端境(はざかい)期向けかぼちゃ新品種「おいとけ栗たん」

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長期間貯蔵してもホクホクして美味しく、収穫しやすい

2018-10-23  農研機構,株式会社渡辺採種場

ポイント

農研機構は株式会社渡辺採種場と共同で、国産かぼちゃの供給が少ない12月~5月の端境期向けのかぼちゃ新品種「おいとけ栗たん」を育成しました。収穫後3ヶ月間貯蔵しても高い糖度とホクホクとした食感を維持することから、青果用途に加えて特に端境期のペースト加工などの原料用に最適です。また、つるが短いため省力栽培にも向いており、大果で収量性も高い品種です。

概要

国内産かぼちゃの供給がとても少ない12月~5月の端境期においては、海外から輸入されたかぼちゃで国内市場が占められています。そのため特に国内のかぼちゃの加工業者から、端境期に原料を入手できる優れたかぼちゃ品種の育成が強く求められてきました。

そこで農研機構は(株)渡辺採種場と共同で、収穫後の貯蔵性が高く、端境期に出荷できるかぼちゃ新品種「おいとけ栗たん」を育成しました。

「おいとけ栗たん」は、糖度が高くホクホクとした食感(粉質)で、加工適性も高い品種です。北海道などの春播き露地栽培、本州、九州地域等の抑制栽培1)を経て秋から冬に収穫後、3ヶ月程度貯蔵しても品質が落ちませんので、リレー出荷により端境期の数ヶ月間供給が目指せます。また濃い黄色で明るい色調のため見栄えが良く、ペースト加工などの原料用や貯蔵しながらの青果販売に最適です。さらに「短節間性」2)であることにより密植栽培が可能で、側枝が少なく株元に着果するので整枝・誘引の手間が省け、果実が広範に存在しないことによる収穫作業の省力化が図れるので、低コスト栽培に挑戦する生産者にとってもメリットのある品種です。

本品種の利用により、国内産かぼちゃが不足する冬から春にかけて、品質の良い美味しく、加工にも適するかぼちゃが生産できることで、年間を通しての国産かぼちゃの供給が可能となります。

関連情報

予算 : 農林水産省「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(農食事業)」

品種登録出願 : 第32781号

その他

本資料は、道政記者クラブ、札幌市政記者クラブ、筑波研究学園都市記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブに配付しています。

※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。新聞、TV等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。

お問い合わせ

研究推進責任者 :
農研機構北海道農業研究センター
所長 安東 郁男

株式会社渡辺採種場
代表取締役 渡邉 穎悦

研究担当者 :
農研機構北海道農業研究センター
作物開発研究領域園芸作物育種グループ
グループ長 杉山 慶太

広報担当者 :
農研機構北海道農業研究センター
広報チーム長 柴垣 誠

詳細情報

新品種育成の背景と経緯

国内産かぼちゃの国内市場向け総出荷量は約14万6千トンです。一方、海外からは約11万6 千トンが輸入されています(2016年)。国内産のかぼちゃの出荷時期は主に夏~晩秋(6月~11月)であるため、端境期となる冬~春(12月~5月)には、ニュージーランド、メキシコなど海外からのかぼちゃで国内市場が占められています(図1)。日本では冬春期に出荷するかぼちゃ栽培に適した地域が少なく、そのための品種も少ないなどの理由により、冬~春の出荷が少なくなっています。このため、かぼちゃの加工業者からは、端境期においても利用可能な、高品質な国内産かぼちゃが求められていました。

そこで農研機構は(株)渡辺採種場と共同で、収穫後の貯蔵性が高く、端境期に出荷できるかぼちゃ新品種「おいとけ栗たん」を育成しました。

このかぼちゃの貯蔵はJA等がすでに備えている倉庫で貯蔵して出荷、または入荷先の加工業者の所有する倉庫で貯蔵して利用することができ、貯蔵温度は10°Cが適しています。

