海王星は思ったより冷たい - 大気温度の予想外の変化が明らかに

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2022-04-11 国立天文台

海王星の大気温度が過去 20 年間で予想外に変動していたことが、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡による中間赤外線の観測から明らかになりました。ひとつの季節が 40 年以上かけてゆっくりと移り変わる海王星で、このような大規模な気温変化が捉えられたのは今回が初めてです。本研究では、2020年に運用を終えた、COMICS のファイナルライトで得られた画像が大きな役割を果たしました。

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海王星は思ったより冷たい - 大気温度の予想外の変化が明らかに

図1:可視光 (中央) と中間赤外線 (右) で見た2020年の海王星。可視光での画像はハッブル宇宙望遠鏡の複数の画像から合成。中間赤外線の画像は、すばる望遠鏡の COMICS によるもの。左端の画像は、地球から海王星を見たときの形状を図示したもので、自転軸が傾いた海王星の南極が見えています。観測期間の2003年から2020年でこの見え方はほとんど変化していません。中間赤外の画像 (右) では、海王星の南極が明るく輝いていることが分かります。(クレジット:Michael Roman/NASA/ESA/STSci/M.H. Wong/L.A. Sromovsky/P.M. Fry)


この研究結果は、東北大学、国立天文台、英・レスター大学や米・NASA ジェット推進研究所 (JPL) の惑星科学者らによる国際研究チームが、過去約 20 年にわたって得られてきた海王星の中間赤外線画像すべてを網羅的に解析して得たものです (注1)。

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海王星は思ったより冷たい - 大気温度の予想外の変化が明らかに 図2

図2:(下) 海王星成層圏の温度の指標となる、中間赤外放射輝度を、2003年から2020年にかけてプロットしたもの。輝度が高いほど温度が高いことを表します。(上) 波長 12 マイクロメートルの中間赤外線画像で、左から、2006年、2009年、2018年 (VLT望遠鏡 VISIR による観測)、2020年 (すばる望遠鏡 COMICS による観測) の海王星。(クレジット:Michael Roman/NASA/JPL/Voyager-ISS/Justin Cowart)


海王星の自転軸には地球と同様に傾き (約 28 度) があり、四季が訪れます。太陽の周りを 165 年以上かけて公転し、ひとつの季節は 40 年以上かけてゆっくりと移り変わります。研究者たちを驚かせたのは、海王星の気温が低下していたことでした。例えば成層圏の平均気温が、2003年から2018年の間におよそ8度も下がっています。研究の筆頭筆者であるマイケル・ローマン博士 (レスター大学) は「この変化は予想外でした。2003年は海王星の南半球の初夏にあたり、地球から見える平均気温は徐々に高くなると考えていました」と述べています。
その後、さらに劇的な変化が起きます。2019年のジェミニ北望遠鏡と2020年のすばる望遠鏡の観測により、海王星南極域での成層圏の気温が2018年から2020年にかけて 11 度も急上昇し、これまでの冷却傾向を逆転させたことが分かりました。このような極域の温暖化が海王星で見つかったのは、初めてです。
これらの予想外な気温変化の原因は今のところ不明です。共同研究者のグレン・オートン博士 (NASA JPL) は「私たちのデータは海王星の 1/8 年しかカバーしておらず、大規模な変化は予期していませんでした」と指摘しています。
「海王星の気温変化は、大気の化学的性質の季節による変化と関係している可能性があります。しかし、気象パターンのランダムな変動や、11 年の太陽活動周期も影響しているかもしれません」とローマン博士は続けます。太陽の活動が海王星の可視光域での明るさに影響を与えることは以前から指摘されていましたが、今回、成層圏の温度や雲の分布にも相関のある可能性が示唆されました。
本研究の一翼を担ったすばる望遠鏡のデータは2011年、2012年、そして2020年に、すでに共同利用運用を終了した冷却中間赤外線撮像分光装置 COMICS によって取得されたものです。特に、急激な温度上昇の発見につながった、コロナ禍中の2020年7月のデータは、まさにこの装置の「ファイナルライト」で得られたものでした。観測を行った笠羽康正博士 (東北大) と藤吉拓哉博士 (国立天文台ハワイ観測所) は「最後の機会ということで、木星、土星、天王星、海王星のデータを丁寧に取得していきました。その中からこの貴重な発見を得たのは誠に驚きであり喜ばしいことです」とコメントしています。日本の望遠鏡での中間赤外線域の観測は、現在チリで建設途上にある東京大学・アタカマ 6.5メートル望遠鏡 TAO に引き継がれていく予定です。
今回の研究で、暫定的ながら新たに見つかった、太陽活動と海王星成層圏の状態の相関の検証には、長期的な追観測が必要です。ところで海王星は、天王星とともに、彗星のような氷天体が集積してできた、ガス成分が比較的少ない「巨大氷惑星」の仲間です。この2惑星は、未だに周回探査機による調査がなされておらず、次世代の惑星探査の目標として国際的な注目を集めています。この点からも海王星の追観測は重要ですが、その一番手となるのが、今年末に天王星と海王星の観測を予定しているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置 MIRI です。本研究の共同研究者でもあるリー・フレッチャー博士 (レスター大学) が主導し、海王星大気の化学的性質と温度について、前例のない新しいデータを提供することが期待されます。

動画:2006年から2021年に得られた、海王星の中間赤外線画像。大気温度がだんだんと下がった後に、最後の数年で南極域が温暖化する様子が示されています。これらの画像はVLT望遠鏡によって撮影されました。(クレジット:ESO/M. Roman)


本研究成果は、『プラネタリー・サイエンス・ジャーナル』に2022年4月11日付で掲載されました (Roman et al. “Sub-Seasonal Variation in Neptune’s Mid-Infrared Emission“)。
(注1) 観測データは、VLT 望遠鏡、ジェミニ南望遠鏡、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡、ジェミニ北望遠鏡と、NASA のスピッツアー宇宙望遠鏡の観測から得られました。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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