2024-03-06 物質・材料研究機構,筑波大学
NIMSは、電子顕微鏡観察から得られるネオジム磁石の微細組織を有限要素モデルに取り込み、外部磁界の影響で磁石が減磁する過程を数値シミュレーションで再現することに成功しました。
概要
- NIMSは、電子顕微鏡観察から得られるネオジム磁石の微細組織を有限要素モデルに取り込み、外部磁界の影響で磁石が減磁する過程を数値シミュレーションで再現することに成功しました。このシミュレーションを通じて、磁石の強さの指針の一つである保磁力を物理的限界に近づけるために必要な微細組織を予測することが可能になります。本研究の成果は、商用磁石の磁気特性が物理的限界に遠く及ばない原因を明らかにし、究極の性能を持つ磁石開発への指針となることが期待されます。
- 風力発電、モビリティー用途で使用されるモーターは高性能永久磁石に大きく依存しており、その中でもネオジム (Nd-Fe-B) 磁石は最も強力で需要が増大しています。しかし、ネオジム磁石の保磁力は、そのほとんどが物理的限界をはるかに下回っています。
- 本研究では、超微細粒Nd-Fe-B磁石の微細組織を電子顕微鏡で観察し、それを大規模モデルで再構成する新しいアプローチを提案しました。このアプローチは、走査型電子顕微鏡(SEM)と集束イオンビーム(FIB)による研磨を組み合わせて取得した多数の2次元画像データを、高品質な3次元モデルに変換するというトモグラフィーに基づくもので、磁石研究に限らず他の多結晶材料に適用して、材料科学の幅広い数値計算のモデルとして応用できます。
- このトモグラフィーとシミュレーションの組み合わせは、現実の現象を仮想空間に構築するデジタルツインの実現であり、先進的な超微細粒Nd-Fe-B磁石の保磁力を再現し、そのメカニズムの説明を可能にするとともに、磁石の強さを支配する微細組織の特徴も明らかになりました。
- 今回開発したネオジム磁石のデジタルツインは、微細組織と磁気特性の両方を再現するのに十分な精度を備えており、保磁力が物理的限界を下回っている原因の解明や、高性能な永久磁石の設計・開発に利用できます。例えば、自動車用駆動モーターや可変磁束モーターなど、特定の用途に必要とされる磁石の要求特性を入力すれば、データ駆動型の予測を通じて、その用途に最適な磁石の組成、プロセスの詳細、微細組織等を提案することができるようになり、用途に応じて必要とされる磁石の開発期間を著しく短縮することができると期待されます。
- 本研究は、Anton Bolyachkin(NIMS若手国際研究センター ICYSリサーチフェロー) 、Hossein Sepehri-Amin (NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センター グリーン磁性材料グループ グループリーダー、筑波大学数理物質系 連携大学院准教授) 、大久保忠勝(NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター 副センター長) を中心とする研究チームによって実施されました。本研究の一部は、文部科学省データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業 (DxMT) JPMXP1122715503、および、日本学術振興会科学研究費補助金 (助成番号JP23H01674)の助成を受けたものです。
- 本研究成果は、npj Computational Materials誌 に 2024年2月 12日にオンライン掲載されました。(DOI: 10.1038/s41524-024-01218-5)
掲載論文
題目 : Tomography-based digital twin of Nd-Fe-B permanent magnets
著者 : A. Bolyachkin, E. Dengina, N. Kulesh, Xin Tang , H. Sepehri-Amin, T. Ohkubo, K. Hono
雑誌 : npj Computational Materials
掲載日時 : 2024年2月12日
DOI : 10.1038/s41524-024-01218-5