重い星の誕生のようす,また一歩解明!

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2022-03-02 国立天文台

概要
近年、分子雲どうしの衝突によって引き起こされる星形成の研究が進んでいます。特に、大質量星(概ね太陽の8倍以上の質量をもつ重い星)は中小質量星に比べて進化が速いため、また、詳しく観測できる領域が太陽付近に少ないため、その誕生のようすはよく分かっていませんでした。研究グループでは、過去40年にわたって野辺山45m電波望遠鏡と野辺山ミリ波干渉計を使い、銀河系内の大質量星形成領域W49Aの分子雲衝突と大質量星形成の関係を研究してきました。その結果、野辺山ミリ波干渉計の観測から、W49Aの中心部にあるW49Nでは、分子雲どうしの衝突によって太陽の約10,000倍の質量をもつ不安定なガス塊が多数形成された結果、たくさんの大質量星が一気に形成されていることがわかりました。さらにアルマ望遠鏡によるこのガス塊のひとつW49N MCN-aの詳細な観測データからは、重たく、暖かく、厚みのある円盤を通して、重い星が周囲のガスをかき集めながら形成されていくようすが明らかになりました。大質量星の星形成過程における周囲のガス分布が明らかになったのは初めてのことです。

分子雲衝突と大質量星の形成
野辺山45m電波望遠鏡の観測などにより、近年、分子雲どうしの衝突によって引き起こされる星形成の研究が進んでいます。銀河系内の大質量星の形成領域の一つ、W49A(注1)は、1970年代から分子雲衝突の可能性が指摘されている領域です。研究グループでは、過去40年にわたって野辺山45m電波望遠鏡と野辺山ミリ波干渉計を使い、W49Aの分子雲衝突と大質量星形成の関係についての研究を進めてきています。 大質量星は中小質量星に比べて進化が速いため、また、詳しく観測できる領域が太陽付近に少ないため、その誕生のようすはよく分かっていませんでした。中小質量星は、太陽の数倍の質量をもつガス塊「分子雲コア」のなかで、周囲のガスが円盤を通して中心星へと降り積もる(降着)ことで形成されます。大質量星の形成が、この中小質量星の形成シナリオをスケールアップしたものなのか、あるいは別の過程を経るのかは、研究者の間でも議論されているところです。

野辺山ミリ波干渉計による観測結果
研究グループは、野辺山ミリ波干渉計の観測で得られた一硫化炭素 (CS) の49 GHzの輝線、ホルミルイオン(H13CO+) の86 GHzの輝線、一酸化ケイ素 (SiO) の 86 GHzの輝線、およびそれぞれの周波数の連続放射の観測データを解析しました。その結果、CSでは11個、H13CO+では8個、SiOでは6個のガスの塊(クランプ)を同定しました。これらのクランプの平均的な質量は太陽の10,000倍です。 CSとH13CO+のクランプは、主に4 km s-1と12 km s-1の二つの速度成分に分かれており、SiOのクランプの速度は、このふたつの速度の中間にあります。CSとH13CO+の4 km s-1のクランプは、リング状に並んだウルトラコンパクトHII領域(注2)の方向に分布し、そこには若い星の周囲の高密度領域で生成されるSiOのクランプも存在しています。これに対して、CSの12 km s-1のクランプはリングを取り囲むように分布しており、リング方向では穴が開いています。 これらの結果は、もともと4 km s-1の速度を持っていた分子雲が、向こう側から手前に向かって12 km s-1の速度を持っていた分子雲と正面衝突し、その結果として両者の中間速度をもつクランプが多数形成され、それらが重力不安定性を起こして一気に多数の大質量星が形成されたのだと考えられます。衝突によってできたクランプは両者の中間速度を持ち、そこで大質量星が形成された結果SiOの輝線が放射されます。これらのクランプは、今後10万年の間に数十個の大質量星を生み出すことが推測されます。

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図1:野辺山ミリ波干渉計によるW49Nの4 kms-1成分と12 kms-1成分の分布の違い。SiOはこの二つの速度の中間(8 kms-1)にピークを持つ。カラーはCS,コントアの赤はSiO,コントアの灰色はH13CO+の強度分布を示している,また,白の星は8 GHz連続放射でHII領域を示している。左端を除いた中央のウルトラコンパクトHII領域はリング状に分布しているのでウルトラコンパクトHII領域リングと呼ばれている。
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図2:アルマ望遠鏡によるW49N MCN-aの連続放射(ダストからの放射:弱い部分は等高線で示している)(左図)とシアン化メチル(CH3CN)で見た速度分布(右図)。色は速度を表し、青→水色→黄緑→黄→赤になるにしたがってわれわれから遠ざかる。速度分布から回転している円盤であることがわかる。細い灰色の線は連続波の強度。

