病原細菌に感染する頭部を欠いたファージ尾部様粒子rhizoviticinを発見
2024-01-18 岡山大学,農研機構,理化学研究所,九州大学,岡山県
◆発表のポイント
- 根頭がんしゅ病は病原細菌によって引き起こされるブドウの重要病害です。岡山県農林水産総合センターでは、この病原細菌に対し抗菌効果を持ち、同病を抑制できる拮抗細菌を特定していましたが、その作用機序は不明でした。
- 今回、その抗菌効果の実体が、頭部を欠いたファージ尾部様粒子(通称 テイロシン)であることを突き止め、rhizoviticin(リゾビティシン)と命名しました。
- 本研究は、テイロシンが拮抗細菌の防除効果の原因であることを示した初めての例です。拮抗細菌の生物農薬としての利用促進、さらなる有用細菌の選抜、テイロシンによる防除法開発などが期待されます。
- rhizoviticinはアルファプロテオバクテリア綱では初のテイロシン発見例で、そのゲノム構造は既知のテイロシンと異なることから、テイロシンの起源や進化を知る鍵になりえます。
岡山大学大学院環境生命科学研究科の石井智也大学院生(当時)、齋藤晶大学院生(当時)、Niarsi Merry Hemelda大学院生(博士後期課程3年)、農学部の土田菜月学部生(当時)、大学院環境生命自然科学研究科の包継源大学院生(博士後期課程1年)、学術研究院環境生命自然科学学域(農)の渡邉恵非常勤研究員(当時)、能年義輝教授と農研機構西日本農業研究センターの川口章上級研究員、理化学研究所環境資源科学研究センターの佐藤繭子技師、豊岡公徳上級技師、石濱伸明研究員、白須賢副センター長、九州大学大学院医学研究院の林哲也教授らの共同研究グループは、ブドウの重要病害である根頭がんしゅ病を抑制できる拮抗細菌が、頭部を欠いたファージ尾部様粒子によって根頭がんしゅ病の病原細菌を溶菌することで防除能を発揮する仕組みを明らかにしました。本成果は日本時間1月18日午前9時、国際微生物生態学会の科学雑誌「The ISME Journal」にオンライン掲載されます。
根頭がんしゅ病は土壌に生息する植物病原細菌によって引き起こされ、化学農薬での防除が難しい病害です。このような病害には拮抗微生物(生物農薬)が有効です。岡山県農林水産総合センターではブドウ根頭がんしゅ病を極めて強力に抑制する拮抗細菌を特定していましたが、今回その作用機序が明らかになったことで、拮抗細菌の生物農薬としての利用や、さらに有望な菌株の単離に道が拓け、世界のブドウやワイン生産の安定化への貢献が期待されます。
◆研究者からひとこと
岡山県農林水産総合センターが誇る有用微生物である拮抗細菌の作用メカニズムを、多くの学生のバトンリレーと強力な共同研究者のご協力により、ようやく解明することができました。責任を果たせてホッとしています。今回見出したテイロシンはその構造や特徴がユニークで、基礎科学的にも重要な発見を世界に発信できたことは研究者冥利に尽きます。農業現場は研究材料の宝庫ですね。各データを振り返ると、それぞれの学生が困難を乗り越えて捻出した発見の日々が思い出され、大学教員として人生に刻まれる感慨深い研究成果になりました。 能年教授
図1:ブドウの苗木に発生した根頭がんしゅ病
図2:rhizoviticin及びその由来となったと考えられるファージのゲノム構造(上)と模式図(下左)、および実際に電子顕微鏡で観察されたrhizoviticin(下右)
rhizoviticinは、ファージAのテイルとファイバーの遺伝子領域が、ファージBに由来する遺伝子発現調節や複製関連の遺伝子群と融合(組換え)した際に、ヘッドに関連する領域を失って誕生したと考えられる。
図3:拮抗細菌(VAR03-1)がrhizoviticinを放出して病原細菌を溶菌する仕組み(左)、rhizoviticinを欠損した拮抗細菌のがんしゅ形成抑制能の低下(右、トマトの茎での検証接種実験)
■論文情報
論 文 名:Rhizoviticin is an alphaproteobacterial tailocin that mediates biocontrol of grapevine crown gall disease
掲 載 紙:The ISME Journal
著 者:Tomoya Ishii, Natsuki Tsuchida, Niarsi Merry Hemelda, Kirara Saito, Jiyuan Bao, Megumi Watanabe, Atsushi Toyoda, Takehiro Matsubara, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Nobuaki Ishihama, Ken Shirasu, Hidenori Matsui, Kazuhiro Toyoda, Yuki Ichinose, Tetsuya Hayashi, Akira Kawaguchi, and Yoshiteru Noutoshi
D O I:10.1093/ismejo/wrad003
U R L:https://doi.org/10.1093/ismejo/wrad003
■研究資金
本研究は、科学研究費補助金(JP17H03778、JP17H06172、JP20K20572)の助成と先進ゲノム支援(PAGS:JP16H06279)の支援を受け実施しました。
<詳しい研究内容について>
ブドウを根頭がんしゅ病から守る!拮抗細菌が根頭がんしゅ病を抑制する仕組みを解明~病原細菌に感染する頭部を欠いたファージ尾部様粒子rhizoviticinを発見~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)
教授 能年 義輝(ノウトシ ヨシテル)