アルマ望遠鏡のしくみ 第2回 たくさんのアンテナをつないでひとつに:電波干渉計

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2020-05-15 国立天文台

アルマ望遠鏡のしくみとそのヒミツを解き明かす連載の第2回目は、たくさんの望遠鏡をつないで、ひとつの仮想的な巨大望遠鏡を作り上げる「電波干渉計」のしくみに迫ります。回答するのは今回も、東アジア・アルマ望遠鏡教育広報主任の平松正顕 国立天文台助教です。

── 前回、大きな望遠鏡にすればより暗い天体まで、天体のより細かいところまで見えるようになる、とお聞きしました。

はい。できるだけ大きい望遠鏡が欲しいけれど、ひとつの望遠鏡として作れるサイズには限りがある。そこで、小さい望遠鏡をつなげて、ひとつの望遠鏡にする「電波干渉計」というものが生まれたのでした。

いろいろなタイプの電波干渉計が開発されてきましたが、アルマ望遠鏡をはじめとする現代の電波干渉計に繋がる発明をしたのは、イギリス・ケンブリッジ大学のマーティン・ライルです。彼はこの発明で1974年のノーベル物理学賞に輝いています。それだけ天文学に大きなインパクトを与えた研究ということですね。

──「たくさんの望遠鏡をつないでひとつにする」というのはなんとなくイメージはできるのですが、実際になぜそれが性能の良い望遠鏡になるのか、いまひとつわかりません。仕組みを教えてもらえますか?

例えばアルマ望遠鏡は66台のアンテナでできていますが、アンテナ2台が1セットになるので、まずは2台で考えましょう。2台のアンテナから来る信号は、「相関器(そうかんき)」と呼ばれる特殊なスーパーコンピュータに送られます。ここで大切なのは、天体から2台のアンテナに電波が届く「時間」です。

2台のアンテナで、同じ天体を見ます。もし観測する天体が2台のアンテナの真正面にあったら、その天体からやってくる電波は2台のアンテナに同時に届きます。

アルマ望遠鏡のしくみ 第2回 たくさんのアンテナをつないでひとつに:電波干渉計

図1.  2台のアンテナの真正面に天体があった場合
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

でも、もしちょっと傾いた方向にあったら、電波がアンテナに届く時間がほんの少しだけずれることになります。

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図2.  2台のアンテナに対して少し傾いた位置に天体があった場合
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── この図だと、左のアンテナに先に電波が届きますね。

そうです。右のアンテナには少し遅れて届くとすると、アンテナの間に直角三角形ができますね。辺Aの長さは、光の速さ×電波の到達時間差で求められます。そしてアンテナの間の距離は測ることができます。2辺の長さがわかっていれば、三角関数を使って角度Eが計算できます。この角度Eとは何かというと、アンテナから見た天体の方角に相当します。では、天体の位置がもう少し違うところにあったらどうでしょうか。

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図3.  図2と少し違う位置に天体があった場合
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

たとえば、先ほどと比べると、2台のアンテナに届く時間差が少しだけ変わります。そうすると直角三角形の形が少し変わって、角度Eも別のものになります(図では角度e)。つまり、2台のアンテナに到着する電波の時間差を測れば、電波を出す天体がどこにあるかを言い当てられる、ということになります。ふたつのアンテナからの信号を受け取って、比べて、時間差を測っているのが、相関器です。

── なるほど、では2台のアンテナがあれば電波干渉計ができる、ということですね。

そうですが、実はまだ説明していないことがあります。次の図のように天体があった時、時間差はどうなるとおもいますか?

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図4. 2台のアンテナの正面にあるけれど、図1とは少し違う位置に天体がある場合
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── えぇと、ふたつのアンテナには同時に電波が届きますね。

はい、そうなります。図1の時も、電波が同時に届きました。ということは、図1と図4と、天体の位置は明らかに違うのに、電波の到達時間ではそれが見分けられない、ということになります。

── 電波がどちらから来ているかわからない、ということですね。

そうです。届く時間が変わらないということは、電波源の場所を知ることができないということです。

これを解決するにはどうすればよいでしょうか。答えは、この図の手前に1台アンテナをおいてやるんです。さきほどの図の2台のアンテナでは電波の到達時間差がありませんが、例えば左側のアンテナと手前に置いたアンテナなら、次の図のように時間差が生まれて、直角三角形ができます。

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図5.  アンテナを3台に増やした場合
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── なるほど、アンテナを増やすと別の方向の時間差が測れるのですね。

そういうことです。ここまでのおさらいをするための映像を用意しましたので、ぜひ見てみてください。
3次元CGを使っているので、奥行きもわかりやすいと思います。

アンテナを増やすだけではなくて、より賢い方法もあります。地球は自転しているので、観測天体側から望遠鏡を見ると、時々刻々アンテナの位置が動いていくように見えます。つまり、長い時間かけて観測すれば、そのぶんたくさんのアンテナペアで観測していることになるんです。

地球儀2

図6. 地球の自転に伴って、観測天体から見たアンテナペアの位置が変わる様子の模式図。左図ではアンテナペアはほぼ上下に並んでいますが、地球が回って右側になると、今度はアンテナペアが左右に並びます。こうすると、2台のアンテナだけでも別の方向の時間差を測ることができます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── 地球の自転の効果まで使うなんて、壮大ですね。

こうやっていろんな方向のアンテナペアで時間差を測ることで、空の上のどこに電波を出す天体があるか、つまり電波源の分布を知ることができるんです。電波源の分布を知ることはつまり、「電波写真」を撮ることと同じです。たくさんのペアでいろいろな時間差を測ることで、天体の姿をちゃんと捉えられるようになるわけです。

