2026-04-03 Tii技術情報研究所

はじめに
2025年から2026年にかけて、薄膜技術は半導体・エネルギー・バイオといった幅広い分野で急速に進化している。
特にナノスケールでの精密制御や新材料の導入により、従来の性能限界を突破する研究が相次いでいる。
本記事では、最新の研究動向を体系的に整理し、分野別にトレンドを分析する。
テーマごとの概要
■ 半導体・電子デバイス系
次世代トランジスタや量子材料など、高性能化を目指す研究が集中。
■ エネルギー・環境材料系
太陽電池や触媒など、持続可能社会を支える技術が進展。
■ 材料・ナノテクノロジー基盤
原子レベルの制御や界面設計など、基盤技術の高度化。
■ バイオ・医療応用
生体適合性やセンシング性能を高める医療応用。
■ 製造プロセス・応用技術
量産化・低コスト化を支えるプロセス技術。
各記事の概要
半導体・電子デバイス系
- 高品質薄膜形成による次世代半導体技術
なぜ三脚型分子は固体表面上できれいに並ぶのか? ―トリプチセン有機薄膜の自己組織化メカニズムを分子動力学で解明―2026-03-27 北里大学北里大学と東京科学大学の研究チームは、三脚型分子トリプチセンの有機薄膜における自己組織化メカニズムを分子動力学シミュレーションで解明した。解析の結果、厚いバルクでは分子が互い違いに並ぶ反平行配向が安定である一方... - 低温プロセス対応の成膜技術
液晶性発光色素により薄膜で実装レベルの円偏光発光を実現~オプトエレクトロニクス分野への応用に期待~2026-03-12 東京科学大学東京科学大学、京都大学、関西学院大学の研究チームは、液晶性発光色素を用いたコレステリック液晶により、薄膜でも実装可能な高性能の円偏光発光(CPL)を実現した。発光と液晶性を兼ね備えた有機π電子系色素を用い、... - 高移動度材料を用いたデバイス開発
p型・n型制御に成功:窒化物熱電薄膜の実用化に前進―残留酸素を活用した欠陥設計でキャリア極性を制御―2026-03-12 東北大学東北大学大学院工学研究科の研究チームは、クロム窒化物(CrN)薄膜の伝導型をn型からp型へ制御する新手法を開発した。スパッタリング装置内の残留酸素を不純物ではなく欠陥制御因子として利用し、窒素ガス流量を調整する... - ナノ薄膜制御による性能向上
超薄膜材料の電子特性を光で制御する新手法(Researchers Use Light To Tune Electronic Properties in Ultrathin Materials)2026-03-04 米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)米国国立高磁場研究所(National High Magnetic Field Laboratory)の研究チームは、超薄膜材料の電子特性を光によって制御する新しい手法を開発... - 新規絶縁膜による信頼性向上
レーザ光照射でトポロジカル半金属薄膜上に任意形状の超伝導ナノ構造を作製、無磁場で超伝導ダイオード効果を実証 ―将来の超伝導量子デバイス・量子回路の実現に道―2026-03-04 東京大学東京大学大学院工学系研究科の研究チームは、トポロジカルDirac半金属α-Sn薄膜に集光レーザを局所照射することで、超伝導金属β-Snをナノメートルスケールで任意形状に形成する新しいナノ加工技術を開発した。レー... - 高性能薄膜トランジスタ技術
デュアル欠陥工学戦略によりN型熱電薄膜の性能を向上(Dual-Defect Engineering Strategy Boosts N-Type Thermoelectric Thin Film Performance)2026-03-02 中国科学院(CAS)中国科学院金属研究所の邰開平教授らの研究チームは、デュアル欠陥工学戦略を用いて高性能なn型Mg3(Sb,Bi)2系熱電薄膜を開発した。Mgは蒸気圧が高く成膜時に欠損が生じやすいこと、また薄膜でのキャ... - 新構造デバイス向け設計技術
光が生み出す流れで生体試料を高速濃縮する金属ナノ薄膜光ファイバー型3次元捕捉技術を開発2026-02-20 大阪公立大学大阪公立大学LAC-SYS研究所の林康太特任助教、飯田琢也教授らは、光ファイバ端面に金属ナノ薄膜を被覆した光ファイバ型光濃縮モジュールを開発した。近赤外レーザー照射で発生する光熱効果によりバブルと数mm/s... - 量子材料薄膜の応用研究
強誘電体薄膜における3次元「極性カイラル・ボバー」の発見(3D "Polar Chiral Bobbers" Identified in Ferroelectric Thin Films)2026-02-03 中国科学院(CAS)中国科学院の金属研究所(IMR)と松山湖材料実験室などの共同研究チームは、強誘電体酸化物薄膜中に新しい三次元(3D)分極トポロジー構造「ポーラーカイラル・ボバー」を発見した。PbTiO₃超薄膜を対象...
