で光速の70%まで加速後、標的のベリリウム原子核に衝突させて引き起こされる飛行核分裂反応[9](ウランの場合)および入射核破砕反応[10](キセノンの場合)を利用してRIを生成し、BigRIPSで収集・分析し、同定しました。その結果、マンガンからエルビウムまでの73種の新RIを発見することに成功しました。RIBFでは累計132種の新RIの発見が確定したことになります。
上述の132種以外にも、約62種の新RI候補の生成を確認しており、現在、最終確認に向けた解析の最中です。今後、総計約194種類の新RIの発見が論文発表される見込みです。RIBF加速器施設では圧倒的なRI生成能力を背景に、加速器系やBigRIPSの性能向上を通じて、さらなる新RIの発見が期待できます。
本成果は4報の論文として掲載されます。2報は日本の科学雑誌『Journal of the Physical Society of Japan』(Vol.87 No.1、12月22日付け)に掲載予定です。他の2報は米国の科学雑誌『Physical Review C』(5月号および9月号)に掲載されました。
注1)2007年6月6日プレスリリース「RIビームファクトリーで新同位元素の発見に成功(PDF 859.7KB)」
注2)2010年6月8日プレスリリース「RIビームファクトリーで45種の新放射性同位元素を初めて発見」
注3)2017年11月6日プレスリリース「新同位元素ルビジウム-72を発見」
※国際共同研究グループ
理化学研究所 仁科加速器センター
実験装置運転・維持管理室 RIビーム分離生成装置チーム
仁科センター研究員 福田 直樹(ふくだ なおき)
協力研究員 清水 陽平(しみず ようへい)
協力研究員 鈴木 宏(すずき ひろし)
チームリーダー 吉田 光一(よしだ こういち)
核変換データ研究グループ 低速RIデータチーム
チームリーダー 炭竃 聡之(すみかま としゆき)
実験装置運転・維持管理室
客員研究員 久保 敏幸(くぼ としゆき)(ミシガン州立大学 教授)
本研究には理化学研究所、東北大学をはじめ、世界11カ国(日本、米国、フランス、英国、イタリア、スペイン、中国、ドイツ、韓国、ノルウェー、ハンガリー)から33の大学・研究機関が参加。
背景
地球上には、金や鉄など天然に存在する安定な原子核が約300種存在します。理論的には約7,000種以上の原子核が存在するといわれ、そのほとんどが放射線同位元素(RI)と呼ばれる不安定な原子核です。原子核は陽子と中性子からなり、安定性を含めたさまざまな性質は陽子数と中性子数の組み合わせで決まります。
例えば、酸素は陽子数Zが8ですが、中性子数Nは8、9、10と3種類が天然に存在します。これらはいずれも化学的には酸素(元素記号はO)として働きますが、原子核としては性質が異なるため、質量数A(陽子数と中性子数の和A=Z+N)を元素記号の左上に付記し16O、17O、18Oのように区別します。実は酸素の原子核にはもっと多くの種類があり、中性子数が最小で5、最大で16、つまり13Oから24Oまで存在することが知られています。13Oや24Oは天然には存在しない寿命の短いRIです。安定な原子核より中性子の数が少ない13Oのような原子核を「陽子過剰核」、中性子の多い24Oのような原子核を「中性子過剰核」と呼びます。
2017年8月、米国の重力波望遠鏡「LIGO(ライゴ)」と欧州の重力波望遠鏡「Virgo(バーゴ)」の共同研究チームが、中性子星合体による重力波を初めて検出し、注目を集めました。原子番号26の鉄よりも重い元素(重元素)は、中性子星合体のような特殊な環境下で原子核の連続的な中性子捕獲反応とβ崩壊との競合が起こり、その果てにRIを経由して合成された(r過程)と考えられています。
このr過程元素合成、ひいては物質世界が形成された謎を解明するには、それらRIの諸性質を調べることが必要です。しかし、そのようなRIは地球上には存在しないため、人工的に作るしかありません。ところがその生成率は非常に小さく、新しいRIの生成は容易ではありません。生成率を上げるためには、より大強度なビーム加速器と非常に高性能なRIビーム分離生成装置が必要です。
