2018/10/12 国立天文台
超新星 iPTF14gqr の出現前と出現後の画像。破線の丸で囲まれた部分が超新星。超新星出現前のスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)による画像(赤、緑の2色合成画像、左)と、2014年10月19日の超新星出現時のパロマー60インチ望遠鏡による観測画像(赤、緑、青の3色合成画像、右)。(クレジット:SDSS/Caltech)
2017年、連星を成す二つの中性子星の合体現象が、重力波と電磁波を用いた観測によって世界で初めて捉えられました。実は、中性子星どうしの連星が作られる条件はたいへん難しいと考えられており、その形成過程はこれまで明らかになっていませんでした。この問題を解決するために、次のような理論が唱えられてきました。中性子星と連星を成している星の外層が大きく剥がれ、その状態で超新星爆発を起こすと、結果、中性子星どうしの連星が作られるという説です。そしてついに、この理論で予測された外層が大きく剥がれた超新星とよく一致する特徴を示す超新星が、過去の観測データからこのたび発見されたのです。これは、中性子星どうしの連星を形成すると考えられる超新星爆発を、世界で初めて捉えた観測と言えます。
シミュレーションで予測された超新星の光度曲線(オレンジ色の破線)と、実際に観測された超新星 iPTF14gqr の光度曲線(黒丸)。超新星爆発後3日程度までは爆発の衝撃波が冷えていくために、急激に減光する。爆発後5-10日の間には超新星爆発で作られた放射性物質が崩壊する熱によって明るく光り、光度のピークに達する。シミュレーションと観測結果がよく一致していることが分かる。(クレジット:De et al. Science 2018 を改変) オリジナルサイズ(404KB)
中性子星は、大質量星が進化の最終段階で重力収縮が進み超新星爆発を起こした際に作られる、超高密度な天体です。二つの中性子星から成る連星が形成されるためには、連星を作る二つの大質量星それぞれが超新星爆発を起こす必要があります。二つのうちより重い星が先に爆発をして中性子星が作られます。この際には連星系の一部の物質が放出されるのみですが、問題になるのはこの後に爆発する星です。引き続き残りの星が通常の超新星爆発を起こすと、連星系を作る物質が一気に失われ力学的に不安定になります。その結果、連星系が壊れてしまい中性子星どうしの連星が形成されないのです。では、中性子星の連星はどのようにして作られるのでしょうか。
この疑問に対して、国立天文台理論研究部の守屋尭(もりや たかし)特任助教らの研究チームは、2013年に次のような説を唱えました。後から超新星爆発を起こす星は、先の爆発で作られた中性子星の重力の影響で、水素やヘリウムでできた星の外層がほとんど剥がれてしまう場合があります。この状態で超新星爆発を起こすと、爆発で放出される物質がきわめて少ないために力学的に不安定にならず、連星系が壊れることはありません。こうして中性子星どうしの連星が形成されると考えることができます。さらにこの場合、後から爆発する星は爆発の直前に希薄な広がったヘリウムの層を周りに形成する可能性があることも指摘しました。
このように外層がほとんど剥がれた星が起こす超新星爆発は、どのような天体として観測されるのでしょうか。2017年、守屋氏はシミュレーションを行い、次のような予測をしました。爆発のエネルギーが通常の超新星爆発の10分の1程度と小さいこと、超新星爆発後5日から10日後の間に最も明るくなること、さらに具体的なスペクトルの時間変化などについても予測できました。そして、このシミュレーションで予測した天体とたいへんよく一致する超新星が、パロマー突発天体観測プロジェクト(intermediate Palomar Transient Factory : iPTF)の観測データからこのたび発見されたのです。米国のカリフォルニア工科大学のキシャライ・デ氏が率いる研究チームが2014年に観測した超新星「iPTF14gqr」です。この超新星は、通常の超新星よりも爆発エネルギーが小さく、爆発時に放出された物質がきわめて少ないことを示していました。さらに、超新星爆発後に行われた分光観測から、この天体の周囲には希薄なヘリウムの層が広がっていることが分かりました。これらの観測結果は、シミュレーションで予測した外層が大きく剥がれた超新星の特徴とよく一致しています。これは、中性子星どうしの連星を形成すると考えられる超新星爆発を、世界で初めて捉えた観測になります。
「中性子星どうしの合体は、金やプラチナなどの重要な元素を作り出す現象です。今後、重力波や電磁波を用いた観測で中性子星の合体を捉えること、中性子星どうしの連星を作る超新星爆発を多く観測することで、元素が形成される現場への理解がさらに進んでいくと考えています」と、守屋氏は今後の展望を語っています。
本研究の予測計算には、国立天文台が運用する計算機群「計算サーバ」とスーパーコンピュータ「アテルイ」が用いられました。
本研究は、2018年10月12日付の米国の科学雑誌『サイエンス』に掲載されました。 De et al. 2018, “A Hot and Fast Ultra-stripped Supernova That Likely Formed a Compact Neutron Star Binary”