2020-06-22 国立研究開発法人 防災科学技術研究所
- 内容:
国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。) は、首都圏のリアルタイム極端気象情報(雨・風・雷・ひょう)をまとめ、地図に重ねて閲覧できるシステム「ソラチェク」を開発し、令和2年6月22日より公開します。
日本の首都圏は世界でも最も都市化の進んだ地域であり、たとえ局地的でも極端な気象の変化(いわゆるゲリラ豪雨、強風・突風、落雷及び降ひょうなど)が日常生活等に大きな影響を生じさせることから、高精度な気象情報が求められています。
今回開発した「ソラチェク」は、
①防災科研が開発した降雨強度推定アルゴリズムによる「雨」
②先端的解析技術による「風」
③防災科研独自の雷3次元観測による「雷」
④レーダー観測データから降ひょう域を推定した「ひょう」
のリアルタイム情報をまとめて閲覧し、現在の
気象情報を正確に把握することができます。
今後は、気象情報に人流情報等を重ね合わせて表示することで、屋外イベントの開催判断、通勤・通学時の安全確保など一人ひとりの具体的な行動につながる情報の提供を目指します。
ソラチェク公開URL:https://isrs.bosai.go.jp/soracheck/storymap/
- 本件配布先:文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会
首都圏のリアルタイム極端気象情報(雨・風・雷・ひょう) 閲覧システム「ソラチェク」6/22公開 〜最新技術と独自観測で気象災害軽減に貢献〜
- 1.背景
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日本の首都圏は、人口、交通通信網、経済活動が著しく集中し、世界でも最も都市化の進んだ地域です。たとえば、ゲリラ豪雨と呼ばれるような短時間の強い雨が降ると、アスファルトとコンクリートで覆われている大都市地域では下水道による処理が間に合わず、道路の冠水や中小河川の氾濫などによる被害が発生します。激しい気象の変化がたとえ局地的でも、大都市地域では大きな影響が生じるため、検知・予測技術の開発、実用化が求められています。
局地的な大雨や竜巻、降ひょう、落雷といった災害、被害を引き起こす「極端気象」は、いずれも発達した積乱雲によって引き起こされます。
防災科学技術研究所(以下、「防災科研」という。)では、積乱雲の一生をその発達段階に応じた機器で観測し、積乱雲の発達メカニズムを明らかにするとともに、早期検知・予測情報によって被害の防止・軽減を図るための研究開発を行っています。具体的には、首都圏に、雲や雨のもとになる水蒸気を観測するマイクロ波放射計、晴天域の風を測るドップラーライダー、雨が降る前の雲を検知可能な雲レーダー、雨雲を観測するXバンドマルチパラメータ(MP)レーダーに加えて、平成28~平成29年度に雷の放電点の観測網を整備しました。MPレーダーは雨量の正確な把握、雨雲の中の風の観測や、雨、雪、ひょうなど粒子の種類の判別が可能な気象レーダーです(https://mp-radar.bosai.go.jp/)。観測データはいずれも防災科研に即時送られ、リアルタイム処理を行っています。
今般、これらの首都圏のリアルタイム極端気象情報(雨・風・雷・ひょう)をまとめ、地図に重ねて閲覧できるシステム「ソラチェク」を開発し、令和2年6月22日より公開します。
- 2.「ソラチェク」
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ソラチェク公開URL:https://isrs.bosai.go.jp/soracheck/storymap/
首都圏を対象としてこれまでの研究開発成果に基づく、様々な気象情報(表1)と東京2020大会競技会場等のインフラなどを重ねて表示できるWeb-GISシステム「ソラチェク」を構築しました。
- ①降雨分布
- 降雨分布は国土交通省の水防災オープンデータ提供サービス (河川情報数値データ配信事業)によって、一般財団法人河川技術情報センターから配信されている降雨強度(雨の強さ)を250m格子、5分間隔で表示しています。降雨強度の推定には、防災科研が開発し、国土交通省XRAIN(高性能レーダ雨量計ネットワーク)に技術移転した(Xバンド)MPレーダー用の降雨強度推定アルゴリズムが反映されています(図1)。XRAINの整備により、それまで困難だった「ゲリラ豪雨」の監視が可能になりました。
- ②風向・風速分布
- 風向・風速分布は、現業機関の観測データや防災科研独自の観測データを数値シミュレーションに取り込んで、より現実に近い現象を再現するデータ同化技術を用いて推定している1km格子、10分間隔の地上の風向・風速の客観解析値(不規則に分布した観測データから、規則的な格子点で大気の状態を解析する手法で求めた値)です。風速で色分けした矢印で表しています(図2)。各格子における数分程度の平均風速を表示しており、表示された風速よりも瞬間的には強い風が吹くこともあることに留意が必要です。この風向・風速分布情報等は、防災関係機関のみならず、総合建設業者や園芸農業者、屋外イベント運営者と共同で実証実験を行った実績もあります。
