2022-01-12 京都大学
葛飾北斎は大波が立ち上がった迫力の瞬間を、見事な筆致で写し取りました。現代では、そのような瞬間を写真として簡単に残すことができます。しかし、自然の中で波は移ろいゆくものであり、「止まった波」が実際に現れることはないというのが常識です。その常識に反するように、温度が下がっていくと電磁波が「止まった波」として自然と現れる、超放射相転移と呼ばれる現象が1973年に予言されていました。その後約50年にわたる研究者たちの努力にもかかわらず、常識を覆すこの現象の観測に成功した例はこれまでありませんでしたが、この度、エルビウムオルソフェライト(ErFeO3)と呼ばれる磁性体(磁石)の中で超放射相転移が初めて確認されました。
馬場基彰 白眉センター特定准教授、Xinwei Li ライス大学博士課程学生(現・カリフォルニア工科大学博士研究員)、Nicolas Marquez Peraca 同博士課程学生、河野淳一郎 同教授の研究グループは、ErFeO3の実験データから理論モデルを構築し、約4ケルビン(マイナス269度)で起こる相転移が、磁気的な波が止まった形で自然と現れる超放射相転移であることを見いだしました。この磁気的な波は、超放射相転移が起こった際に、特殊な量子論的な状態となることが知られています。今後、本研究で得られた知見をさらに発展させることによって、量子センシングや量子コンピューティングなどの量子技術への応用が期待されます。
本研究成果は、2022年1月10日に、国際学術誌「Communications Physics」にオンライン掲載されました。
図:本研究の概要図
研究者情報
研究者名:馬場基彰