ゴーストサイトメトリー

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世界初、AIが駆動する高速な細胞形態ソーターを実現

2018/06/15 東京大学 大阪大学 シンクサイト株式会社 理化学研究所 科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 高速・高感度かつシンプルな新規光イメージ圧縮計測法の開発、新規多次元データ処理法の開発、そしてマイクロ流体技術の融合により、機械学習駆動型の世界初の超高速・高精度な光イメージ認識型のリアルタイム細胞分離技術を実現しました。
  • 人を介さない画像情報解析に画像は必要がない点に着目し、圧縮計測信号を直接機械学習で超高速リアルタイム解析し、「画像を見ずに形を見る」ゴーストサイトメトリー法の発案が、ブレークスルーにつながりました。
  • 若手研究者がアカデミアや組織の枠を越え、ベンチャー企業(シンクサイト株式会社)を設立し、産官学の人材とリソースを結集して創り上げた技術がScience誌に掲載され、国際的な実用化に邁進する先駆的な事例です。

白血病発見で知られるウィルヒョウ以来100年以上、形態観察に基づく細胞の分類、分離・分取は人の経験と認識力に基づいて行われてきましたが、そのスピード・精度には限界がありました。

東京大学 先端科学技術研究センターの太田 禎生 准教授、大阪大学 大学院情報科学研究科の堀﨑 遼一 助教、東京大学 大学院新領域創成科学研究科/理化学研究所 革新知能統合研究センターの佐藤 一誠 講師およびシンクサイト株式会社の河村 踊子 研究員、鵜川 昌士 研究員らの研究グループは、高速・高感度かつシンプルに細胞形態データを圧縮計測する単一画素イメージング法に、機械学習注1)技術と流体ハードウェア技術を融合し、大きさも同じで人の目で見ても形の似た細胞でさえも高速・高精度に分析・判別し、その細胞を超高速(従来の顕微鏡方式比で千倍以上)で分取するシステム、高速蛍光イメージングセルソーターを世界で初めて実現しました。ゴーストサイトメトリーと名付けられた本機構は、機械の「目」を使い、毎秒数千〜万細胞のスピードで細胞をリアルタイムに判別し、選択的に取り分けます。大量の細胞を形態で評価し、選別し、活用することにより、血液・体液診断、再生医療や細胞治療など高い安全性や信頼性の求められる医療に貢献することが期待されます。

本研究は、若手研究者がアカデミアや組織の枠を越えてベンチャー企業を設立し、共同で研究開発した技術がScience誌に掲載され、国際的な実用化に邁進する先駆的事例です。博士などの専門人材が活躍できる産業や市場を、研究者自らが主体的に作り上げようとしている点も画期的であり、国を挙げて推し進めている産官学連携によるオープンイノベーションの代表事例となりうる成果といえます。

本研究の成果は、米国の国際科学誌「Science」に2018年6月15日(米国東部時間)付けで掲載されます。

本研究の一部は科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」研究領域 課題名「新規高速高感度イメージングによる超高速蛍光画像サイトメトリー」(平成26年度採択)、「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」研究領域 課題名「データ駆動型光計測・光制御」(平成29年度採択)、「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」研究領域 課題名「統計的潜在意味解析によるデータ駆動インテリジェンスの創発」(平成25年度採択)の支援を受けて行われました。

<発表内容>

研究グループは、新規高速・高感度イメージング技術の開発に際し、「特殊な光構造照明上での対象の『動き』を利用して、対象像を捉える」という新コンセプトで、蛍光など暗い対象も高速(>万枚/秒)で撮影できる単一画素圧縮撮像手法(動的ゴーストイメージング法:Ghost Motion Imaging)を開発しました。そして、人を介さない画像解析に画像は必要ない点に着目し、「画像(人が認識するためのデータ形式)を作らずに、単一画素圧縮計測信号を直接機械学習モデルに判別させる」というコンセプトを実装し、シンプルで正確かつ高速なリアルタイムでのイメージングデータ処理法を開発しました。

分取技術融合開発に当たっては、シンクサイト株式会社を創業し、同社との共同研究を通して、先端マイクロ流体細胞分取技術との融合研究開発・実用化を加速させ、世界初の機械学習駆動型の光流体装置を完成させました。本技術は、1)高速で細胞の蛍光イメージを計測し、2)機械学習でリアルタイム解析し、3)マイクロ流体中での選択的分取を実現しています(ゴーストサイトメトリー法:図1)。これにより、人の目でも見分けることが難しい細胞の高精度な分類・分離や、モデル血中からのがん細胞の高速検出・分離を可能にしました。

