電流密度、寿命を飛躍的に改善し、大容量のリチウム金属電極を実現

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リチウムデンドライトを抑制する、カーボンナノチューブ負極部材を開発

2022-02-25 産業技術総合研究所

ポイント

  • リチウム金属と単層カーボンナノチューブシートを組み合わせた負極は、リチウムデンドライトの成長を大きく抑制
  • リチウム金属単独の負極に比べ5倍の電流密度と循環容量、20倍以上の寿命を実現
  • 単層カーボンナノチューブシートは量産可能で、次世代電池の実用化を加速

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ナノチューブ実用化研究センター 周 英主任研究員らは、日本ゼオン株式会社(以下「日本ゼオン」という)山岸智子研究員と共同で、スーパーグロース単層カーボンナノチューブ(SGCNT)を用いて作製したシートにより、リチウム金属の充放電時に発生するデンドライト(樹枝状結晶)を抑制する技術を開発した。この技術は高エネルギー密度で、大容量のリチウム金属電極(負極)の実用化に貢献する。

リチウムイオン二次電池において、リチウム金属は既存の負極材料(グラファイトなど)と比較して極めて高いエネルギー密度を持つ。しかし充放電時にリチウムデンドライトが成長することにより、電池の材料構造が破壊され、寿命に影響を与えることが従来の負極技術における課題であった。

本技術では、リチウムとの親和性が高く、高比表面積と高空孔率を有するSGCNTシートを作製し、セパレーターとリチウム金属電極との間に挟むことで、リチウム金属電極の大幅な寿命向上を達成した。また、当該SGCNTシートは量産が可能であり、今後、高性能なリチウム金属電極の実用化が期待できる。日本ゼオン株式会社よりSGCNTシートの試料提供を行う予定である。なお、この技術の詳細は、2022年1月26~28日に東京ビッグサイトで開催される2022年ナノテク展で発表される。

概要図

SGCNTシートを用い、長寿命な大容量リチウム金属電極を実現

開発の社会的背景

IoTや電気自動車などの用途拡大に伴い、より軽量で容量の大きなリチウムイオン二次電池が求められており、新しい電極材料や全固体電池・空気電池・リチウム硫黄電池等のさまざまな形式の蓄電池が開発されている。中でもリチウム金属は高いエネルギー密度を持ち、二次電池の負極材料として、盛んに研究されている。しかし、充放電に伴い、その表面にリチウムデンドライトが成長してしまう。その結果、負極と正極を分けているセパレーターの損傷等により電池の材料構造に変化が生じ、短時間で電池容量が減少するという課題があった。そのためリチウム金属電極は、未だ実用化されていない。今回報告するリチウム金属電極を安全・安心に使いこなすための技術は、リチウムイオン二次電池の性能を飛躍的に改善させるキーテクノロジーである。

研究の経緯

産総研は2004年に、高純度、長尺、高比表面積かつ、分散性に優れた、単層カーボンナノチューブであるSGCNTを開発し、2015年に日本ゼオン株式会社がその量産化に成功した。その後、産総研と日本ゼオンは共同でSGCNTの分散・成膜技術開発に取り組んだ結果、高比表面積、高空孔率、高炭素純度に加え、リチウム親和性の高い、量産可能なSGCNTシートの開発に成功し、電池等への応用に取り組んできた。

研究の内容

リチウム金属を、活物質としてリチウムイオン二次電池の負極電極に使用することができれば、電池のエネルギー密度の飛躍的な向上が期待できる。しかしながら、充放電に伴うリチウム金属表面でのリチウムデンドライト成長により、さまざまな課題が生じていた。

図1

図1 コイン型対称セルによる充放電加速劣化実験
(a) SGCNTとLiを使用した本技術、(b)Liを単独で使用した従来負極技術

本研究では、リチウム金属電極の耐久性向上のため、高比表面積、高空孔率、高炭素純度に加え、リチウム親和性の高いSGCNTシートを用いた。ここで、図1(a)左側に示すように、リチウム金属とセパレーターの間にSGCNTシートを挿入した電極構造を構築し、負極と正極に同じ材料・構造を使用したコイン型対称セルを用い、電解液中での充放電特性を評価した。充放電試験では、一定の電流値で充電、放電を繰り返した際の、電位差(過電圧)の時間変化を計測し、電池の劣化状態を診断した。その結果、本技術によるリチウム金属とSGCNTシートを組み合わせた電極を用いた場合、単位面積あたりの充放電電流が2 mA/cm2、充放電容量が2 mAh/cm2の条件で、連続200時間経過しても安定した過電圧を維持し、充放電を継続していることが判明した(図1(a)右側)。一方、リチウム金属を単独で電極に用いた場合(図1(b)左側)は、約55時間後に両電極間の過電圧が急激に上がり、短時間でリチウム金属の電極特性が劣化することが分かった(図1(b)右側)。

図2

図2  (a)充放電前後のSGCNTシート表面(セパレーター側)の走査電子顕微鏡写真
(b)充放電前後のLi電極表面の走査電顕微鏡写真


充放電前のSGCNTシートの走査型電子顕微鏡(SEM)写真(図2(a)上側)には、空孔を有するSGCNTの構造が観察され、充放電後にはそのSGCNTの表面に50 nm程度のリチウム金属粒子が均一かつ密に形成している(図2(a)下側白い部分)ので、カーボンナノチューブがリチウム金属と親和性の高い表面を有していることが分かった。また、充放電前後のリチウム金属のSEM写真(図2(b))では、充放電後にリチウム金属の表面が直径数μmの棒状の結晶粒子で覆われていることが観察され、リチウムデンドライトが成長していることが分かった。

