2024-02-15 東京大学
発表概要
京都府農林水産技術センター、東京大学大学院農学生命科学研究科及び日本ワイドクロス株式会社は、ネギやキャベツの難防除害虫ネギアザミウマの色に対する応答反応を解析し、効果的に防除できる新型赤色防虫ネットを開発しました。従来の防虫ネットに比べて防除効果が大幅に向上し、革新的な減農薬技術として英国の学術誌「Scientific Reports(サイエンティフィック レポート)」に論文が掲載されました。
発表内容
- 研究背景
●今日、農業生産現場では、農薬に頼らない防除技術へのニーズが高まっており、特に『九条ネギ』等のブランド京野菜では一層の減農薬栽培が求められています。
●農薬に代わる物理的防除技術として、最近10年ほどの間に「赤色防虫ネット」が生産現場に普及しつつありますが、減農薬技術としての十分な効果が得られているとは言えず、また、防除効果を示すメカニズムについても不明でした。 - 研究内容
●京都府農林水産技術センター、東京大学大学院農学生命科学研究科及び日本ワイドクロス株式会社では、様々な色の織り糸を組み合わせた防虫ネットを使った室内実験及びほ場試験により、
・重要害虫ネギアザミウマの赤色防虫ネットに対する反応特性の解明
・防除効果の高い新型赤色防虫ネットの開発
に取り組みました。 - 研究成果
1) 赤色防虫ネットの侵入抑制効果を室内実験で検証し、ほ場試験で実証
●ネギアザミウマに対する侵入抑制効果(侵入率)は、織糸の組み合わせが、赤と黒(以下、赤黒)と赤と赤(以下、赤赤)で最も高く、従来の白と白(以下、白白)のそれぞれ約1/14、1/8に抑えられた(図1)。
●新型赤色防虫ネットをほ場試験により実証した結果、赤色防虫ネットをほ場全体に被覆した場合、ネギアザミウマの発生密度はネットを被覆しない場合の約1/10に抑えることができ、ほ場を赤色防虫ネットで囲った場合でも約1/2に抑えることを実証(写真1)。
図1 ネギアザミウマの各種防虫ネットへの侵入率(%)
写真1 赤色防虫ネットのほ場試験の様子2)赤色繊維が侵入抑制効果の向上に寄与することを証明
●ネギアザミウマが各種防虫ネットを通り抜ける反応について、繊維の色と侵入率の関係を統計学的手法により分析した。
●室内実験(二者択一実験)から、従来の非赤防虫ネット(白白、黒黒、黒白)に比べて赤色防虫ネット(赤白、赤黒、赤赤)の侵入率が低下することが確認された。
●さらにほ場試験の結果と合わせて、ネギアザミウマ侵入抑制には赤色繊維の使用率が重要であると結論した。
3)防除効果が向上した新型赤色防虫ネットの開発に成功 - 今後の展望
●本研究で開発した新型赤色防虫ネットを発展・活用することにより、殺虫剤のみに頼らない農業生産体系の構築や、農作物の輸出における残留農薬問題の軽減、有機栽培の促進に寄与することが期待されます。
論文について
- 雑誌
- Scientific Reports(2024年2月14日19時)
- 題名
- Advanced methods for insect nets: Red-colored nets contribute to sustainable agriculture.
- 著者
- Susumu Tokumaru, Yoshiaki Tokushima, Shun Ito, Terumi Yamaguchi and Masami Shimoda
- DOI
- 10.1038/s41598-024-52108-1
- URL
- https://www.nature.com/articles/s41598-024-52108-1
<参考:用語の解説>
1 赤色防虫ネット
防虫ネットの糸を赤に染色した新型の防虫ネット。これまでは縦と横の糸が白色(透明)のタイプしかなかったが、赤と白の組み合わせが神奈川県で開発され、今回は、糸の組み合わせを赤と黒、赤と赤の組み合わせで試験を行った結果、さらに防除効果が高まった。
2 ネギアザミウマ
ネギ、タマネギ,ミズナ、キャベツ、ナス、カキなど広範囲なグループにわたる野菜及び果樹類を加害する。成虫(写真2)及び幼虫が、直接葉をかすり状に加害する(写真3)だけでなく、ネギえそ条斑病の病原ウイルスも媒介する。卓効を示す農薬が少なく、農薬以外の防除技術の確立が求められている。
写真2 ネギアザミウマ成虫(体長1.1~1.6㎜)
写真3 ネギアザミウマによるネギ被害
問い合わせ先
(研究に関すること)
京都府農林水産技術センター
センター長 大橋 善之
生物資源研究センター 所長 城田 浩治
東京大学大学院農学生命科学研究科
教授 霜田 政美(しもだ まさみ)
(広報に関すること)
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 事務部 総務課広報情報担当