エネルギー・環境材料系
- 高効率太陽電池薄膜
新規窒化物強誘電体薄膜を用いた積層キャパシタの大幅なスケールダウンに成功~ロジック混載型次世代強誘電体メモリの実用化を加速~2025-12-25 東京科学大学東京科学大学(Science Tokyo)とキヤノンアネルバの研究グループは、窒化物強誘電体であるスカンジウム置換アルミニウム窒化物((Al,Sc)N)薄膜を用いたPt/(Al,Sc)N/Pt積層キャパシタ... - エネルギー変換効率向上技術
結晶のひずみを抑えて超伝導を発現~薄膜界面における整数比の格子整合を介した物性制御~2025-12-11 理化学研究所,東京大学,高エネルギー加速器研究機構理化学研究所・東京大学・高エネルギー加速器研究機構の共同研究グループは、薄膜界面で整数比(5格子:6格子)の格子整合が起きる「高次エピタキシャル成長」を利用し、テルル化... - 環境負荷低減型プロセス
AIを高速化し省電力化する新しい薄膜材料を開発(UH Engineers Making AI Faster, Reducing Power Consumption)2025-12-02 ヒューストン大学ヒューストン大学(University of Houston)の研究チームは、AI推論を従来より高速・省電力で実行できる超薄膜電子デバイス技術を開発した。新技術は、厚さわずか数ナノメートルの強誘電体薄膜... - 触媒薄膜によるエネルギー応用
薄膜磁性結晶における励起子形成を解明(Scientists Describe Exciton Formation in Thin Magnetic Crystals)2025-12-01 米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)米国 NREL(National Renewable Energy Laboratory)と共同研究者は、量子計算・先端エレクトロニクス材料として注目される二次元磁性結晶の中...
材料・ナノテクノロジー基盤
- ナノ構造制御技術
光学メタサーフェスと薄膜光検出器アレイを集積したワンチップ高速光受信器を実証 ~多様な光信号方式に対応した2次元アレイ受信器が可能に~2025-11-24 東京大学東京大学の研究グループは、光学メタサーフェスとInGaAs薄膜光検出器アレイを石英基板上で一体集積した世界初のワンチップ高速光受信器を実証した。基板の両面にメタサーフェスと薄膜光検出器を集積し、入力光の偏波成分... - 界面制御の進展
1原子レベルの薄膜で磁気準粒子の磁化ねじれを制御~大容量・高速・低電力な新規情報端末の幕開け~2025-11-21 九州大学九州大学の研究グループは、情報端末の大容量・高速・低電力化を同時に実現できる可能性をもつ磁気スキルミオンの性能を、1原子レベルの薄膜挿入によって飛躍的に改善する手法を実証した。従来のPt/Co/Ni積層構造に、... - 高機能材料の薄膜化
組成傾斜薄膜に対応したAIベース自律材料探索システムを開発~最高性能を示す新しい磁気機能材料薄膜の高効率な開拓に成功~2025-11-20 物質・材料研究機構,科学技術振興機構NIMSとJSTの研究チームは、組成が連続的に変化する「組成傾斜薄膜」を対象に、大量データの自動解析とAIによる最適組成予測を可能にする自律材料探索システムを開発した。組成傾斜薄膜か... - 原子レベル設計技術
固体酸化物薄膜中で単一分子への配線に成功~次世代低消費電力電子素子の開発に期待~2025-11-20 東京科学大学東京科学大学理学院化学系・物質理工学院材料系などの研究グループは、固体酸化物薄膜中でナノスケールの銀原子フィラメントを形成し、金属電極から有機分子(アセチレン)への配線に成功しました。印加電圧により銀イオン...
バイオ・医療応用
- バイオセンサ用薄膜
AI時代を支える新磁性体、二酸化ルテニウム薄膜の「交代磁性」を実証〜AI・データセンター向け高速・高密度メモリ開発に期待〜2025-09-24 物質・材料研究機構,東京大学,京都工芸繊維大学,東北大学物質・材料研究機構(NIMS)は、二酸化ルテニウム(RuO₂)薄膜における交代磁性の実証に成功した。交代磁性はスピンが互いに打ち消し合う配置で強磁性とは異なるが、... - 医療診断ナノ薄膜
高エントロピー酸化物薄膜の酸化選択性とクロムの偏析(When High Entropy Meets Epitaxy: Selective Oxidation and Chromium Segregation in Multicomponent Oxide Thin Films)2025-09-15 パシフィック・ノースウェスト国立研究所 (PNNL)太平洋北西国立研究所(PNNL)の研究では、高エントロピー酸化物薄膜をエピタキシャル成長させる際に、酸化選択性とクロムの偏析がどのように生じるかを明らかにした。複数元... - 生体適合材料開発
真空と物質、「無」と「有」が織りなすエネルギーを統一する公式を発見~極小デバイス開発につながる薄膜状物質内部の基礎原理を解明~2025-08-29 日本原子力研究開発機構,理化学研究所日本原子力研究開発機構と理化学研究所の共同研究グループは、真空から生じる圧力(通常のカシミール効果)、熱による圧力、さらに物質そのものが発生させる圧力を統一的に記述できる新しい公式を...