アルマ望遠鏡による研究の成果
大質量星の場合、中小質量星における分子雲コアに相当するものは「ホットコア」と呼ばれ、その大きさは分子雲コアと同程度で数万au (注3)ですが、温度は約300 K (摂氏27度、地球の表面温度程度)と暖かく、重さは太陽の1万倍 (分子雲コアの約1000倍) もあります。W49N MCN-a(注1)はそのようなホットコアのひとつです。中心部に太陽の15倍程度の質量の星(原始星)はできていますが、星周ガスはまだ星によって十分に電離されていません。そのため、非常に初期の段階の大質量原始星だと考えられます。 ここ数年、アルマ望遠鏡の高い分解能と感度によって、若い大質量星の周囲に大きさが1,000 au 程度の円盤が見つかってきており、円盤による降着を通して大質量星が形成されていく姿が見えてきました。 研究グループは、野辺山ミリ波干渉計で同定した分子雲コアの一つであるホットコアW49N MCN-aについて、アルマ望遠鏡で得られたミリ波の連続放射と、シアン化メチル(CH3CN)など12の分子輝線のデータを解析し、新たな知見を得ました。 まず、MCN-aの中心にある原始星の周囲には、半径が10,000 au以上にまで広がった回転円盤があることが分かりました。この円盤では、半径3,000 auから17,000 auまでの回転が、概ね V (R) ∝ R0.32 と表せることも分かりました (注4)。この回転則から円盤の質量分布が求められます。この質量分布をホットコア全体の半径 (31,000 au) まで外挿すると太陽質量の4,500倍となり、別の方法から推定されるホットコア全体の質量と誤差範囲内で一致します。そのため、今回得られたMCN-aの質量分布則は、半径3,000 auから31,000 auまでの質量分布を正しく表していると考えられます。ホットコア全体にわたって、このような質量分布が明らかになったのは初めてのことです。 また、この質量分布則を内側方向へ半径1,000 auまで外挿すると太陽質量の15.5倍という質量が得られますが、これは中心星の質量と同程度となります。このことは、半径1,000 au以内のところでは円盤は星に比べて軽くなってケプラー回転的になることを示唆しています。 今回観測された大きなガス円盤は不安定で、円盤内で渦巻きが生じたり塊に分裂したりして、ガスが円盤の内側へと落下していくものと考えられます。その速さ(質量降着率)は、 1年に太陽の1%に相当する質量が中心へと落ちていく程度だと推定され、その1割程度が実際に星に降り積もると考えられます。 アルマ望遠鏡によって、形成途中の大質量星の周囲に重たい円盤が発見される例は増えつつありましたが、そのような円盤の回転速度分布や質量分布が詳細に分かったのは今回が初めてです。

野辺山ミリ波干渉計の研究結果は、日本天文学会発行の学術専門誌 Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ) 2月号に掲載されました。アルマ(ALMA)望遠鏡の研究結果は、日本天文学会2022年春季年会にて発表されました(現在論文投稿中)。これらの研究については、日本天文学会2022年春季年会で記者向け発表を実施しました。
Miyawaki et al. “Star burst in W49N presumably induced by cloud-cloud collision”

研究チーム
宮脇亮介(桜美林大学)
林正彦(日本学術振興会ボン研究連絡センター)
長谷川哲夫(国立天文台)

用語説明
注1:W49Aはわし座にある大質量星の形成領域。距離は11キロパーセク、36,000光年。銀河系内で最も明るい水蒸気メーザーを放射している。MCN-aは、シアン化メチル(CH3CN、methyl cyanide、アセトニトリル)で発見された最初(a番目)のホットコアを意味する。

注2: ウルトラコンパクトHII領域 (Ultra-compact HII region) とは、誕生したての大質量星によって水素ガスが電離されている領域。

注3: au (astronomical unit) は天文学で用いられる距離の単位。地球と太陽の間の平均距離にほぼ等しく、1.495978707×1011 m(約1億5000万km)である。(天文学辞典 から引用 )
太陽から海王星までの距離は約30 auで、太陽系の涯にある「オールトの雲」は、太陽から数万auの距離にある。この大きさは分子雲コアやホットコアの大きさと概ね一致する。

注4:原始惑星系円盤で見られるケプラー回転の場合、V (R) ∝ R–0.5 と表され、剛体回転だとV (R) ∝ Rと表すことができる。

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