垂れ幕にも動画、デジタルサイネージの新時代へ

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高性能有機半導体でLEDディスプレイのアクティブ駆動に成功

平成29年12月8日

科学技術振興機構(JST)
パイクリスタル株式会社
株式会社オルガノサーキット

ポイント

  • イベント会場やパブリックスペースなど大型・軽量・低コストのサイネージ媒体がなく、新しい技術が望まれていました。
  • 高性能の印刷できる有機半導体を用いて、はじめてLEDディスプレイの低消費電力アクティブ駆動に成功、樹脂シート上に動画表示が可能となりました。
  • 垂れ幕にも動画が表示できるなど、全く新しい表示媒体により、デジタルサイネージの未来を変えます。

JST 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)注1)の一環として、パイクリスタル株式会社の竹谷 純一 取締役らは、LEDディスプレイを駆動する有機半導体注2)アクティブマトリクス注3)の開発に成功し、株式会社オルガノサーキットと共同して、実際にLEDディスプレイを駆動できることを実証しました。

イベント会場や公共交通機関などにおける、大面積で垂れ幕状の動画表示デバイスの開発が望まれていましたが、従来のLEDディスプレイデバイスは重さやコスト、消費電力の問題が大きく普及が限定的でした。一方でフレキシブル・低コストの印刷プロセス注4)の適用が可能な有機半導体のサイネージへの応用が期待されていますが、従来の有機半導体は電流密度の性能が十分でない、ディスプレイ用として最小寸法であるμm精度のトランジスタ注5)の大面積塗布による回路の一括形成は高価な設備が必要な上に低歩留まりによって高コストになる、などの課題がありました。

本研究グループは、塗布溶液プロセスによる有機半導体材料による高移動度トランジスタアレイ注6)の一括形成を最小面積にして歩留まりを良くする印刷プロセスと、このトランジスタアレイを樹脂シート状ディスプレイ基板の各画素に貼り合わせるラミネーション実装法を新たに開発することにより、安価な回路製造プロセスを確立しました。

開発した50cm角フレキシブルディスプレイを複数並べることにより、大型の垂れ幕への動画表示によってイベント開催や大型広告のインパクトを拡大するなど、デジタルサイネージの新時代を拓くことが期待されます。

本成果について、第24回ディスプレイ国際ワークショップ(IDW’17)(平成29年12月6日~8日、仙台国際センター)にて、発表とデモ展示を行います。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

JST 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)

研究領域 「有機材料を基礎とした新規エレクトロニクス技術の開発」
研究課題名 「新しい高性能ポリマー半導体材料と印刷プロセスによるAM-TFTを基盤とするフレキシブルディスプレイの開発」
研究代表者
/開発リーダー
竹谷 純一
(パイクリスタル株式会社 最高技術責任者)
研究リーダー 瀧宮 和男(理化学研究所 創発物性科学研究センター グループディレクター)
研究期間 平成21年度~平成30年度

上記研究課題では、印刷技術(プリンタブルエレクトロニクス技術)に最も適合したポリマー半導体材料を高性能化し、かつこれを用いた大面積のフレキシブルディスプレイの開発を目指します。

(https://www.jst.go.jp/s-innova/theme/sa.html)

<研究の背景と経緯>

イベント会場やパブリックスペースなど大型・軽量・低コストのサイネージ媒体がなく、新しい技術が望まれていました。フレキシブル・低コストの印刷プロセスの適用が可能な有機半導体は、従来の半導体に比べて製造コスト面やデバイスの屈曲性などの優位性があるため、大面積フレキシブルディスプレイを始めとして大面積エレクトロニクスへの応用に期待がありました。しかしながら、一方で、電流密度など半導体自身の性能が十分でないなどの課題がありました。

本S-イノベプロジェクトでは基本的な材料開発やプロセスなど基盤技術によるブレークスルーに焦点をあて、独創的な研究開発を進めてきた結果、LED駆動にも十分な性能の有機アクティブマトリクスを実現しました(図1)。

<研究の内容>

(1)高性能単結晶有機トランジスタ

サイネージ用ディスプレイの画素に使われるLEDの駆動に十分な電流を得るためには、移動度10cm/Vsの有機半導体トランジスタが求められます。本研究では、溶液塗布のプロセスによって有機半導体材料を単結晶化し、10×10cmのエリアに均一な特性を有するトランジスタデバイスを作製するプロセスを実現しました。これにより2T1C(1画素を構成する2個のトランジスタ(T)と1個のコンデンサ(C)を有する回路)型の低消費電力LED駆動回路を開発しました(図2)。

(2)LED駆動する有機アクティブマトリクスの開発

印刷技術は着実に向上しているものの、これまで1m級の大面積にわたってμmスケール精度が要求される多数のトランジスタを形成することは高価な製造装置が必要な上に、低歩留まりによる高コストであることが課題でした。今回、(1)のプロセスにより10cm角程度のエリアにLED駆動が可能なトランジスタアレイを形成し、個々のチップを切り離して50cm角の軽量フレキシブルディスプレイ基板上の各画素に貼り合わせるラミネーション実装法を新たに開発しました(図3、特許出願済み)。これらの技術革新により、μmスケール精度が必要な駆動回路部分の面積を最小限にすることが可能になるため、安価な製造装置で高歩留まりの大面積アクティブマトリクスを有する軽量フレキシブルディスプレイシートの製作が格段に容易になります。