大量の細胞をその形態に基づいて分析並びに選択的に分取する技術の必要性は、生命科学研究だけでなく、希少細胞検出からの医療診断や、品質管理された細胞医療応用など医療、産業分野でも日々増しています。しかし従来の、顕微鏡で見た目を評価して人手を介して一つ一つ分取する方式は、実用性に限界がありました。具体的には、低スループット注2)なため大量のサンプルを処理できなかった上、処理に時間がかかる結果、細胞状態に変化を与える懸念がありました。また人の目での選別では、精度や再現性にも限界がありました。一方、セルソーター(フローサイトメトリー)注3)は50年程前に発明され、高いスループット(>万細胞/毎秒)を誇ってきましたが、1細胞あたりの蛍光量は計測できても、細胞の蛍光イメージ(形態)情報を計測・解析することはできません。そのため、両者の長所を併せ持つ蛍光イメージ認識型セルソーター注4)が長く望まれてきました。しかしこれを実現するためには、高速・高感度かつシンプルなイメージング手法の開発と、高速で流れる細胞が単一流路デバイスを通過する短時間内に計測・分析・分取までを完結できるリアルタイムイメージ情報処理手法の開発が、重大な課題となっていました。本技術は、光・流体・電気ハードウェアと機械学習ソフトウェアを密に結合することで、両課題を一挙に解決しました。

本研究者らはアカデミアや組織の枠を越えてベンチャー企業を設立し、同社との共同研究を通して、ハードとソフトが一体化した機械学習駆動型の光流体融合テクノロジーを完成させました。本技術を基盤とした、大量の1細胞の選択的な利活用が実現できると期待されます。より正確かつ安価な血液・体液診断や、より有効性・安全性の高い再生医療の実現に貢献することを目指して、国内外の研究機関・医療機関、企業との共同研究が進んでいます。本年度中には臨床研究が開始される予定であり、さらに来年度にはシンクサイト株式会社より研究用プロトタイプの提供が開始される予定です。

<参考図>

ゴーストサイトメトリー

図1 機械学習が駆動する形態に基づく高速細胞分離:ゴーストサイトメトリー

ゴーストサイトメトリーは、新規動的ゴーストイメージング法により細胞の形態情報(Visual Information)を光圧縮信号として計測し、「画像化せずに」直接機械学習で超高速リアルタイム判別(Image-free Classification)することによって、目的の細胞の選択的な高速分離を実現した。(©2018 SS.LAB, Creative Commons license CC BY-ND)

 

<用語解説>
注1)機械学習
データを統計処理することにより、データの中に潜んでいる「法則」を見つけ出すこと。得られた法則を用いることで、未知のデータを判別することが可能となる。
注2)スループット
単位時間あたりに計測あるいは分取などの処理を行える細胞の個数。
注3)セルソーター
多数の細胞の中から目的の細胞を分取できる装置。一般的には、フローサイトメトリーの装置のうち、細胞が分取できるものを総称することが多い。
注3)サイトメトリー
多数の細胞を分析する測定手法。なお、フローサイトメトリーとは細胞を高速で流しながら一個ずつ光学的に分析する測定手法を表す。
注4)蛍光イメージ認識型セルソーター
細胞の蛍光イメージ分析結果を基に細胞を判別して分取するセルソーター。一般的なセルソーターの場合は細胞から発せられる蛍光信号は、その強度総量のみが細胞判別に用いられており、細胞の蛍光形態情報や蛍光局在は判別に用いられていない。
<論文情報>

タイトル:“Ghost Cytometry”

著者名:Sadao Ota*, Ryoichi Horisaki, Yoko Kawamura, Masashi Ugawa, Issei Sato, Kazuki Hashimoto, Ryosuke Kamesawa, Kotaro Setoyama, Satoko Yamaguchi, Katsuhito Fujiu, Kayo Waki, Hiroyuki Noji
責任著者、:筆頭著者

doi:10.1126/science.aan0096

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

太田 禎生(オオタ サダオ)
東京大学 先端科学技術研究センター 准教授

堀﨑 遼一(ホリサキ リョウイチ)
大阪大学 大学院情報科学研究科 助教

<JST事業に関すること>

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当者連絡先>

シンクサイト株式会社(担当:田嶋)

理化学研究所 広報室 報道担当

科学技術振興機構 広報課

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