理研仁科加速器研究センターでは、加速器施設での長年の実績を踏まえ、不安定核の研究を飛躍的に拡大するため、RIビームファクトリー(RIBF)加速器施設を設置し研究を展開しています。RIBF加速器施設では、ウランなどの重イオンを光速の70%まで加速する超伝導リングサイクロトロン(SRC)を中心とした加速器系と、このウランビームの飛行核分裂反応によって作られるRIをビームとして高効率で収集し、高い分析能力でオンライン識別・同定する超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)(図1)を用いて、安定核領域から遠く離れたさまざまな不安定なRIビームを生成しています。2007年に初めて新しいRIを発見して以降、これまでに59種の新RIの発見が論文発表されています。
国際研究グループは、RIBF加速器施設で供給可能なビームの強度がそれ以前の約10倍に増強したこと、BigRIPSの高効率化・高分解能化・高感度化に向けた開発研究を経てRIビームの収集・分析技術を向上したことにより、2011~2013年に新RIの発見に挑みました。
研究手法と成果
新RI探索実験では、安定な原子核のウラン-238(238U)およびキセノン-124(124Xe)をビームとして高速の70%(核子当たり3.45億電子ボルト)まで加速し、それをベリリウム(Be)製の生成標的に照射しました。238Uでは「飛行核分裂反応」を、124Xeでは「入射核破砕反応」を利用することで、新RIをビームとして発生させました。飛行核分裂反応は質量数50~150の範囲で中性子過剰なRIを生成するのに有利であり、入射核破砕反応は陽子過剰なRIを生成するのに有利なのが特徴です。
生成したRIビームは、まずBigRIPSの第1ステージにて陽子過剰または中性子過剰なRIのみを分離し、さらに第2ステージおよびゼロ度スペクトロメータ(ZeroDegree)[11]に通過させ、RIを同定するための粒子識別を行いました(図2)。粒子識別では、生成したRIの速度、ガス検出器内部でのエネルギー損失量とともに、検出器に到達した位置情報から磁気剛性[12]も測定しました。
極めて生成数が少ない新RIを高い信頼性で観測するためには、BigRIPS内をRIが通過する飛跡を精密に制御・分析し、磁気剛性や速度の決定精度(分解能)を向上させることと、雑音信号により偶然検出される偽物の事象をできる限り除去する解析技術が要求されます。RIBF加速器の著しい性能向上に加え、これらBigRIPSの収集・分析法を向上させることで、RIを高効率・高分解能・高感度で生成・粒子識別することが可能となった結果、マンガンからエルビウム(原子番号25~68)まで73種の新RIを発見することができました(表1)。複数回に分けて行われた新RI探索実験の結果は、実験ごとに4報の論文として発表しました。
図3に今回発表した新RIのうち、例として原子番号42のモリブデン(Mo)の結果を示しています。この図はMoのRIごとに、測定された生成断面積(生成率)をプロットしたもので、値が小さいほど生成率が低いことを表しています。右側に行くほど赤点で示された生成率が低くなっていますが、これは天然に存在する安定核100Moより中性子数が多いRIでは、中性子数が増えるほど生成率が低くなることを示しています。赤の長丸で囲まれた右端の2点が、今回報告した118Moと119Moです。その左側にある青の長丸で囲まれた3点は115Mo、116Mo、117Moで、2008年の実験で既に発見されたRIです。
この三つの中で最も生成率の低い117Moと比較しても、今回発見した119Moは約1/500も生成率が低く、いかに難しい測定だったかが分かります。縦軸の生成率は、具体的には、実際の実験設定で、ウランビームを1,300兆回(1.3×1015回)標的核に衝突させ、わずか1個しか119Moが検出されないことを示しています。これは2016年、理研仁科加速器研究センター超重元素研究グループの森田浩介グループディレクター(九州大学大学院理学研究院教授)を中心とする研究グループが新元素発見を認定され命名権を得たnihonium(ニホニウム)の生成率のさらに10分の1の低さです。
図4に1910年以降、日本、英国、米国、ロシア、ドイツ各国で新RIがどのくらい発見されてきたかを示しています。理研はBigRIPSを用いた研究では、2007年の初発見以降、今回の73種を加えると合計132種の新RIの発見が確定したことになります。この結果は、2010~2020のところに赤色でプロットされており、RIBF加速器施設の稼働によって、2010年以降の新RIの発見競争では日本がトップであることが分かります。
