2024-02-01 京都大学
田原弘量 白眉センター/化学研究所特定准教授、金光義彦 化学研究所教授、坂本雅典 同准教授、寺西利治 同教授の研究グループは、半導体量子ドットを集めて結合させることで現れる新しい協同効果を発見し、その効果を利用して非線形光電流を増大させることに世界で初めて成功しました。
半導体量子ドットはナノメートルサイズの微小な結晶であり、2023年のノーベル化学賞の受賞対象となった材料です。量子ドットの中に電子を閉じ込めることで、量子力学的な効果によって光の吸収や発光の波長を変えることができます。そのため、広い波長範囲の光を吸収して電気を取り出す太陽電池や、好きな色に光らせる発光ダイオードなどの光電デバイスの材料として注目されています。
本研究グループは、たくさんの量子ドットを集めた集合体がどのような物性機能を持つのかを明らかにするために、量子ドット同士を有機分子で結合させた量子ドット膜を作製し、光照射によって量子ドットに作られた電子を電流として取り出す実験を行いました。有機分子の長さを変えながら量子ドット同士の距離を近づけていったところ、量子ドット膜から取り出される非線形光電流が非常に大きくなることを発見しました。レーザーパルス光を使った電子の量子干渉計測を行うことで、集団の量子ドットの中に入った電子が互いに協同的に振る舞うことでこの増大現象が生じることを明らかにしました。非線形な光電流が増大することは、照射した光のエネルギーが物質の中で高いエネルギーに変換されて電流として取り出せることを意味しており、低いエネルギーの光を有効利用した光センサーや太陽電池などの新しい技術につながると期待されます。
本研究成果は、2024年1月31日に、国際学術誌「Nature Nanotechnology」にオンライン掲載されました。
半導体量子ドットをつなぐ有機分子を短くすることで、多数の量子ドットがお互いに協同して光電流を強めること(量子協同効果)を発見しました。
研究者のコメント
「たくさんの量子ドットを集めたときに、ただ単に数を集めただけになるのか、それともお互いに協力し合った集まりになるのか、と考えたことが本研究のきっかけでした。量子ドットは電子を中に閉じ込める小さな構造ですが、量子ドット同士を結合させた量子ドット膜では、電子を周りに染み出させることができます。この電子の閉じ込めと染み出しを絶妙なバランスで利用したことが本研究の成功の鍵になりました。
量子ドットをただ単に集めただけでは『烏合の衆』になってしまいますが、有機分子を使って手をつなぐようにすると、量子ドット同士がお互いに協力し合って信号を強めるようになりました。手を取り合えば協力して大きな力が生まれるというのは、私たちの生活にもつながることだと思います。発見した量子協同効果は、光エネルギーや電気エネルギーの有効利用に役立つものであり、『ナノ』と『量子』と『光』をキーワードとして次世代デバイスに向けた研究を進めたいと思います。」
詳しい研究内容について
集めてつなげば協力し合う、量子ドットの新しい協同効果を発見して非線形光電流の増幅に成功―太陽電池、光エネルギーの有効利用につながる新現象―
研究者情報
研究者名:田原 弘量
研究者名:金光 義彦
研究者名:坂本 雅典
研究者名:寺西 利治
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41565-024-01601-9
【書誌情報】
Hirokazu Tahara, Masanori Sakamoto, Toshiharu Teranishi, Yoshihiko Kanemitsu (2024). Coherent electronic coupling in quantum dot solids induces cooperative enhancement of nonlinear optoelectronic responses. Nature Nanotechnology.