「いろんな方向のアンテナペア」というのは、アルマ望遠鏡のアンテナ配置にも表れています。

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図7. アルマ望遠鏡の実際のアンテナ配列
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Marinkovic/X-Cam

── アンテナの配置ですか。写真を見ると、特に法則性などはなさそうですが…。

実はそれがポイントなんです。碁盤の目状に規則正しくアンテナを配置すると、同じ方向に同じ間隔でアンテナが並んでしまいます。すると、同じ時間差を測っていることになるので、実はデータが重複してしまうんですね。アンテナの間隔や方向を少しずつ変えながらアンテナを置いていくと、一見ランダムな配置に見えます。でも、これは「計算しつくされたランダム」と言ってもいいでしょう。きれいに電波写真が合成できるように、アンテナの配置はあらかじめ設定されているんです。

── なるほど、アンテナはバラバラに置いてあるように見えますが、ちゃんと意味があったんですね。この写真の手前のあたりはアンテナがかなり密集していますが、これも意味があるんですか?

はい。アンテナの間隔を広くすれば広くするほど、小さな時間差を測ることができるようになります。つまり、天体の位置が少し違うだけでも、それを検知できるということになります。これは、解像度が高いということです。望遠鏡は大きくすればするほど解像度があがる、と説明しましたが、これは干渉計にもあてはまることで、アンテナを遠く離せば離すほど解像度が上がります。

── であれば、アンテナを遠くに置けばよくて、密集させる必要はないのでは?

実は、アンテナを遠くに置くと、解像度が上がる代わりに大きく広がった天体が見えなくなってしまうんです。広がった天体を見るには、逆にアンテナ同士を近づける必要があります。写真の手前に見えているのは、日本が作った「アタカマ・コンパクト・アレイ(愛称:モリタアレイ)」で、これは広がった天体を見るために密集した配置になっています。

── ぶつかりそうなほど密に並んでいますね。

アンテナを近づけるといっても、あまり近づけすぎるとぶつかってしまいます。例えば、直径12mアンテナは衝突を避けるために15mより近づけることができません。そこで、少し小さい直径7mアンテナを作って、さらに密集させるわけですね。そうすると、12mアンテナ群だけでは見えないような広がった天体を見ることができます。しかし、7mアンテナでも9mくらいまでしか近づけられません。

── そうすると、もっと広がった天体は7mアンテナでも見えない?

そこで活躍するのが、日本製12mアンテナです。

── アンテナは、15mより近づけられないはずでは?

はい、干渉計として使うと、15mより近づけられません。
実は日本製の4台の12mアンテナは、干渉計ではないんです。

── どういうことですか?

これらのアンテナは、他のアンテナと組み合わさず、それぞれが独立にデータを取得します。これを「シングルディッシュ観測」(あるいは単一鏡観測)と言います。12mアンテナは、1枚のつながった鏡面(大皿)を持っていますので、いわば間隔0mから口径12mまでのデータが取れます。7mアンテナ群は9mより短いアンテナ間隔のデータを取れないといいましたが、シングルディッシュ観測する12mアンテナの鏡面を使って、短いアンテナ間隔のデータを取ることになります。

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図8. アルマ望遠鏡の3種類のアンテナで得られるデータの模式図。横軸はアンテナの間隔を示しています。米欧製12mアンテナ群のアンテナ間隔は15mより大きいので、もっとも外側(15m~16km)のデータを取ることができます。日本製7mアンテナ群は、アンテナ間隔9mから30m程度なので、この間のデータを取れます。日本製12mアンテナは連続した鏡面を持っているので、0mから12mまでのデータを取れます。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── アルマ望遠鏡にいくつかの種類のアンテナがあることは知っていましたが、そんな意味があったんですね。

50台の欧米製12mアンテナ群と、日本製7mアンテナ群、それにシングルディッシュ観測する日本製12mアンテナで得られたデータを後で合成することで、アルマ望遠鏡は、広がった天体を見る(アンテナ間隔の小さいデータを取る)ことから、非常に高い解像度で観測する(アンテナ間隔の大きいデータを取る)こともできる、オールマイティな望遠鏡になっているのです。

── なるほど。やみくもにアンテナの間隔を広げればいいというわけではない、ということがわかりました。

研究者によって見たい天体の性質は違いますからね。「とにかく高い解像度が欲しい」という研究者もいれば、「解像度はそこそこでいいから、天体の広がりをしっかりとらえたい」という研究者もいます。こうしたいろんな要望に応えるための工夫が、アルマ望遠鏡の3タイプのアンテナなんです。

── モリタアレイは日本製ということですが、日本の研究者がモリタアレイを使って、欧米の研究者が欧米製12mアンテナ群を使う、というわけではないのですね。

はい、そうです。望遠鏡を作るときは各国で分担しましたが、使うときには国の区別なく使えます。あくまでも、個々の研究者がどんな天体をどんなふうに観測したいのか、が重要です。

── ありがとうございます。アルマ望遠鏡のしくみについてかなり詳しくなったように思います。

そうですね。ではこの勢いで、次回は実際の観測のようすもご紹介しましょうか。アルマ望遠鏡のデータを信頼して研究に使ってもらうために、いろいろな工夫をしています。

平松正顕(国立天文台台長特別補佐/アルマプロジェクト助教・教育広報主任)

岡山県出身。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。台湾中央研究院天文及天文物理研究所博士後研究員、アルマ地域センターアストロノマーを経て、2011年から国立天文台に勤務。専門は電波天文学で、特に星の形成過程の研究を行ってきた。またアルマ望遠鏡の広報担当として、執筆や講演などを精力的に行っている。

1701物理及び化学
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