今後の期待
今回の報告で、論文発表された新RIは累計132種類になりました。本研究以降、さらに加速器・BigRIPSの性能は向上しており、約62種の新RI候補が生成され、現在最終確認に向けた解析を行っています。今後、これらを含めた総計約194種類の新RIの発見がBigRIPSから論文発表される見込みです。これら新RIは今後、原子核構造の統一的考え方に基づく理解や、元素合成の謎の解明などに向け、研究が進められると期待できます。
本成果は、このような核物理学の学術的重要性だけでなく、RIBF加速器施設でのRIビーム生成・粒子識別能力の圧倒的な高さを示しています。RIBF加速器施設は、施設の性能向上に伴って最終的には約4,000種類の不安定核を生成することができると考えられています。そのうち約1,000種類は、未発見のRIです。今後、加速器システムやBigRIPSのRIビーム生成・粒子識別能力のさらなる高度化を通じ、この未踏の新RI発見へ挑戦していきます。
原論文情報
- N. Fukuda, T. Kubo, D. Kameda, N. Inabe, H. Suzuki, Y. Shimizu, H. Takeda, K. Kusaka, Y. Yanagisawa, M. Ohtake, K. Tanaka, K. Yoshida, H. Sato, H. Baba, M. Kurokawa, D. Nishimura, T. Ohnishi, N. Iwasa, A. Chiba, T. Yamada, E. Ideguchi, S. Go, R. Yokoyama, T. Fujii, H. Nishibata, K. Ieki, D. Murai, S. Momota, Y. Sato, J. Hwang, S. Kim, O. B. Tarasov, D. J. Morrissey, and G. Simpson, “Identification of New Neutron-rich Isotopes in the Rare-Earth Region Produced by 345 MeV/nucleon238U”, Journal of the Physical Society of Japan, doi: 10.7566/JPSJ.87.014202
- Y. Shimizu, T. Kubo, N. Fukuda, N. Inabe, D. Kameda, H. Sato, H. Suzuki, H. Takeda, K. Yoshida, G. Lorusso, H. Watanabe, G. S. Simpson, A. Jungclaus, H. Baba, F. Browne, P. Doornenbal, G. Gey, T. Isobe, Z. Li, S. Nishimura, P.-A. Söderström, T. Sumikama, J. Taprogge, Zs. Vajta, J. Wu, Z. Y. Xu, A. Odahara, A. Yagi, H. Nishibata, R. Lozeva, C. Moon, and H. Jung, “Observation of new neutron-rich isotopes among fission fragments from in-flight fission of 345 MeV/nucleon238U: Search for new isotopes conducted concurrently with decay measurement campaigns”, Journal of the Physical Society of Japan, doi: 10.7566/JPSJ.87.014203
