農薬の新規登録・適用拡大により多発地でも安心のビワ生産が可能に
2020-11-04 農研機構
ポイント
農研機構を中心とする研究グループは、ビワに大きな被害をもたらす新害虫ビワキジラミ1)を効果的に防除するための総合技術マニュアルの改訂版を本日公開しました。改訂版では、2020年3月の初版公表後に新規に登録・適用拡大された農薬3種類の情報を追加し、ビワキジラミ対策に最適化された防除暦(標準的な防除の年間スケジュール)を更新しました。秋季(開花初期2))、春季(袋かけ前3))、夏季(収穫後)の年3回の防除を柱とした被害低減技術を分かりやすく紹介しており、生産・防除指導に役立つことが期待されます。
概要
ビワキジラミは2012年に国内で初めて確認された新しいビワの害虫です。発見時には未知の害虫であったために、対策技術のメニューが十分ではなく急速な被害拡大を抑えられませんでした。
そこで農研機構は分布拡大の抑制と防除技術の確立に着手し、関係県の研究・普及機関、生産者団体、大学と協力して、ビワキジラミの生態解明とモニタリング4)、識別、防除技術の開発を進め、「ビワキジラミ防除のための総合技術マニュアル」として取りまとめ、2020年3月に初版を公開しました。
さらに、ビワキジラミに対する農薬の新規登録・適用拡大により、ビワキジラミの年3回の防除適期全てで登録薬剤による防除が可能になったことを受けて、今回、内容を更新したマニュアル改訂版を作成し、本日公開しました。本マニュアルの記載に従って防除を確実に実施することで、ビワキジラミの発生地でも安心してビワ生産を行うことが可能です。本マニュアル(PDF形式)は、農研機構のウェブページから無料でダウンロードできます。
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/134358.html
関連情報
予算:生物系特定産業技術研究支援センター・イノベーション創出強化研究推進事業、運営費交付金
問い合わせ先
研究推進責任者 :農研機構果樹茶業研究部門 研究部門長 高梨 祐明
研究担当者 :同 ブドウ・カキ研究領域 上級研究員 井上 広光
広報担当者 :同 研究推進部研究推進室 果樹連携調整役 大崎 秀樹
詳細情報
開発の社会的背景と経緯
ビワキジラミ(写真1)は、2012年5月に四国の一部地域で初めて発生が確認されたビワの新しい害虫です。幼虫・成虫ともにビワの樹液を吸い、これを濃縮した排泄物(甘露と呼ぶ)を多量に排出します。甘露が付着した葉や果実には黒カビが発生して「すす病」を引き起こします(写真2)。本害虫は発見時には世界的にも報告がなく、既往のビワ害虫防除技術では被害を抑えることができず、その後の数年間のうちに多発生と急速な分布拡大を許しました。そこで農研機構は、関係県の研究・普及機関、生産者団体、大学と協力して、ビワキジラミがまん延した産地でも効果的な防除によってビワ生産を可能にすることを目指して、生態解明とモニタリング、識別、防除技術の開発を進め、マニュアルとして取りまとめて2020年3月に初版を公開しました。
その後、防除マニュアルの初版公表時にビワサビダニ対象の防除として記載されていたピリダベン水和剤を含む3種類の農薬が、2020年3~4月に、新規登録・適用拡大となりましたので、マニュアル中の防除に関する内容を最新の情報に更新した改訂版を作成・公表しました。
マニュアルの主な改訂内容
防除に関する内容を以下の通り更新しました。