製造プロセス・応用技術
- 大面積成膜技術
近赤外光を可視化する超薄膜レンズ (Ultra-thin lenses that make infrared light visible)2025-06-02 スイス連邦工科大学チューリッヒ校 (ETH)(チューリッヒ工科大学)ETHチューリッヒの物理学者らは、驚くべき性質を持つ「超薄型メタレンズ」を開発しました。このレンズは、赤外線(不可視光)を半分の波長に変換し、可視光(... - 高スループット技術
安全かつ簡便に作れる高性能薄膜トランジスタ~水素ガス不要で、電界効果移動度は従来比10倍~2025-08-20 北海道大学北海道大学の研究グループ(太田裕道教授ら)は、水素ガスを用いずに高性能薄膜トランジスタを作製する新手法を開発しました。従来の水素添加酸化インジウム薄膜トランジスタは、主流のIGZO素子の約10倍となる高い電界... - 低コスト製造技術
鏡のようなグラファイト薄膜、強度と導電性で記録更新(Mirror-Like Graphite Films Break Records in Strength and Conductivity)2025-08-12 韓国基礎科学研究院(IBS)韓国・基礎科学研究院(IBS)のロドニー・S・ルオフ所長らは、従来の合成黒鉛を大きく超える性能を持つ「鏡面状黒鉛フィルム」の製造に成功した。新手法は、Ni-Mo合金から成長後にニッケルを選択... - 均一成膜技術
スパッタ法を用いて高品質なScAlN薄膜の作製に成功 ~成長温度の系統的変化が構造特性と電気特性に及ぼす影響を解明~2025-08-08 東京理科大学,住友電気工業株式会社,東京大学東京理科大学、住友電気工業、東京大学の共同研究チームは、産業的に汎用性の高いスパッタ法で高品質な窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)薄膜の作製に成功しました。成長温度を... - 新規成膜装置
超薄膜ポリマーメンブレンの新戦略が選択的イオン輸送を可能に(Interfacial Polymer Cross-linking Strategy Enables Ultra-thin Polymeric Membranes for Fast and Selective Ion Transport)2025-06-24 中国科学院(CAS)中国科学院大連化学物理研究所の李賢峰教授らは、超薄型高性能高分子膜を作製する新しい「界面高分子架橋法」を開発した。従来の不規則な多孔構造による選択性と透過性のトレードオフ問題を解消すべく、界面空間で...
テーマ別トレンド分析
■ 半導体・電子デバイス系
性能向上と低消費電力化を両立するため、ナノレベルでの薄膜制御技術が急速に進展している。
一方で製造コストやプロセス複雑化が課題であり、量子材料や新構造との融合が今後の鍵となる。
■ エネルギー・環境材料系
再生可能エネルギーの効率向上に直結する薄膜技術が注目されている。
耐久性や量産性の確保が課題だが、環境負荷低減と両立する技術開発が加速している。
■ 材料・ナノテクノロジー基盤
界面制御や原子レベル設計により材料性能が飛躍的に向上している。
再現性や評価技術の確立が課題であり、基盤技術としての重要性はさらに高まる見込み。
■ バイオ・医療応用
高感度センサや生体適合材料により医療分野での応用が拡大している。
安全性や長期安定性の検証が求められるが、個別医療への貢献が期待される。
■ 製造プロセス・応用技術
量産化とコスト削減を実現する技術が進展。
品質均一性とスケーラビリティの両立が課題であり、AIや自動化との融合が今後の主流となる。
全体まとめ
2026年の薄膜技術は、「高度化」と「社会実装」の両輪で進展している点が特徴的である。
半導体分野では微細化の限界を突破するための材料・構造革新が進み、エネルギー分野では持続可能性を重視した高効率化が加速している。
また、医療分野では薄膜の機能性を活かした診断・治療技術が拡大しつつある。
一方で、これらの先端技術を実用化するためには、製造プロセスの革新が不可欠であり、特に量産性とコストの壁が大きな課題となる。
今後はAI制御や自動化技術との融合により製造の高度化が進み、異分野連携による新たな価値創出が期待される。
薄膜技術は単なる材料技術から、産業全体を支える基盤プラットフォームへと進化していくだろう。

