木星と土星の不規則な運動が地球型惑星たちの形成の鍵を握る

ad

2023-03-29 国立天文台

地球や火星などの地球型惑星の形成と,火星と木星の間に存在する小惑星帯の形成の両方を説明できる一つの方法が,コンピュータ・シミュレーションによって発見されました.

図1:現在の太陽系の姿.太陽から土星の距離までの太陽系の姿をクローズアップして表示したもの(太陽と惑星はサイズを拡大して表示している).火星と木星の間には小惑星帯が存在している.(クレジット:加藤恒彦,国立天文台 4 次元デジタル宇宙プロジェクト)


約 46 億年前,生まれたばかりの太陽をガスと固体微粒子を成分とする原始惑星系円盤がとりまいていました.この円盤のなかで固体成分が集まることで水星・金星・地球・火星といった地球型惑星が誕生しました.また同時期に,現在の火星と木星の軌道間に存在する小惑星帯も形成したと考えられています.しかし,地球型惑星と小惑星帯の両方を一度に再現できる数値シミュレーションはこれまでありませんでした.

近畿大学総合社会学部のソフィア・リカフィカ・パトリック 准教授と国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士 講師からなる研究チームは,地球型惑星と小惑星帯の形成を一度に説明できる条件を数値シミュレーションによって探し,新しいシナリオを提唱しました.その条件は,(1)生まれて間もない太陽系において,木星と土星の公転周期が簡単な整数比で表される「平均運動共鳴注1」に近い配置にあること,(2)太陽から 3.5 天文単位注2よりも内側に多くの微惑星とそれより重い少数の原始惑星でできた円盤が存在すること,などです.木星と土星が(1)の状態にあるときに起こる不規則な運動によって,原始惑星系円盤の微惑星の軌道が乱されることが,地球型惑星と小惑星帯の形成につながったと提唱しました.

図2:本研究で提唱する,地球型惑星と小惑星帯形成の新しいシナリオ.横軸は太陽からの距離(天文単位),縦軸は天体の軌道の乱れ度合い(円軌道からのずれ度合いや,黄道面からのはずれ度合い)を表す.(1)本研究で行われたシミュレーションの初期設定.生まれて間もない太陽系で,原始惑星系円盤のガスが散逸した直後には,太陽に近いところから 3.5 天文単位の距離までは微惑星(始原的な小惑星)が円盤状に分布していたと考える.木星と土星は現在の軌道とは少し異なり,公転周期が 2:1 となる平均運動共鳴に近い状態にあったとする.(2)約 500 〜 1000 万年後の状態.木星と土星が時折起こす不規則な運動によって,木星近くを運動する微惑星の軌道が乱される.その結果,太陽系の外部に飛ばされるなどして 1.5 〜 3.5 天文単位の位置にあった微惑星の数が減る.太陽から 1.5 天文単位よりも内側の円盤では,地球型惑星が形成され始める.(3)数千万年〜 1 億年後の様子.木星と土星は徐々に現在の軌道に近い位置へと移動する.木星よりも外側に存在していた水を豊富に含んだ微惑星が,木星と土星の重力によって軌道を乱されて太陽から 3.5 天文単位の付近に運ばれてくる.また,1.5 天文単位よりも内側では,水星・金星・地球・火星が出来上がる.その後,1 〜 10 億年かけて,太陽から 1 〜 2 天文単位の位置にある微惑星が,出来上がった惑星に衝突し,集積していく.(4)約 40 億年後.現在の太陽系の姿.2 〜 3.5 天文単位の位置に残った微惑星が小惑星帯を構成する.(クレジット:パトリック・ソフィア・リカフィカ,国立天文台)


このシミュレーションは,地球型惑星と小惑星の形成を同時に説明するだけではなく,これらの軌道や質量などの観測的特徴もよく再現しました.さらに,月の形成時期や,地球の水の起源となる水を豊富に含んだ微惑星の集積時期など,これまでに行われた様々な研究結果と矛盾しない結果を得ることができました.さらに,「後期重爆撃期注3」と呼ばれる時期に地球や月に衝突した天体の起源や,異なる分光型の小惑星の分布の成因についても説明できることがわかりました.このように,本研究が提唱する新しいシナリオによって,太陽系の地球型惑星の小惑星の起源が統一的に説明され,観測によって知られているいくつもの特徴を系統的に理解することができます.

「今回のシミュレーションの設定は原始惑星系円盤のガスが散逸した後に現れるごく自然な状態から出発しています.また,木星と土星が生み出す不規則な運動の影響も,太陽系のような天体が互いに重力をおよぼしながら運動する過程では普遍的に見られるものです.ですから,同様な過程で作られる惑星系は宇宙の中で他にも多くあるはずであり,系外惑星系の形成過程に関する知見がこうしたモデルから得られる可能性があります」と,伊藤講師は本研究の意義について述べています.

本研究成果は,Lykawka and Ito, “Terrestrial planet and asteroid belt formation by Jupiter-Saturn chaotic excitation” として, 2023 年 3 月 27 日付で英国の科学専門誌『サイエンティフィック・リポート』に掲載されました.より詳しい解説は,近畿大学ニュースリリース『地球型惑星と小惑星帯の形成を数値シミュレーションで再現 太陽系内部の形成過程に関する新しい力学モデルを提唱<?XML:NAMESPACE PREFIX = “[default] http://www.w3.org/2000/svg” NS = “http://www.w3.org/2000/svg” />』をご覧ください.

( 2023 年 3 月 29 日公開)

【論文】

タイトル:Terrestrial planet and asteroid belt formation by Jupiter-Saturn chaotic excitation
著者:Patryk Sofia Lykawka & Takashi Ito
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-023-30382-9

【本研究で使用されたコンピュータについて】

本研究で行われた数値シミュレーションでは,国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)が運用する「計算サーバ」が使用されました.このシステムは,小規模ながらも多数の初期値から開始し長い計算時間を必要とするシミュレーションや,大型のスーパーコンピュータで行うシミュレーションの準備段階の計算などに用いられています.2023 年 3 月現在,2,176 コアで構成されています.(画像クレジット:国立天文台)

【用語解説】

(注1)平均運動共鳴:天体の軌道周期が整数比の関係にある状態のこと.例えば,木星と土星の場合,木星の公転周期が約 12 年で,土星の公転周期が約 30 年であるため,木星が 5 回公転する間に土星は 2 回公転する.このように,木星と土星の軌道周期は 5:2 の整数比になっている. 平均運動共鳴は単純な現象に見えるが,太陽系や系外惑星系にある天体の運動がこの共鳴から強い影響を受けている例は本研究が扱ったものの他にも多く見られる.平均運動共鳴は天体の運動がもつ一般的な性質の中でも特に重要なものと言える.

(注2)天文単位:天文学で用いられる距離を表す単位で,太陽と地球の間の平均距離を 1 とする.約 1 億 5000 万キロメートル.現在,太陽から水星,金星,地球,火星の距離はそれぞれ,約 0.4,0.7,1.0,1.5 天文単位である.

(注3)後期重爆撃期:40 億年ほど前に数億年にわたって太陽系で起こったとされる,水星,金星,地球,火星の地球型惑星や月に小惑星が頻繁に衝突した期間.

【画像・映像の利用について】
ad

1701物理及び化学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました