太陽系外縁天体が星を隠す瞬間の高感度観測に成功~トモエゴゼンが実現する太陽系の果ての究明~

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2019-11-27 京都大学

有松亘 理学研究科研究員らの研究グループは、東京大学木曽観測所の新観測装置トモエゴゼンを用いて、太陽系外縁部の準惑星候補天体クワオアー(Quaoar)によって恒星が隠される「掩蔽」(えんぺい)と呼ばれる現象について、前例のない高感度な動画観測に成功しました。

クワオアーは過去の研究によって大気の存在する可能性が指摘されていたユニークな外縁天体でしたが、今回の観測結果からクワオアー表面には大気がほとんど存在しないことが明らかになりました。今後も本研究のような掩蔽を利用した高感度動画観測を実行することで、極めて遠方に位置するために詳細の解明が困難であった太陽系外縁天体の真の姿が急速に明らかになると期待されます。

本研究成果は、2019年11月19日に、国際学術誌「The Astronomical Journal」のオンライン版に掲載されました。

図:トモエゴゼンによる恒星掩蔽観測に成功し、大気がほとんど存在しないことが判明した太陽系外縁天体クワオアーの想像図。(有松亘/AONEKOYA)

詳しい研究内容について

太陽系外縁天体が星を隠す瞬間の高感度観測に成功
―トモエゴゼンが実現する太陽系の果ての究明―

概要
京都大学大学院理学研究科 有松亘 研究員を中心とする研究グループは、東京大学木曽観測所の新観測装置 トモエゴゼンを用いて、太陽系外縁部の準惑星候補天体クワオアーによって恒星が隠される「掩蔽」(えんぺ い)とよばれる現象について、前例のない高感度な動画観測に成功しました。クワオアーは過去の研究によっ て大気の存在する可能性が指摘されていたユニークな外縁天体でしたが、今回の観測結果からクワオアー表面 には大気がほとんど存在しないことが明らかになりました。今後も本研究のような掩蔽を利用した高感度動画 観測を実行することで、極めて遠方に位置するために詳細の解明が困難であった太陽系外縁天体の真の姿が急 速に明らかになると期待されます。
本研究成果は、2019 年 11 月 19 日に米国の国際学術誌「The Astronomical Journal」のオンライン版に掲 載されました。

1.背景
太陽系外縁天体は地球から極めて遠方に存在するために、素性を明らかにすることが非常に難しいターゲッ トです。近年ではアメリカの惑星探査機ニューホライズンズによる冥王星など一部の天体への直接探査が実現 し、冷たい氷の世界だと考えられてきた太陽系外縁天体が非常に高い活動性をもちうることが明らかになりつ つあります。しかし、直接探査に成功した天体はごく一部であり、数多くある外縁天体の素性の解明にはほど 遠いのが現状です。
2002 年に発見された太陽系外縁天体クワオアー(Quaoar, 小惑星番号 50000)は直径およそ 1100 km と推 定される準惑星候補天体です。クワオアーは冥王星(直径およそ 2400 km)と比較すると小さい外縁天体ではあ るものの、過去の研究からその表面は水 アアンモニア、メタンなど多種多様な氷で覆われていることが判明し ており、一部の氷は最近になって表面に供給されたことが推定されています。よってクワオアーは大気活動や 氷の火山の存在が示唆されており、現在においてもたぐいまれな活動性をもっている外縁天体であると考えら れてきました。
現在までに大気の存在がはっきりと確認されている太陽系外縁天体は冥王星のみです。冥王星以外にも大気 をもった外縁天体が存在するのかを明らかにすることは、いまだに謎の多い太陽系外縁天体の基本的な特性と 多様性を知るうえで重要であると考えられてきました。しかしクワオアーは他の外縁天体と同様、地球や太陽 から非常に遠方に位置する天体であるため、詳細な研究は困難でした。

