2022-01-19 アメリカ合衆国・デラウェア大学 (UD)
・ UD とカナダ天然資源省(NRCan)傘下の CanmetENERGY が、製紙産業の廃棄物であるリグニンのコスト効果的なアップサイクル技術(特許出願中)を開発。
・ 製紙工場から排出される工業リグニン(technical lignin)は、熱を得るための燃焼処理やタイヤの補強材以外には利用先の物質とされている。世界の製紙工場では、年間約 1 億トンの工業リグニンを排出している。
・ 既存のリグニン・アップサイクルプロセスでは高圧力を使用してコストがかかり、スケールアップが難しい。使用する溶剤、温度や圧力のための安全対策、資本コストやエネルギー消費量が既存産業技術の不利な点となっている。
・ 本研究では、工業リグニンをバイオベースの 3D プリンティング樹脂等の高性能プラスチックや有用な化学物質に変換する効率的な手法を実証。さらに、経済性とライフサイクルの分析結果では、同手法が化石燃料ベースの製品プロセスに匹敵することも確認した。
・ リグニンの分解に使用されているメタノールをグリセリンに置き換え、従来に比べ大幅に低い蒸気圧によるプロセスが可能に。優れた加湿機能により液体化粧品や石鹸等に使用されているグリセリンが、リグニンの分解を促進して様々な製品に利用できる構成要素に変換する。
・ クラフトリグニンからバイオベースの感圧接着剤を製造するコストが、従来の高圧力プロセスより最大 60%低減できることを提示。クラフトリグニンは、パルプ・製紙工場から最も多く排出されている工業リグニンの一つ。
・ 低蒸気圧でもメタノールと同等の化学機能性を提供するためクローズドシステムが不要となり、反応と分離ステップを同時進行できるコスト効果的なシステムを実現する。また、スケールアップと継続運転も可能となり、少ない労力による低コスト・迅速なプロセスでの高い収量が得られる。
・ CanmetENERGY の協力で、様々なパルプ化工程から排出される工業リグニンの調査を実施。資本コストの低減と高価値の副生成物の生産により、新プロセスの運転コストは全てのケースにおいて従来プロセスよりも大幅に低いことを確認。
・ また、LCA では新手法の CO2 等の温暖化ガス排出量も特定。各工程にかかるコストを見極め、新手法と材料供給網インフラの最適化の方法を探る。
・ 本研究は、多面的・学際的な協力を通じて問題解決に挑む、米国立科学財団(NSF)の Growing Convergence Research (NSF GCR)プログラムの資金により支援された。
URL: https://www.udel.edu/udaily/2022/january/biomass-lignin-to-plastics-chemicals-can-be-economical/
<NEDO海外技術情報より>
(関連情報)
Science Advances 掲載論文(フルテキスト)
Ambient-pressure lignin valorization to high-performance polymers by intensified reductive catalytic
deconstruction
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abj7523