実環境でリアルタイムに二酸化炭素や水素などを3種類以上含む混合ガスから濃度測定できる小型センシング技術を開発

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従来比1/200以下のサイズかつ150倍以上の速度で複数のガス濃度をモニタリングし、CO2資源化技術の高効率化や高信頼なカーボンフットプリントの実現に貢献

2023-06-23 株式会社東芝

概要

東芝は、二酸化炭素(CO2)や水素(H2)、一酸化炭素(CO)などのガスを3種類以上含む混合ガスであっても、実環境(*1)でそれぞれのガス濃度を同時・高速で測定できる小型センシング技術を世界で初めて(*2)開発しました。従来、ガス濃度測定に用いられてきたガスクロマトグラフィーと比較して、1/200以下のサイズで150倍以上高速にガス濃度を測定することが可能です。小型化する技術として、電気回路とセンサー・アクチュエーター(*3)などの微小な機械部品を微細加工技術によって1つの基板上に集積するMicro Electro Mechanical Systems (MEMS) 技術を採用しました。東芝は独自に開発したMEMS技術を用いて、感度の異なる超小型センサーを1つの基板上に一括形成し、各センサーが検出した値をアルゴリズム処理することにより、高速化・小型化および複数ガスの同時濃度測定を実現しました。さらに、東芝は試作したプロトタイプ機を用いて、実環境におけるCO2、H2、COを含む混合ガスでの小型センシング技術の有効性を実証しました。
本技術により、混合ガス中のCO2やH2、COなどのガス濃度をリアルタイムにモニタリングすることが可能となり、CO2を価値あるガス資源に変換する「CO2資源化技術」における変換効率の向上に貢献します。また、現在はCO2換算値として算出している温室効果ガス(*4)の排出量を、温室効果ガスごとに直接測定することができるため、信頼性の高い「カーボンフットプリント(*5)」のデータ取得へとつながります。
東芝は、本技術の詳細を6月25日から29日まで京都で開催される、MEMS分野において最も権威のある国際会議のひとつである「TRANSDUCERS 2023」にて6月28日に発表します。

開発の背景

カーボンニュートラル社会の実現に向け、CO2を価値あるガス資源に変換する「CO2資源化技術」や、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示する「カーボンフットプリント」を実現する技術の開発が世界的に進められています。
「CO2資源化技術」には、再生可能エネルギーの電力を利用して、CO2を分解し化学品などに再生する「Power to Chemicals (P2C)」や、CO2とH2から天然ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」技術などがあります。これらは、CO2を電気化学反応により分解したり、別のガスと反応させたりすることでCO2を資源化しますが、高効率に資源化するには、反応中のガスの成分や濃度をリアルタイムでモニタリングしながら、ガスの反応条件を最適な状態に制御することが重要です。また信頼性の高いカーボンフットプリントの実現に向けては、各温室効果ガスの濃度を測定し、正確に見える化することが必要です。
しかし、実環境でガスが反応する過程においては、CO2や生成された資源ガス以外に、副生成物のガスや水蒸気が発生し、複数種類のガスが混合した状態(混合ガス)になります。CO2を高効率に資源化、あるいは温室効果ガスの濃度を正確に把握するためには、混合ガスにおけるそれぞれの成分や濃度をリアルタイムで正確に測定する必要があります。(図1)
現在、ガス濃度の測定にはガスクロマトグラフィーという分析装置が用いられていますが、測定に時間がかかるため、リアルタイムにモニタリングすることは困難です。また、サイズが大きいため、「P2C」や「メタネーション」を行う設備に導入するには複雑なシステムが必要でした。高速化・小型化を実現する技術として、現在、ガスセンサーの開発が世界的に進められていますが、「酸化物半導体型(*6)」・「接触燃焼型(*7)」・「熱伝導型」という3種類の主なガスセンサーのうち、耐性面から「熱伝導型」が有効です。CO2資源化技術においては、生成ガスにCOなど被毒(*8)性の高いガスが含まれることが多く、「酸化物半導体型」や「接触燃焼型」は、こうした被毒性の高いガスによりガス反応膜(*9)が変化してしまう課題があります。一方、「熱伝導型」は、ガスの種類によって熱の奪いやすさ(熱伝導性)が異なることを利用してガスの濃度を測定し、ガス反応膜を使わないため被毒性の高いガスに対して耐性があります。しかし、3種類以上のガスが含まれていると、どのガスによって熱が奪われたのか判定できず濃度を算出できないという課題が残っていました。

実環境でリアルタイムに二酸化炭素や水素などを3種類以上含む混合ガスから濃度測定できる小型センシング技術を開発

図1: カーボンリサイクルにおけるセンサーの適用例

本技術の特長

そこで東芝は、感度の異なる複数の熱伝導型ガスセンサーを採用し、各センサーの検出値をアルゴリズム処理して各ガス濃度の測定値として出力することで、どのガスによって熱が奪われたのか判定する技術を開発しました。これにより、被毒性の高いガスへの耐性と3種類以上含む混合ガスの各濃度を測定することを両立しました。なお、熱伝導型ガスセンサーの数を増やすことで、測定するガスの種類を増やすことが可能です。
さらに東芝は、高速化・小型化のために、電気回路とセンサー・アクチュエーターなどの微小な機械部品を微細加工によって1つの基板上に集積できるMEMS技術を採用しました。東芝は、様々なMEMSデバイスを一括で形成することが可能な独自のMEMS製造プラットフォーム技術を開発し、感度の異なる複数個の超小型熱伝導型ガスセンサーを1つの基板上に形成することで(図2)、高速化・小型化を実現しました。
本技術により、ガスが3種類以上含まれる混合ガスであっても、ガスそれぞれの濃度を小型な熱伝導型ガスセンサーで測定することに成功しました。また本技術は、ガスの付着に起因するガスセンサーの被毒がないため、ガスセンサーの高寿命化が期待できます。
東芝は、MEMS技術により熱伝導型ガスセンサーを一括形成し、個片化した各ガスセンサーとガス導入用ノズルおよび専用の回路を実装したプロトタイプ機を作製しました(図3)。プロトタイプ機は、従来のガスクロマトグラフィーの平均サイズ(約22,740cm3 (*10))と比較して、1/200以下のモジュールサイズ(約106cm3)を実現しました。実環境として、CO2を電気分解するセルへプロトタイプ機を取り付け、加湿状態のCO2、H2、COの3種類の混合ガスから、それぞれのガス濃度を同時に測定する実験を行いました。その結果、本技術は測定時間が1.7秒と、従来のガスクロマトグラフィーの測定時間(5分)と比較して、150倍以上の速さで3種類のガス濃度それぞれを測定できることを実証しました(図4)。実環境でリアルタイムに3種類以上のガス濃度を測定できたのは世界初となります。

図2: 当社独自のMEMS技術を用いた熱伝導型ガスセンサーの模式図と動作原理

図2: 東芝独自のMEMS技術を用いた熱伝導型ガスセンサーの模式図と動作原理

図3: 試作したセンサーモジュール

図3: 試作したセンサーモジュール

図4: 従来技術との測定時間とサイズの比較

図4: 従来技術との測定時間とサイズの比較

今後の展望

東芝は、今回得られた知見をベースにセンサーの構造やアルゴリズムの最適化を行い、さらなる実証実験などを通じて、2026年を目途に本技術の実用化を目指します。
本技術により混合ガスにおける各ガスの濃度のリアルタイムのモニタリングを実現し、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、「CO2資源化技術」の高効率化や信頼性の高い「カーボンフットプリント」のデータ取得に貢献します。また、本技術を単体ガスのセンシングに応用して、水素漏洩の検知や屋内空気質のモニタリング、呼気水素による腸内環境のモニタリングなどにも貢献します。


*1 工場で発生すると想定される被毒性の高い一酸化炭素(CO)や水蒸気を含むガスの測定において。

*2 2023年6月東芝調べ。

*3 電気や熱などのエネルギーで動作する駆動部品。

*4 地球温暖化の主な原因とされている二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンなど。

*5 経済産業省および環境省の「カーボンフットプリント ガイドライン」:
https://www.env.go.jp/content/000124385.pdf(5.28MB)

*6 酸化物半導体に吸着した酸素ガスを水素などの還元性ガスが奪うことで、酸化物半導体の抵抗値が変化することを利用してガスを検知するセンサー。

*7 可燃性ガスが加熱された電極と接触して抵抗値が変化することを利用してガスを検知するセンサー。

*8 センサーの表面に有機化合物や硫黄化合物などが付着してセンサーの性能を劣化させる現象。

*9 センサーの対象となるガスが付着する膜。

*10 2023年6月東芝調べ。

0505化学装置及び設備
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