2.研究手法・成果
2019 年 6 月 28 日、このクワオアーによって背景の恒星が覆い隠される、「掩蔽」(えんぺい)とよばれる現象 が日本で発生すると予報されました。掩蔽は観測者と外縁天体、そして恒星が一直線に並んだ瞬間のみ発生す る非常にまれな現象なのですが、観測の難しい外縁天体の素性を明らかにすることができる絶好のチャンスで もあります。そのため京都大学、東京大学、岡山大学、日本スペースガード協会、そして兵庫県立大学の研究 者らが中心となり、国内 4 カ所での掩蔽同時観測に挑戦しました。このうち東京大学木曽観測所では好天に恵 まれ、口径 105cm シュミット望遠鏡に新たに搭載された超広視野高速カメラ「トモエゴゼン」を用いて掩蔽 される恒星の動画観測を実施し、データの取得に成功しました。今回掩蔽された恒星の明るさは 15.7 等(肉眼 で確認できる最も暗い恒星の約 1 万分の 1 の明るさ)と、動画観測のターゲットとしては非常に暗かったもの の、新世代の高速カメラであるトモエゴゼンによって極めて高精細な動画データを得ることができたのです。
今回トモエゴゼンによって得られた動画観測データを詳細に解析した結果、クワオアーには大気がほとんど 存在しないことが判明しました。大気を持った天体による恒星掩蔽が発生した場合、恒星の光は天体表面にさ えぎられる直前と直後に、大気による屈折の影響をうけて折れ曲ります。よって仮にクワオアーに大気が存在 する場合、大気の屈折効果によって恒星の光は掩蔽によって瞬間的に明滅することなく、ゆっくりと光が増減 することが予想されます。
動画データから掩蔽される直前と直後の恒星の光度がどのように時間変動しているかを詳細に解析した結 果、クワオアーには大気の存在を示す兆候は見られないことがわかりました。今回の観測 ア解析結果から大気 圧の上限値が求められ、クワオアーに 16 ナノバール(地球表面の大気圧のおよそ 60 万分の 1)よりも高い表面 気圧を持った大気の存在する可能性がしりぞけられました。今回の観測結果は過去の観測から求められていた 上限値を大きく更新するものであり、クワオアー表面が大気で覆われている可能性に否定的な結果となってい ます。

3.波及効果、今後の予定
本研究成果は、観測が非常に難しい太陽系外縁天体の特性を 「掩蔽」を通して究明することに成功した好例 といえます。これまで恒星掩蔽による大気の屈折現象の研究には精密な動画観測が必須であり、比較的明るい 恒星の掩蔽が発生しないと実現することが困難でした。しかしトモエゴゼンによって頻繁に発生する暗い恒星 の掩蔽現象に対する高感度な動画観測が実現でしたことで、太陽系外縁天体の大気に関する研究を実施する機 会が大幅に増えることが予想されます。今回のクワオアーによる恒星掩蔽のように今後もトモエゴゼンを用い た掩蔽動画観測を実施することで、謎の多い太陽系外縁天体の真の姿に急速に迫ることが期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究プロジェクトは有松 亘(ありまつ こう) 京都大学理学研究科附属天文台ア研究員を代表とし、京都大 学、東京大学などに所属する 38 人の研究者によって実施されました。本研究は日本学術振興会科学研究費助 成事業(科研費)番号 15J10278、16K17796、 18K13599、および 18K13606 の補助を受けて行われました。

研究プロジェクト代表者、有松 亘(ありまつ こう) 理学研究科研究員のコメント>
本研究では、掩蔽という天文現象を利用するというアイデアと、最新の観測装置を用いた動画観測という新し い観測手法により、これまで解明の難しかった太陽系の果ての天体の様子を詳細に解明することに成功しまし た。今後はこの観測手法とアイデアを応用することで、太陽系の果ての描像が急速に究明できるようになるで しょう。

<論文タイトルと著者>
タイトル:New Constraint on the Atmosphere of (50000) Quaoar from a Stellar Occultation(恒星掩蔽から 得られたクワオアーの大気への観測的制約)
著 者:Ko Arimatsu et al.
掲 載 誌:The Astronomical Journal
DOI: 10.3847/1538-3881/ab5058

<参考図表>


図 1. トモエゴゼンによる恒星掩蔽観測に成功し、大気がほとんど存在しないことが判明した太陽系外縁天体クワオアー (Quaoar)の想像図。
クレジット: 有松亘/AONEKOYA


図 2. トモエゴゼンが撮影したクワオアーによる恒星掩蔽の動画から、掩蔽前、掩蔽中、掩蔽後の3枚のフレーム(静止画) を並べたもの(左:掩蔽前、中:掩蔽中、右:掩蔽後のフレームに対応。それぞれデータの一部をトリミング)。画像中央の光点 が掩蔽された恒星。
クレジット: 東京大学木曽観測所

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