- ③雷放電点密度分布
- 雷放電点密度分布は首都圏200km四方の雷(雲内、雲間、落雷)の放電点の3次元的な位置を高精度に観測できる「3次元雷放電経路観測システム」(ニューメキシコ鉱物工科大学によって開発されたLightning Mapping Array(LMA)センサー12台)による観測に基づき250m格子、5分間隔で表示しています(図3)。密度が高いほど雷活動が活発と考えられます。
気象庁雷監視システム(LIDEN)による落雷位置の情報も重ねて表示可能で、落雷と先行する雲放電の両者の状況を把握することができます。また、同心円の重ね合わせ表示により、地図中心への雷活動の近づき具合も見て取れます。
雷の監視・予測情報に対するニーズは、野外イベントの主催者や建設現場、精密機器工場、さらに電力会社、鉄道会社、航空会社等から数多く寄せられています。防災科研の観測システムによって、特徴的な雷現象の一つを観測できたことからも、LMAデータは注目されており、これまでに航空機被雷を研究している研究機関、別種類の雷観測機器を所有・活用している気象庁と電力会社、さらに複数の大学や民間気象会社にデータを提供した実績があります。
過去に花火大会が、激しい雷雨で中止になった事例も多くあり、花火大会のみならず屋外スポーツイベントにおいても、雷は最も注意・警戒が必要な現象です。屋外作業者の労働安全、通勤・通学の際の安全にも貢献することを目指しています。
- ④降ひょう分布
- 降ひょう分布は、XバンドMPレーダーの観測データから降ひょう域を推定する手法を開発して、過去3日間と現在の降ひょう推定域を500m格子、5分間隔で表示しています(図4)。
ひょうは、雨を測る雨量計や風を測る風向風速計のような観測装置が展開・整備されていないこと、突発的かつ局所的に降る場合が多いことから地上での降ひょう情報を得ることが容易ではありません。例えば、農業分野においてひょう害は大きな気象災害の一つとされていますが、降ひょうに関する情報がリアルタイムに提供されても防ひょうネット等を備えていなければ事前の対策を施すのは難しい一面があります。しかしながら、露地野菜等一般の農作物が降ひょう被害を受けた場合、速やかに農薬(殺菌剤)散布を行わないと、傷口からの病害の蔓延といった二次被害を受けることになります。現状では、ひょう害を受けた地域の特定は、目撃情報や聞き取りによるものがほとんどであり、発見までに時間がかかります。これらの降ひょう分布のデータが農業分野等に貢献することを目指しています。過去3日間の降ひょう推定域は、週末にひょうが降った場合でも、関係機関が翌週すぐに対応するために役立つと考えています。
- 3.おわりに
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「ソラチェク」では、気象情報とインフラ等を地図上で重ね合わせて表示できます。今後は、雲や積雪等の気象情報の種類を増やしていきます。また、重ね合わせる情報については、既に、東京2020大会競技会場は表示できるものの、さらに人流情報や農地情報などを表示可能にしていきます。観測研究成果の発信ツールとしてだけでなく、社会ニーズに応える情報の作成や表示方法の工夫に向けた研究開発のためのツールとして活用していきたいと考えています。
- 【参考:機能】
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「ソラチェク」は次のような機能を備えています。
- アコーディオンとタブ:左側の枠(アコーディオン)から「雨・風・雷・ひょう」「雨」「風」「雷」「ひょう」を選べます。「雨・風・雷・ひょう」では、それぞれのタブから情報を選べます。「雨」等の枠には現在一つのタブだけを表示していますが、今後、関連する情報を増やしていきます。各画面の黒四角枠は情報の表示範囲を示しています。
- レイヤー:右上の「レイヤー」ボタンで、情報の表示/非表示が切替可能です。各表示の透明度(透過の程度)を変更して、背景の地図を見やすくすることもできます。
- 拡大縮小:左上の「+/-」ボタンで拡大、縮小が可能です。
- タイムスライダー:下部のタイムスライダーと再生、コマ送りボタンで、過去2時間の範囲で時刻を選んだり、動画を表示したりすることができます。現象の移動や変化が見て取れます。
- 同心円:右下部の同心円表示にチェックを入れると、地図中心を中心とした同心円を表示することができます。現在値や目的地を中心に置くことで、現象が近づいたり、遠ざかったりしていることを把握できます。
なお、本情報の利用については自由ですが、利用に関して生じた不利益については防災科研は一切の責任を負わないものとします。
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首都圏の局地的な激しい気象の発生状況のチェックにより、気象災害軽減のための一人ひとりの具体的な行動につなげていただくために、システムの愛称を「ソラチェク」SORA CHECKとしました。
SKYではなく日本語の空(SORA)を使うことで、日本の科学技術を強調しています。ロゴマークには激しい気象の原因となる積乱雲の図案を加えています。