ドローンとAIで規格外野菜を減らす~畑全個体のサイズを自動計測し、最適な収穫日を推定~

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2023-09-08 東京大学

発表のポイント
  • ドローン空撮と深層学習によって、畑で栽培しているブロッコリー全個体の花蕾サイズを自動推定・予測し、最適な収穫日の決定を支援するシステムを構築した。
  • 農業現場での応用を見据え、一部が葉で隠れていても予測精度が高く、かつ計算時間が短くなる工夫を行った。
  • このシステムは規格外野菜を減らすことで、生産者の収入を増やし環境負荷を減らせる可能性がある。

ドローンとAIで規格外野菜を減らす~畑全個体のサイズを自動計測し、最適な収穫日を推定~

研究成果のイメージ

発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科郭威准教授、Haozhou Wang大学院生、Tang Li大学院生、西田えり佳大学院生(当時)、加藤洋一郎教授、千葉大学大学院園芸学研究院の深野祐也准教授らによる研究グループは、ドローン空撮と深層学習を用いて、畑で栽培している数千個体のブロッコリー花蕾の大きさを自動で推定するシステムを開発しました。また、このシステムを用いて収穫日を決定することで、規格外野菜の割合を最小化し生産者の収入を増やす可能性を示しました(図1)。開発したシステムを検証するために、圃場で2年間にわたってブロッコリーを栽培すると同時にドローン空撮をおこないました。その結果、開発したシステムを使うと、ブロッコリーの花蕾が高精度(多くが2-3cm以内の誤差)で推定でき、気象データと組み合わせることで約10日後まで予測できることが分かりました。さらに、ブロッコリーの全個体のサイズ変化と、サイズごと(S, M, L, LL)の出荷価格を組み合わせ、全個体を収穫したと仮定したときの総出荷価格(=生産者の収入)を日毎に計算しました。すると、収穫日が1日変わるだけで規格外が最大約5%増加し、収入が最大約20%減額することがわかりました。この成果は、全個体の大きさを測定するというシンプルな技術が、規格外野菜を減らし、収入の向上と環境負荷の低減という一挙両得につながることを示唆しています。このシステムは、キャベツやハクサイなど様々な露地野菜に応用可能です。今後、このシステムを発展・実装することで、持続的な農業に貢献することが期待されます。論文の概要は以下のビデオでご覧になれます。
参考動画:https://youtu.be/SYuOCVqgtrU

図1:本研究の課題と解決策

発表内容
〈研究の背景〉

野菜の生産においては、安価で安定した供給のために形や大きさに応じた規格が設定され、規格外の野菜は廃棄するか、非常に安い価格でしか出荷できません。しかし、畑で生産される野菜は、どんなに均一に栽培したとしても、土壌や気象条件などの細かな違いによって大きさにばらつきが出てしまいます。そのため、野菜生産においては一定程度の規格外野菜が出てしまうことは避けられません。特に大きな畑で栽培し、機械によって一斉収穫する場合には、規格外野菜の割合が大きくなってしまいます。規格外野菜は生産者にとってコストになるだけでなく、その多くは廃棄されたり畑に鋤き込まれたりしますので、一定程度の環境負荷につながっている可能性があります。
規格外野菜の割合を減らす最も単純な方法は、畑で栽培されている全ての野菜個体のサイズとその成長を把握することです。全個体のサイズがわかれば、規格外野菜の割合を最小化し、最も高い価格で出荷できる大きさの野菜を収穫できるタイミングがわかるはずです。つまり、畑の全個体のサイズを推定する技術は、環境負荷の低減と、生産者の収入の両方に貢献できると考えられます。そこで本研究では、ドローン空撮と深層学習を組み合わせ、畑の全個体のサイズを推定する技術を開発しました。そして、特にサイズのばらつきが大きく、規格外野菜の割合が大きくなりがちなブロッコリーを対象に2年間の栽培実験をすることで、開発した技術の検証を行いました。

〈研究の内容〉

ドローン空撮と深層学習を組み合わせて作物の収量を予測する研究は多くありますが、その多くは『面の収量』が大事なイネやコムギ、トウモロコシなどの穀物です。一方、『個体の大きさ』が重要な野菜を対象とした研究は多くありません。野菜の出荷では、数センチの違いによって規格が変わり出荷価格が変化してしまうため、高い精度で大きさを推定する必要があります。また、農業現場で使える技術のためには、風などのノイズがあっても、一部が葉で隠れていても高い精度で大きさを推定でき、かつ計算に膨大な時間がかからないシステムにする必要があります。本研究では、ドローン空撮画像で深層学習(全株の位置検出とブロッコリー花蕾の領域分割)を行う際にいくつかの技術的改善を行い、これらの課題をクリアしました。そのうえで、ドローン空撮からブロッコリー全株のサイズ推定までをカバーする一連のシステムを開発しました。さらに、このシステムを収穫日決定の支援に使うには、空撮時点のブロッコリーサイズだけでなく、将来のブロッコリーサイズが予測できる必要があります。そこで、既存の生育モデルと気象予報データから、約10日後までのサイズを予測するモデルを構築しました。
これらのシステムの有効性を検証するため、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構で2年間にわたり1,714個体のブロッコリー栽培試験を行いました。栽培したブロッコリーを対象に定期的にドローン空撮を行い、開発したシステムによって全個体のサイズを自動で推定しました。同時に、520個体のブロッコリーの花蕾サイズを実際に手で測定し、ドローン空撮の推定精度を検証しました。その結果、本システムは高い精度で花蕾サイズを推定できることが分かりました(図2)。誤差はおおよそ2-3センチ以内で、平均花蕾サイズ8cmと小さいときからうまく推定できていました。

図2:ブロッコリー花蕾サイズのドローン空撮による推定値と実測した値の比較

最適な収穫日を決定するため、生育モデルと気象予報データを使って、約10日後までの花蕾サイズの変化を予測しました。そしてこの予測値と、実際にその日にドローン空撮で推定した値を比較したところ、平均花蕾サイズが20センチ以上と大きくなりすぎた日以外は、精度よく推定できていました。
では、このシステムは、規格外野菜を減らすのに役に立つのでしょうか。いくつかの農業協同組合(JA)に対して聞き取り調査を行い、ブロッコリーのサイズごとの規格と、規格ごとの出荷価格のデータを得ました。このデータと、畑の全個体のサイズ変化を組み合わせることで、ある日に畑の全個体を収穫したらどれくらいの規格外野菜が出るのか、また総出荷価格(=収入)はいくらになるか計算できます(図3)。この計算を栽培期間中の全ての日に対して行い、収入が最大になる収穫日と、規格外野菜の割合が最小になる日を調べました。すると規格外野菜の割合が最小になり収入が最大になる最適な収穫日がわかりました。また、重要な点として、最適な収穫日からたった1日ずれて収穫すると、規格外野菜の割合が最大約5%増加し、収入が最大約20%減額することもわかりました。ドローン空撮によって畑の全個体を測定することで、規格外野菜の割合や収入が収穫日によって大きく変化することを初めて定量化できました。

図3:仮想的な収穫日ごとの規格外野菜の割合と総出荷額の変化

〈今後の展望〉

この成果は、全個体の大きさを推定するというシンプルな技術が、規格外野菜を減らし、環境負荷の低減と生産性の向上という環境と生産性の両立につながることを示しています。ただし、今回の研究では畑の全個体を一斉収穫する、という規格外野菜の割合が増えやすい条件で行われた計算であることに注意が必要です。実際の生産現場で行われる様々なパターンの収穫方法において、このシステムが有効かを検証する必要があります。
また、このシステムの枠組みは、キャベツやハクサイなど様々な露地野菜に応用できる可能性があります。そして圃場の全個体の植物を時系列で測定するという技術は、農学・植物学・生態学の様々な研究分野で有効です。今後、このシステムを発展・実装させることで、環境負荷を低減させつつ生産性を向上させる持続的な農業や植物科学・生態学を加速させることが期待されます。

〈関連のプレスリリース〉

「ドローン空撮画像から植物1個体ごとの3次元形質を自動推定する手法の開発~多少の雑草がある圃場でも高精度に推定可能~」(2020/10/20)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20201020-1.html
「スマートな技術で持続的な農業を:ドローン空撮と融合した圃場試験法(GAUSS)を開発し、輪作に適したダイズ品種を推定」(2021/5/31)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210531-1.html

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科
郭 威(Wei GUO)(准教授)
Haozhou Wang(博士課程)
Tang Li(博士課程)
西田 えり佳(Erika NISHIDA)(修士課程:研究当時)
加藤 洋一郎(Yoichiro KATO)(教授)
千葉大学大学院園芸学研究院
深野 祐也(Yuya FUKANO)(准教授)

発表雑誌
雑誌
Plant Phenomics
題名
Drone-based harvest data prediction can reduce on-farm food loss and improve farmer income
著者
Haozhou Wang, Tang Li, Erika Nishida, Yoichiro Kato, Yuya Fukano, and Wei Guo
DOI
10.34133/plantphenomics.0086
URL
https://spj.science.org/doi/10.34133/plantphenomics.0086
研究助成

本研究は、JST AIP加速課題「ビッグデータ駆動型AI農業創出のためのCPS基盤の研究(課題番号:JPMJCR21U3)」、 東京大学大学院農学生命科学研究科「農学創発基金(2020年度)」の支援により実施されました。

問い合わせ先

〈研究に関する問合せ〉
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 郭 威(かく い)

〈報道に関する問合せ〉
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)

千葉大学広報室

1204農業及び蚕糸
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