2023-10-05 科学技術振興機構,東京都立大学,大阪産業技術研究所
ポイント
- 資源循環型社会(サーキュラーエコノミー)の実現に向け、石油資源に頼らない、分解・リサイクル可能な高機能バイオマスプラスチックの開発が急務である。
- 非可食の植物由来原料から、ポリエチレンなどの汎用プラスチックより優れた物性を示す、ケミカルリサイクル可能な高機能バイオベースポリエステルを開発した。
- 高性能触媒によるポリマー(高分子)の合成技術開発が成功の鍵で、バイオマス資源から優れたサステイナブル材料の研究開発が加速すると期待される。
JST 戦略的創造研究推進事業(以下、CREST)において、東京都立大学大学院理学研究科の野村 琴広 教授らの研究グループは、大阪産業技術研究所 森之宮センター 物質・材料研究部の平野 寛 部長らの研究チームと共同で、非可食の植物資源から、分解・リサイクル可能で、汎用プラスチックより柔軟で強度に優れるバイオベースポリエステルを開発しました。
分解・リサイクル可能な高機能サステイナブルプラスチックの開発は、サーキュラーエコノミーの実現のための重要課題です。植物油から誘導されるバイオベースポリエステルは、ポリエチレンなど石油由来の汎用オレフィン系ポリマーの有望な代替材料になると期待されていますが、引張強度や破断伸びといった要求される機械特性を超える高機能材料の開発例はほとんどありませんでした。
本研究グループは、非可食の植物油とグルコースなどから誘導されるポリエステルに注目し、今までの重縮合法の懸案であった高分子量の(鎖長の長い)ポリマー合成法として、高性能なモリブデン触媒を用いたオレフィンメタセシス重合法を開発しました。通常は分子量の増加と破断するまでの強度と伸びは二律背反関係にありますが、今回得られたポリマーフィルムの機械特性は分子量の増加とともに向上し、汎用プラスチックより優れた特性を示すことを明らかにしました。
本成果は、分解・リサイクル可能で、汎用プラスチックより優れた引張強度や破断伸びを示すバイオベースポリエステルの材料開発に初めて成功したものです。セルロースナノファイバーを始めとする天然由来の繊維との複合化によるフィルム特性の改良や高強度化などが可能で、サーキュラーエコノミーを指向したプラスチック材料の研究開発における大きなブレークスルーになると期待されます。
本研究成果は、2023年10月4日(米国東部時間)に米国化学会誌「ACS Macro Letters」のオンライン版で公開されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域
「分解・劣化・安定化の精密材料科学」(研究総括:高原 淳 九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授)
研究課題名
「機能集積型バイオベースポリマーの創製・分解・ケミカルリサイクル」
研究代表者
野村 琴広(東京都立大学大学院理学研究科 教授)
研究期間
令和3年10月~令和9年3月
JSTはこの領域で、外部刺激により材料を自在に分解する手法を開発するとともに、分解を自在に制御できる材料の開発、それら材料の階層構造制御による高機能化に関する研究、材料における環境に優しい劣化や安定化の制御法の開発を通じて、材料の分解・劣化・安定化の精密制御を達成し、究極の相反する物性である分解性と安定性の自在制御が可能なサステイナブル材料開発のための精密材料科学の確立を目指しています。上記研究課題では、豊富な非可食植物資源からのバイオベースポリエステル・アミドの精密合成と高機能材料の開発、ポリマー分解によるモノマーや機能化学品の合成を可能とする高性能触媒の開発に取り組んでいます。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(666KB)
<論文タイトル>
- “Synthesis of High Molecular Weight Biobased Aliphatic Polyesters Exhibiting Tensile Properties Beyond Polyethylene”
- DOI:10.1021/acsmacrolett.3c00481
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
野村 琴広(ノムラ コトヒロ)
東京都立大学大学院 理学研究科 化学専攻 教授
<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーション・グループ
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
東京都立大学管理部 企画広報課 広報係
大阪産業技術研究所 森之宮センター 企画部