- H. Suzuki, T. Kubo, N. Fukuda, N. Inabe, D. Kameda, H. Takeda, K. Yoshida, K. Kusaka, Y. Yanagisawa, M. Ohtake, H. Sato, Y. Shimizu, H. Baba, M. Kurokawa, K. Tanaka, O. B. Tarasov, D. Bazin, D. J. Morrissey, B. M. Sherrill, K. Ieki, D. Ieki, N. Iwasa, A. Chiba, Y. Okoda, E. Ideguchi, S. Go, R. Yokoyama, T. Fujii, D. Nishimura, H. Nishibata, S. Momota, M. Lewitowicz, G. DeFrance, I. Celikovic, and K. Steiger, “Discovery of new isotopes81,82MO and85,86Ru and a determination of the particle instability of103Rb”, Physical Review C, doi: 10.1103/PhysRevC.96.034604
- T. Sumikama, S. Nishimura, H. Baba, F. Browne, P. Doornenbal, N. Fukuda, S. Franchoo, G. Gey, N. Inabe, T. Isobe, P. R. John, H. S. Jung, D. Kameda, T. Kubo, Z. Li, G. Lorusso, I. Matea, K. Matsui, P. Morfouace, D. Mengoni, D. R. Napoli, M. Niikura, H. Nishibata, A. Odahara, E. Sahin, H. Sakurai, P.-A. Söderström, G. I. Stefan, D. Suzuki, H. Suzuki, H. Takeda, R. Taniuchi, J. Taprogge, Zs, Vajta, H. Watanabe, V. Werner, J. Wu, Z. Y. Xu, A. Yagi, and K. Yoshinaga, “Observation of new neutron-rich Mn, Fe, Co, Ni, and Cu isotopes in the vicinity of78Ni”, Physical Review C, doi: 10.1103/PhysRevC.95.051601
発表者
理化学研究所
仁科加速器研究センター 実験装置運転・維持管理室 RIビーム分離生成装置チーム
仁科センター研究員 福田 直樹(ふくだ なおき)
チームリーダー 吉田 光一(よしだ こういち)
報道担当
理化学研究所 広報室 報道担当
産業利用に関するお問い合わせ
理化学研究所 産業連携本部 連携推進部
補足説明
- 1.重イオン
原子が電子を失う、または得ることにより電荷を持ったものをイオンといい、このうち、リチウムもしくは炭素より重い元素のイオンを重イオンという。イオン源により原子から電子を剥ぎ取ると原子核の陽子数に比べて電子の数が少なくなり、全体としてプラスの電荷を持つことにより、加速器で電気的に加速することが可能となる。 - 2.RIビームファクトリー(RIBF)
水素からウランまでの全元素のRIを世界最大強度でビームとして発生させ、それを多角的に解析・利用することにより、基礎から応用にわたる幅広い研究と産業技術の飛躍的発展に貢献することを目的とする次世代加速器施設。施設はRIビームを生成するために必要な加速器系、RIビーム分離生成装置(BigRIPS)で構成されるRIビーム発生系施設、および生成されたRIビームの多角的な解析・利用を行う基幹実験装置群で構成される。これまで生成不可能だったRIも含めて約4,000個のRIを生成できると期待されている。 - 3.放射性同位元素(RI)
物質を構成する原子核には、時間とともに放射線を放出しながら安定核になるまで壊変し続けるものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核(エキゾチックな原子核)、ラジオアイソトープ(RI)とも呼ばれる。天然にある物質は、寿命が無限かそれに近い安定核(安定同位体)で構成されている。 - 4.重力波
アインシュタインの一般相対性理論によれば、質量を持つ物体が存在すると、時間と空間(時空)に歪みが生じる。その物体が運動をすると、この時空の歪みが変化し、それが光速で伝わっていく。この変化の波を重力波と呼ぶ。 - 5.中性子星合体
二つの中性子星(中性子が主な成分)が互いの重心の周りを公転する連星系は、重力波を放出することにより公転周期が短くなり、やがて合体する。中性子星の連星系は太陽の8~20倍の質量の連星の両方が、超新星爆発を起こした後に形成される。 - 6.中性子捕獲反応、β崩壊、r過程