これらの結果より、SGCNTシートをセパレーターとリチウム金属との間に挿入することで、充放電に伴うリチウムデンドライト成長が効率的に抑制できることが明らかとなった。今回開発したSGCNTシートは、高い比表面積と高い空孔率を生かした三次元的な構造を有しており、リチウムとの親和性も高いため、充放電の際にリチウム金属を均一に反応させることができ、リチウムデンドライトの結晶成長を抑制していると考えている。

SGCNTシートと同様に、市販の多層及び単層のカーボンナノチューブ(CNT)を用いたCNTシートを作製し、上記同様セパレーターとリチウム金属との間に挿入して、コイン型対称セルを作製し、リチウム金属電極の充放電特性を評価した。

図3に示すように、単位面積あたりの充放電電流が2 mA/cm2、循環容量が2 mAh/cm2で充放電した場合、市販の多層CNTのAとBは短時間で過電圧が増加し、約100時間で正常な充放電ができなくなり、電極の特性が短時間で劣化した。また市販の単層CNTのCとDを用いた場合は、過電圧は初期の充放電から激しく変動し、50時間以内で過電圧が急激に低下することが分かった。

市販の多層及び単層CNTで作製したCNTシートを用いた場合は、短時間の充放電でも劣化が見られることから、リチウムデンドライトの抑制効果が限られているものと考えられる。また、高比表面積、高空孔率、高リチウム親和性の特徴を備えることはリチウムデンドライト抑制の鍵であると考えられる。

図3

図3 市販CNTを用いたCNTシートの充放電特性評価

さらに、充放電の電流密度が10 mA/cm2と循環容量が10 mAh/cm2でSGCNTシートを使用したリチウム金属電極の特性を評価した(図4)。この結果は、充放電が1000時間経過しても、安定した過電圧を維持し良好な充放電特性を示しており、SGCNTのシートは高エネルギー密度・大容量の充放電でも十分なリチウムデンドライト抑制効果を発揮していることを示唆している。

これらの結果から、今回開発したSGCNTシートをセパレーターとリチウム金属電極の間に挿入することにより、リチウム金属電極を高エネルギー密度・大容量の充放電に安定的に利用できることを明らかにした。

図4

図4 SGCNTシートの高速・大容量の充放電特性評価

今後の予定

今後は、SGCNTシートによるリチウムデンドライト抑制効果のメカニズムを詳細に解明し、その性能を生かした高エネルギー密度、大容量かつ長寿命な蓄電池の開発及び、SGCNTシートの実用化を目指す。本研究で使用されているSGCNTシートは日本ゼオン株式会社から試料を提供できる。また、量産も可能である。

用語の説明
◆スーパーグロース単層カーボンナノチューブ
炭素原子だけで構成される直径が0.4~50 nm、長さがおよそ1~数十 µmの一次元ナノ炭素材料をカーボンナノチューブ(CNT)と呼び、その内、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ(単層CNT)と呼ぶ。この合成手法の一つである化学気相成長法で、水分を極微量添加することにより触媒の寿命と活性を大幅に改善した手法をスーパーグロース法と呼ぶ。この手法で、高純度(従来比2,000倍)、長尺(従来比500倍)、高比表面積で、分散性に優れた単層CNTを合成できるようになった。2004年に産総研が本手法を開発し、2015年11月に日本ゼオンが量産を開始した。
◆デンドライト(樹枝状結晶)
デンドライトは樹の枝のように発達・成長した結晶を意味する。電池の金属負極(リチウム、亜鉛など)の場合は、充電の際に、負極の表面に金属の結晶が不均一に成長し、デンドライトを形成する。その結果、負極の形状等が大きく変形され、場合によっては電池構造の破壊も生じ、電池の充放電効率の低下が生じる。さらに、デンドライトが成長し、負極と正極を分けているセパレーターを貫通することで、電池内部の正負極が短絡し、発火・爆発事故につながる危険性もある。
◆リチウム金属電極(負極)
現在のリチウムイオン電池の負極はほとんどグラファイト(黒鉛)が用いられ、その理論容量密度は370 mAh/gである。リチウム金属の理論容量密度は3860 mAh/gであるため、リチウム金属負極に置き換えることで、蓄電池のエネルギー密度を飛躍的に向上できる。リチウム金属負極は古くから注目され研究開発が盛んに行われてきた。しかし、リチウム金属のデンドライトの生成により電池寿命に影響を与えるため、実用化されていない。
◆対称セル
一般的な電池セルは正極、負極、そしてそれを分けるセパレーターで構成される。対称セルは負極と正極に同じ材料と構造を使用するもので、電極材料の充放電特性を正確に評価できる。
◆過電圧
過電圧は、電池が有している両電極間の電位差(電池の電位)にさらに加える電圧である。本研究で用いている対称セルの場合は、正極、負極ともに同じ物質を用いているため、両電極間の電位差(電池の電位)は0Vであり、過電圧は充放電時に両電極間に印可する電圧となる。
お問い合わせ

産業技術総合研究所

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