1.2020年3月11日付でアセタミプリド水和剤(商品名:モスピラン顆粒水溶剤)、4月8日付でピリダベン水和剤(サンマイト水和剤)がビワキジラミに適用拡大されました。加えて、収穫期にビワキジラミ密度がかなり高いときの収穫後の応急的な散布や、苗木新植時の予防的な散布などでも利用可能なDMTP乳剤(スプラサイド乳剤40)が、同日付で、ビワで新規登録されました。以上の農薬登録状況の変更を受けて、ビワキジラミに適用のある農薬一覧(表1)と、防除暦を更新しました。ビワキジラミに対応した新しい防除体系のポイントは表2のとおりです。
2.【秋季防除】ビワキジラミによる果実(特に幼果)の被害を防止する上で重要な時期である開花初期(11月中旬ごろ)には、これまで使用できる薬剤がありませんでしたが、ピリダベン水和剤(3,000倍)が登録になったことによりビワキジラミを対象として散布できるようになりました。これにより、秋季世代の密度を低く抑え、冬季の幼果上における発生量を低く推移させる効果が期待できます。なお、ピリダベン水和剤は同じく花蕾と幼果に被害を与えるビワサビダニにも適用があるため、両種の発生地では効率的な防除が可能です。
3.【夏季防除】収穫時に果実被害が見られた園では、ビワキジラミの密度がかなり高い状態ですので、即効性で卓効があるDMTP乳剤(1,500倍)を収穫後7月中旬までの間に応急的に散布して密度を下げます。
4.ビワキジラミの発生が新たに1匹でも確認された場合は応急防除が必要です。この場合は、収穫後から開花期まではDMTP乳剤(1,500倍)、開花初期はピリダベン水和剤(3,000倍)、それ以外の時期はジノテフラン水溶剤(スタークル顆粒水溶剤・アルバリン顆粒水溶剤;2,000倍)を散布します。
5.苗木の新植時には、予防のために、DMTP乳剤(1,500倍)もしくはジノテフラン水溶剤(2,000倍)を散布します。
6.アセタミプリド水溶剤(2,000倍)は、現状では防除暦に組み込まれていませんが、ミツバチ等への影響が小さいことから、開花期に養蜂・採蜜を実施する園やその近隣園での使用が今後想定されます。
7.ビワキジラミ激発地における実証試験の結果、本マニュアルの記載に従って防除を確実に実施することで、被害果率(無防除や従前の防除では96%以上)を9.8%にまで低減させることができました(図1)。
今後の予定・期待
農薬の新規登録・適用拡大によって、ビワキジラミへの高い防除効果が認められた農薬での年間防除スケジュールが確立されました。ビワキジラミの被害に悩む地域の生産・防除指導に役立つことが期待されます。
用語の解説
- 1)ビワキジラミ
- ビワのみに寄生するカメムシ目キジラミ科の昆虫。成虫の全長は3mm程度、色彩は黄褐色でビワの枝葉を覆う微毛の色彩に似ています。幼虫・成虫ともにビワの樹液を吸い、これを濃縮した排泄物(甘露と呼ぶ)を多量に出します。甘露は糖を多く含むため、これが付着した葉や果実に黒カビが発生して「すす病」を引き起こします。ビワキジラミはビワ樹上に年間を通して寄生し、発生回数は年5回程度です。2020年8月末現在のビワキジラミ発生県は徳島、香川、兵庫、和歌山です。
- 2)開花初期
- ビワの開花は10月~翌年2月の長期に及びます。ビワキジラミは秋季の花蕾に多くの卵を産んで密度が高まるため、開花初期のおおむね11月中旬ごろ(露地栽培の中~晩生品種の場合)に防除を行うことで冬季の密度を低く推移させることができます。
- 3)袋かけ
- 栽培ビワでは春季に幼果に袋かけを行います。袋かけによって枝葉との擦れによる傷や毛虫類の食害を防ぐことはできますが、ビワキジラミのような微小害虫を袋内に閉じ込めてしまうと、かえって被害が増大します。そこで、袋かけ前の果実には必ず薬剤を散布します。
- 4)モニタリング
- 病害虫の発生の有無や発生量の多寡を、目視や各種トラップなどで監視すること。
参考図
写真1 ビワキジラミの成虫
写真2 袋かけした果実の被害