r過程は、超新星爆発時に起きると考えられている元素合成過程のモデル。高速(rapid)に連続して中性子を捕獲しながら(中性子捕獲反応)、中性子が陽子と電子に崩壊する(β崩壊)ため、r過程と呼ばれる。鉄よりも重い元素(重元素)のほぼ半分は、このr過程で生成される。重元素を生成するもう一方の支配的なs(slow:低速)過程は、赤色巨星への進化段階でゆっくりした中性子捕獲によって元素合成が行われる。s過程に比べ、 r過程は未解明な部分が多い。このr過程が起きる場所の候補として、中性子星合体も提案されている。 - 7.超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)
ウランやキセノンなどの1次ビームを生成標的に照射することによって生じる大量の不安定核を集め、必要とするRIを分離し、RIビームを供給する装置。RIの収集能力を高めるために、超電導四重極電磁石が採用されており、ドイツの重イオン研究所(GSI)などほかの施設に比べて約10倍の収集効率を持つ。 - 8.超伝導リングサイクロトロン(SRC)
サイクロトロンの心臓部にあたる電磁石に超伝導を導入し、高い磁場を発生できる世界初のリングサイクロトロン。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ磁気漏洩磁気遮断の機能を持っている。総重量は8,300トン。このSRCを使い非常に重い元素であるウランを光速の70%まで加速できる。また、超伝導という方式によって従来の方法に比べ100分の1の電力で動かせるため、大幅な省エネも実現している。 - 9.飛行核分裂反応
ウラン-238などの重い原子核が、同程度の質量を持つ二つの核に分かれることを核分裂という。ウラン-238は天然に安定に存在する原子核で寿命は約44億年ある。ウラン-238ビームを標的にぶつけ、エネルギーを励起させると、ウラン-238の核分裂が飛行中に起こり、飛行核分裂と呼ばれる。核分裂で生成された原子核は一般に中性子過剰な原子核となる。 - 10.入射核破砕反応
加速された原子核が標的の原子核に当たった時に複数の破砕片に崩壊する反応をいう。破砕片には陽子過剰核や中性子過剰核などのRIが多く含まれる。 - 11.ゼロ度スペクトロメータ(ZeroDegree)
BigRIPSの下流にある多機能ビームライン型分析装置。質量数200程度までの反応生成物の粒子識別、運動量の精密測定などを行うことができる。 - 12.磁気剛性
電荷を持った粒子の磁場中での曲がりにくさを表す量であり、運動量に比例し電荷に反比例する。磁気剛性の大きな粒子は磁石の外側を、小さなものは内側を通る。
BigRIPSは、前半(写真手前)の第1ステージと後半(写真奥)の第2ステージに分かれる。
BigRIPSは、赤丸で示された第1ステージと青丸で示された第2ステージから構成されている。前者でRIビームの生成・分離を、後者で粒子識別のための測定を行う。さらに、下流に設置されたゼロ度スペクトロメータ(ZeroDegree)も用いて粒子識別の精度を上げている。
原子番号25のマンガンから68のエルビウムまで35種類の元素で、合計73種の新しいRIが発見された。
縦軸が生成率、横軸は質量数。赤い長丸で囲まれている2点が今回発見された118Moと119Moを表し、青い長丸は2008年の実験で既に発見されている三つのRI115,116,117Moを表す。それ以前にドイツのGSI研究所、フィンランドのユバスキラ大学で発見された110,111,112,113,114Moも一緒にプロットされている。
発見数は10年ごとの累計で、横軸は論文発表年を表す。2010-2020では、先に論文発表した59種と今回の73種を含めると合計132種の新RIが確定した(赤)。さらに現在解析中(今後論文化予定)の約62種も含めると、総計約194種の論文発表が見込まれる。2010年以降は日本が他の4国を抑えトップであることが分かる(出典:Michael Thoennessen 「The Discovery of Iostopes」Springer International Publishing Switzerland 2016, 表17.1のデータを基に集計)。
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