解析が難しい微小結晶試料の構造を高精度で解明 ~新規の薬剤候補物質や有機半導体材料の分子構造解明に貢献~

ad

2024-02-29 東北大学

多元物質科学研究所 教授 米倉功治

【概要】

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター生体機構研究グループの高場圭章基礎科学特別研究員(研究当時)、SACLAビームライン基盤グループイメージング開発チームの眞木さおり研究員、生体機構研究グループの米倉功治グループディレクター(東北大学多元物質科学研究所教授)、SACLAビームライン基盤グループビームライン開発チームの井上伊知郎研究員、SACLAビームライン基盤グループの矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室の登野健介チームリーダー、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の森本淳平講師、山東信介教授らの共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)[1]を、構造解析が難しい微小結晶試料に応用する技術を開発し、薬剤候補物質や有機半導体材料などの分子構造決定に成功しました。

本研究成果は、有機化合物の立体構造、化学的性質、機能のより詳しい理解を進め、創薬や材料開発に役立つと期待できます。

有機合成化学、薬学、材料科学などの分野では大きな結晶が得られない化合物が多く、小さな結晶の構造解析技術が重要です。電子線はX線に比べて試料に数万倍も強く散乱されるため、微小結晶の構造解析に利用されています。しかし、電子回折[2]には厚い結晶への適用の制限や、得られるデータの品質が劣るという欠点があります。

今回、XFEL施設「SACLA」[3]を用いて、大きな結晶を作りにくく、かつ結晶の方位に偏りがあるなどの性質から、解析が困難だった化合物の構造を決定しました。ここではXFELのデータ処理に、電子線から得た分子の並びについての情報を与えることで高い効率の解析が実現できました。開発した手法により、広範な分野の難解なターゲットに対しても優れた品質の構造情報が得られます。

本研究は、科学雑誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版(2月28日付:日本時間2月28日)に掲載されました。

XFELと電子線3次元結晶構造解析法(3D ED)の結晶構造解析の比較

【用語解説】

[1] X線自由電子レーザー(XFEL)
近年の加速器技術の発展によって実現したX線領域のパルスレーザー。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。「SPring-8(スプリングエイト)」などの従来の放射光源と比較して、10億倍もの高輝度のX線がフェムト秒(1,000兆分の1秒)の時間幅を持つパルス光として出射される。この高い輝度を生かして、ナノメートルサイズの小さな結晶を用いたタンパク質の原子レベルでの分解能の構造解析や、X線領域の非線形光学現象の解明などの用途に用いられている。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。

[2] 電子回折
電子線が結晶性の試料に散乱され干渉して、分子の並びを反映した規則的な点の並びなどの特徴的なパターンが観測される現象のこと。

[3] XFEL施設「SACLA」
理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した、日本で初めてのXFEL施設。科学技術基本計画における五つの国家基幹技術の一つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で建設・整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLA(サクラ)と命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まった。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1と、コンパクトであるにもかかわらず、0.1ナノメートル以下という世界最短波長クラスのレーザーの生成能力を持つ。

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 米倉 功治(よねくら こうじ)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

ad

2004放射線利用
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました