2022-10-13 シャープ株式会社
シャープのプラズマクラスター技術について、世界的に著名な研究機関である米国コロンビア大学医学部の森 宗昌 准教授(呼吸器学・幹細胞学)らの検証試験の結果、プラズマクラスターイオンを人工的に培養したヒトの気道上皮細胞に照射すると、喘息患者で問題となる気道の粘液分泌が改善され、喘息等の気道の症状緩和に役立つ可能性が示唆されました。
ヒトの呼吸器の鼻腔から肺に至る道筋(気道)の表面には気道上皮細胞があり、この細胞は粘液を分泌し異物を上部へと排出することにより、気道浄化において重要な役割を果たしています。今回の効果検証試験では、プラズマクラスターイオンの気道への影響を調べました。初めにヒト組織幹細胞を約1カ月かけて分化誘導させ、シート状に気道上皮細胞を形成し、その上でプラズマクラスターイオンを最大24時間照射しました。その結果、細胞表面の外観上の変化や細胞の損傷などは認められず、また、定量的な遺伝子発現解析※3を実施したところ、喘息患者の気道において呼吸の妨げになる高粘度の粘液分泌の減少、および呼吸改善に寄与する低粘度の粘液分泌の増加が示唆されました。これらの変化は、喘息患者で重大な問題となる気道での粘液分泌が改善され、症状緩和に繋がる可能性があります。これまでプラズマクラスターイオンは、気道に問題を引き起こすダニアレルゲンへの抑制効果を実証してきましたが、今回の試験はダニや花粉などのアレルゲンが存在しない装置内で実施されたことから、ヒトの気道の細胞自体にも良い効果を及ぼす可能性が示唆されました。今後も引き続き細胞への効果やそのメカニズムについて詳細な検証を進めてまいります。
呼吸器の専門家である森准教授は、「新型コロナウイルス」への対策技術としての有効性に加えて、プラズマクラスターの呼吸器への影響に関心をお持ちいただいており、森准教授のチームは当社が提供した試験装置を使用し同大学にて独立した試験を行った結果、今回の成果確認に至りました。
当社は、2000年より20年以上にわたりプラズマクラスター技術の効果を国内外の第三者試験機関で実証するアカデミックマーケティング※4を推進してまいりました。これまで多数の第三者試験機関で「ダニアレルゲン」などの有害物質の作用抑制効果や、「小児喘息患者の気管炎症レベルの低減効果」、「マウスのアトピー性皮膚炎の予防と治療効果」などの臨床効果を実証。併せて、プラズマクラスター技術の安全性についても長年継続して検証を重ねています。今回、ヒト気道の「喘息症状緩和」というプラズマクラスターの新たな効果の可能性が見出されたことを契機とし、シャープはさらなる技術の有効性について実証を加速してまいります。
<コロンビア大学医学部 准教授 森 宗昌(もり むねまさ)氏のコメント>
ウイルスの減少効果があるプラズマクラスター技術が、ヒトの呼吸器にどのような影響を与えるのか興味を持ち今回の試験を計画し実施した。ヒト組織幹細胞を用いて作製した気道上皮細胞へプラズマクラスターイオンを照射し、細胞内部の詳細な分析を行ったところ、喘息症状の緩和に繋がりうる粘液バランスの変化が生じることが細胞レベルでわかってきた。今後、同イオンの喘息患者由来の気道上皮細胞に対する効果や長期的な効果の確認、作用メカニズム等について検証をさらに進めていく価値が大いにある。プラズマクラスター技術を用いた医療応用など、今後の同技術のさらなる進化に期待したい。
※1 ヒト気道上皮細胞に作用し粘液の産生に関わるタンパク質指標を変化させ、喘息症状緩和の可能性を示唆したイオン放出式の空気浄化技術において。(2022年10月13日現在、当社調べ)
※2 呼吸器の気道の内面を覆う細胞。体外とのバリアとして機能する。線毛細胞、粘液細胞等複数から構成される。
※3 細胞の内部状態を調べる手法の一つで、遺伝子の働きや反応を調べる解析手法。
※4 技術の効能について、先端の学術研究機関と共同で科学的データを検証し、それをもとに商品化を進めるマーケティング手法。
● プラズマクラスター、Plasmaclusterはシャープ株式会社の登録商標です。
■ ヒト細胞へのプラズマクラスターイオンの影響調査試験の概要
●試験実施者:森 宗昌 准教授(コロンビア大学)
※本試験に貢献いただいた研究者:Dr. Youngmin Hwang, Dr. Anri Sawada, Dr. Yuko Shimamura,Dr. Tatsuya Nagano, Dr. Akihiro Miura, Dr. Junichi Tanaka, Dr. Danting Cao
●試験空間:細胞培養装置内に設置した12Lの風洞内
●試験装置:プラズマクラスター技術搭載試験装置
●プラズマクラスターイオン濃度:風洞内のサンプル位置 約100,000個/cm3
●対照試験:上記装置のイオン発生なしとの比較
●検証細胞:健常者のヒト組織幹細胞を約1カ月かけて分化誘導させた気道上皮細胞をシート状に培養したもの
●試験方法:
① 試験ボックス内に配置したヒトの気道上皮細胞へプラズマクラスターイオンを一定時間照射
② 照射後の細胞の生育状態と形態を観察するとともに定量的な遺伝子発現解析(qPCR)を実施
図1.試験装置イメージ
●結果:
1.細胞の観察結果(プラズマクラスターイオンを24時間照射)
以下の通り、ヒトの気道上皮細胞にプラズマクラスターイオンを24時間照射しても、細胞表面に外観上の変化や細胞の損傷などは認められなかった。
・細胞の表面観察:酸化作用を持つ過酸化水素水を意図的に与えた試験では、表面状態に損傷を表す異常が示されたが、プラズマクラスターを照射した試験では、細胞の表面に変化は確認されなかった。
・蛍光試薬による分析:同様に過酸化水素水を与えた試験では、蛍光反応があり、酸化反応による細胞への損傷が確認されたが、プラズマクラスターを照射した試験では、細胞への損傷は確認されなかった。
表1.細胞表面の顕微鏡画像
2.ヒトの気道上皮細胞の分析結果(遺伝子発現試験)
プラズマクラスターイオンの照射により、気道上皮細胞において以下のタンパク質指標の変化が確認された。これらの変化により、喘息患者で重大な問題となる気道での粘液分泌が改善され、症状緩和へと繋がる可能性が示唆された。
・喘息患者の気道において高粘度の粘液を増加させ、呼吸の妨げに関係するタンパク質の指標の一種(MUC5AC)の減少。
・一方、低粘度の粘液を増加させ、呼吸改善に関係するタンパク質の指標の一種(SCGB1A1)の増加。
図2.粘液の増減に関わるタンパク質に対するプラズマクラスターイオンの効果グラフ
コロンビア大学 研究者のプロフィール
氏 名:森 宗昌 医学博士
所 属:コロンビア大学医学部アービング医療センター
呼吸器アレルギーおよび集中治療医学部門の内科学准教授
専門分野:呼吸器学、幹細胞学
Munemasa Mori, M.D., Ph.D
Assistant Professor of Medicine, Columbia Center for Human Development, Division of Pulmonary, Allergy, and Critical Care Medicine, Department of Medicine, Columbia University Vagelos College of Physicians and Surgeons, Columbia University Irving Medical Center