2023-06-15 京都大学
開発したフォトニック結晶レーザーの写真(a)とレーザー特性(b)。連続動作にて、光出力50W単一モードかつ極めて狭い拡がり角(0.05°)の高ビーム品質動作に成功しました。得られた輝度は、CO2レーザー、固体レーザー、ファイバーレーザー等の大型レーザーに匹敵する値(1GWcm-2sr-1)にまで到達しました。
電子工学専攻の野田進 教授、吉田昌宏 同助教、勝野峻平 同博士課程学生、井上卓也 同助教らのグループは、フォトニック結晶レーザー(PCSEL)の連続動作状態での輝度を、CO2レーザー、固体レーザー、ファイバーレーザー等の大型レーザーに匹敵する値、1GWcm-2sr-1まで高めることに成功しました。ここに、輝度は、単位面積、単位立体角当たりの光出力と定義され、金属等の物体の光による切断・加工(以後「光加工」)を行うためには、1GWcm-2sr-1の輝度を実現する必要がありました。本成果は、大型、低効率、高コストという欠点をもつ大型レーザーを、小型、高効率、低コストという利点をもつPCSELにて一新可能な段階に達したことを示すものと言えます。このような高輝度PCSELの実現は、他の様々な多くの分野にもゲームチェンジをもたらすものと期待されます。
スマート製造(=デジタル化による自動的かつ効率的なものづくり)の分野においては、デジタル化に適した小型、高効率、低コストな半導体レーザーによる光加工の実現が望まれてきました。しかしながら、既存の半導体レーザーは、高出力時のビーム品質劣化により、高い輝度が得られないという本質的な欠点を抱えており、大型レーザーに匹敵する輝度を実現することが困難でした。研究グループは、高出力・高ビーム品質(=高輝度)動作可能という特長を有する新たな半導体レーザーであるPCSELを、1999年に発明して以来、輝度増大に取り組み、極最近、フォトニック結晶内部における光波の結合状態を精密制御することで、直径3mmのPCSELで50~100W級動作、輝度1GWcm-2sr-1の実現が可能であることを理論的に示しました。さらに、直径10mmのPCSELにより、一桁高い出力、輝度も可能なことをも示しました。
今回、研究グループは、上記の設計指針に基づく光波の結合状態の制御とともに、制御された光波結合状態を、光加工に必須な連続動作(発熱の影響を大きく受ける動作状態)においても維持可能な構造を導入した直径3mmのPCSELを開発しました。その結果、連続動作において、50W単一モード・狭ビーム出射角(0.05°)高ビーム品質動作を実現し、大型レーザーに匹敵する輝度 (1GWcm-2sr-1)を世界で初めて達成することに成功しました。
本成果は、6月14日(オンライン版、印刷版は6月22日)に英国科学誌Natureに掲載されました。
研究詳細
フォトニック結晶レーザーの高輝度(1GWcm-2sr-1)単一モード連続動作の実現-スマート製造を始めとする各種分野のゲームチェンジに向けて-
研究者情報
野田 進
吉田 昌宏
井上 卓也
書誌情報
タイトル
High-brightness scalable continuous-wave single-mode photonic-crystal laser (スケーラブルな高輝度単一モード連続動作フォトニック結晶レーザー)
著者
Masahiro Yoshida, Shumpei Katsuno, Takuya Inoue, John Gelleta, Koki Izumi, Menaka De Zoysa, Kenji Ishizaki, Susumu Noda
掲載誌
Nature