新品種「おいとけ栗たん」の特徴

<来歴>

農研機構が開発した短節間性の「北海6号」と、株式会社渡辺採種場が開発したつる性で高貯蔵性のNHとを交配したF1品種3)です。

<主な特徴>

  1. 貯蔵3か月後の果肉色は橙黄~橙で明るく、Brix4)、乾物率は代表的な品種「えびす」より高く、貯蔵後の品質は優れます(表2)。
  2. 貯蔵3か月後のペースト加工の歩留まりは高く、加熱後の糖度は「えびす」、貯蔵性が高い品種「雪化粧」より高い傾向にあります。また、ペーストの状態はこれらの品種より良好で、濃い黄色で明るいため見栄えが良く、加熱後糖度も高く、ペースト加工適性は優れます(表2、図2)。
  3. 生育初期において主枝(つる)の節間が短い、短節間性を示します。また、側枝が少なく株元に着果しやすいことから、整枝・誘引、収穫作業の省力化が図られます。そのため、単位面積当たりの収量が向上します。(表1)。
  4. 果実は特徴のある灰緑(うぐいす色)で他の品種と差別化できます(図3)。1果重は約2kgで、総収量、規格内収量ともに密植栽培により「えびす」、「雪化粧」より多収です(表1)。

<栽培上の留意点>

  1. 北海道などの春播き露地栽培、本州、九州地域等の端境期出荷に向けた抑制栽培に適します。高温時期の栽培では、雌花の着生不良が生じる場合があります。
  2. 密植栽培(畝うね幅150~200cm、株間50~60cm。または、畝幅300cm、株間50cm、2条植え)に適します。
品種の名前の由来

「おいとけ」は置いておける貯蔵向きを示し、「栗」かぼちゃであること、省力生産が可能な「短(たん)」節間の特性を表します。

今後の予定・期待

国内産が不足する冬から春にかけて、品質の良い美味しいかぼちゃを加工用として供給できることで、年間を通しての国内産かぼちゃによるリレー出荷に組み込めます(図4)。当面は国内産かぼちゃの端境期に向けた1万トンの出荷を目標とし、将来的には外国産かぼちゃのシェア奪還への貢献を目指します。

種子入手先に関するお問い合わせ先

株式会社渡辺採種場

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構北海道農業研究センター 企画部産学連携室 産学連携チーム

用語の解説

1) 抑制栽培
12月以降の市場の品薄期に貯蔵を経て出荷するために、一般的には8月頃に播種し露地で栽培する方法。

2) 短節間(性)
茎上で葉の付着部分(節)と葉の付着部分(節)の間(節間)が短い形質のこと。

3) F1品種
異なる系統(品種)間での交配によって得られた品種。

4) Brix
測定値はおおよその糖含量を示します。

参考図

端境(はざかい)期向けかぼちゃ新品種「おいとけ栗たん」

図1 かぼちゃの入荷量(https://vegetan.alic.go.jp/yasaimap/data/T06_01.htmより)

NZ:ニュージーランド。農畜産業振興機構「ベジ探」原資料:2017年東京都中央卸売市場年報。

表1 生育特性及び収量性

表1

図2

図2 ペースト加工品の色調(田中製餡(株)作製)
「おいとけ栗たん」は濃い黄色で明るく色調が優れています。これに対して「えびす」はやや黒ずんだ黄色で、「雪化粧」は淡い黄色で色彩がやや劣ります。

表2 貯蔵後の果実品質と加工特性

表2

図3上

図3下

図3 「おいとけ栗たん」の果実と植物体
左上:2013年10月17日撮影。白ゲージは10cm。右上:2015年7月9日撮影。
下:2018年8月31日撮影。短節間で果実が株元の近くに着いている様子(矢印)。

図4

図4 かぼちゃ端境期の生産・出荷体系のイメージ
収穫後、日持ちの良さを活かして貯蔵を行い、端境期に向けて国内産かぼちゃのリレー出荷を目指します。北海道は収穫後に2ヶ月間程度貯蔵して12月を中心とした出荷を行います。本州と九州はほぼ同じ時期の収穫となりますが、本州は大きな産地がないため、貯蔵後1月を中心に出荷を行い、九州は2~3月を中心に出荷します。沖縄県は3月中旬~4月にかけての出荷を行います。農林水産省委託プロ:農食事業の試験結果(沖縄県を除く)から推測し作成。

 

 

 

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