なお、この技術は、各画素に配置したトランジスタチップがそれぞれ独立しているため、製造後の検査や出荷後の使用中に不良となったチップを取り替え、廃棄することなく再利用できるという副次的メリットも生んでいます。

(3)LEDディスプレイ駆動を実証

(2)の技術により開発したアクティブマトリクスと、オルガノサーキット社が開発している3mmピッチのLED表示パネルとを組み合わせ、有機トランジスタを用いたアクティブマトリクスとしては世界で初めて、実際にLEDディスプレイを駆動できることを実証しました(図4)。

<今後の展開>

イベント会場や交通機関など、パブリックスペースにおいて、大きな需要があることが市場調査の結果明らかとなっています。今後この市場において、50cm角の軽量フレキシブルシートを複数並べた、より大きなディスプレイを開発し、テストマーケティングを行った上で、2~3年後の商品導入を予定しています(図5)。

<谷口 彬雄 S-イノベ・プログラムオフィサー(PO)コメント>

重厚な液晶テレビによる情報伝達がショッピングモール、駅構内などでよく見られます。これが大面積プラスチックフィルムの垂れ幕で表示されると、イベント会場などでの軽量で吊り下げ可能な大型動画表示も初めて可能となります。曲面の大きな壁に貼り付けるなど、表示方法が大きく変わる時代の幕開けです。

<参考図>

図1 開発したLEDディスプレイの有機アクティブマトリクス

図1 開発したLEDディスプレイの有機アクティブマトリクス

図2 溶液の非対称形状を利用した有機半導体単結晶膜の製法と有機半導体材料(DNBDT)

図2 溶液の非対称形状を利用した有機半導体単結晶膜の製法と有機半導体材料(DNBDT)

図3 ラミネーション実装法

図3 ラミネーション実装法

図4 有機半導体でアクティブマトリクス駆動するLEDディスプレイ

図4 有機半導体でアクティブマトリクス駆動するLEDディスプレイ

図5 イベント会場・公共機関・店舗内装などでの活用イメージ

図5 イベント会場・公共機関・店舗内装などでの活用イメージ

<用語解説>
注1) S-イノベ(戦略的イノベーション創出推進プログラム)
S-イノベ(戦略的イノベーション創出推進プログラム、S-イノベ)は、科学技術の発展や新産業の創出につながる革新的な新技術の創出を目指したJSTの基礎研究事業等の成果を基にテーマを設定し、そのテーマの下で実用化に向けて、長期一貫してシームレスに研究開発を推進することで、産業創出の礎となりうる技術を確立し、イノベーションの創出を図ります。

JSTは基礎研究事業等の成果を基に産業創出の礎となる「研究開発テーマ」を設定し、当該研究開発テーマの下で産学連携の複数の研究開発チームによる長期一貫(最長10年度)した研究開発を支援します。その際、研究開発チーム間の情報共有等を通じて、コンソーシアム形式による研究開発の相乗効果を最大限引き出すようプログラム運営を行います。

またJSTは、本プログラム運営の責任者であるプログラムディレクター(PD)及び研究開発テーマ運営の責任者であるプログラムオフィサー(PO)を配置し、円滑かつ効率的なプログラム運営の推進に努めます。

JSTホームページ:https://www.jst.go.jp/

注2) 有機半導体
半導体的特性をもつ有機物のこと。従来の無機半導体(シリコン、ガリウムヒ素など)に比べ、はるかに柔軟性があることから、無機半導体では不可能であったフレキシブルデバイス(ディスプレイ、太陽電池など)への応用研究が精力的に進められています。
注3) アクティブマトリクス
ディスプレイデバイスの各画素をオンオフする駆動方式で、格子状の半導体集積回路。画素の高速駆動が可能で、動画表示や高解像度ディスプレイに向く技術です。
注4) 印刷プロセス
基材を溶かした溶液を基板上に塗布し、溶媒を揮発させることで基材の薄膜を形成する成膜技術。真空槽を備えた装置が不要であることから、従来半導体製造に用いられる真空プロセスより生産設備が安価となります。
注5) トランジスタ
電子回路において、信号を増幅させたり、信号をオンオフしたりするスイッチの役割を果たします。
注6) トランジスタアレイ
トランジスタを格子状に数多く配列させたもの。
<IDW‘17発表情報>

タイトル
“Active-matrix LED Display using Solution-processed Single-crystal Organic TFTs for Large-area Flexible Displays ”(溶液プロセスによる単結晶有機TFTを用いたアクティブマトリクスLEDディスプレイと大面積軽量フレキシブルサイネージへの応用)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

竹谷 純一(タケヤ ジュンイチ)
パイクリスタル株式会社 最高技術責任者

<JST事業に関すること>
林部 尚(ハヤシベ ヒサシ)
科学技術振興機構 産学連携展開部

<報道担当>
科学技術振興機構 広報課

山口 清一郎 (ヤマグチ セイイチロウ)
パイクリスタル株式会社 取締役

鈴木 聖一(スズキ セイイチ)
株式会社オルガノサーキット 研究開発責任者

 

詳しくは、こちら

0403電子応用
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