2021-08-10 国立天文台
国際大気球太陽観測実験SUNRISE-3に搭載する近赤外線偏光分光装置 SCIP (スキップ):SUNRISE Chromospheric Infrared spectro-Polarimeter が完成しました。
SUNRISE-3は、望遠鏡と観測装置を載せた大型の気球を成層圏に打ち上げて太陽を観測する国際共同プロジェクトです。飛翔高度となる35 km以上の高さでは地球大気による像のゆらぎや光の吸収がほとんどなくなり、高解像度・高精度な観測を行えます。望遠鏡の口径は1 m (ひので衛星の可視光磁場望遠鏡の2倍) あり、空に飛ばす太陽望遠鏡としては世界最大のものになります。
SUNRISE-3に搭載する観測装置の1つとして、国立天文台を中心とするグループは近赤外線偏光分光装置SCIPを開発しました。近赤外線の波長域に含まれるスペクトル線を観測・分析することで大気の状態を知ることができます。SUNRISE-3/SCIPによって高解像度・高精度な磁場の3次元構造と時間変化を取得し、太陽大気における磁気エネルギーの輸送・散逸過程に迫ります。
SCIPの設計・製作・試験は、国立天文台先端技術センターと協力して行いました。気球飛翔中の厳しい環境条件でも動作して高い空間・波長分解能を達成できる光学構造を設計し、光学調整試験を実施してきました。装置を構成する部品や機構のうち、スキャンミラー機構や波長板回転駆動機構を国内で開発し、カメラや観測制御装置はスペインのアンダルシア天体物理学研究所と共同開発しました。さらに、気球飛翔時に想定される真空・温度環境下において要求される機能・性能を保有していることを大型真空チャンバを用いた熱真空試験によって実証しました。これらの国内で予定されていた試験を終えてSCIPが完成しました。今後SCIPはドイツ・ゲッティンゲンのマックスプランク太陽系研究所へ運ばれ、望遠鏡や気球ゴンドラと結合し性能確認する試験へと進んでいきます。
SUNRISE-3は、2022年6月にスウェーデン・キルナから放球される予定で、大西洋を超えてカナダまで約一週間かけて飛翔します。皆様の応援をよろしくお願いいたします。
図1: SCIPの外観 (先端技術センター/クリーンルームにおいて撮影)。SCIPを覆っている銀色の膜は断熱シート。熱真空試験を終えて真空チャンバから取り出された際に撮影されたもの。
図2: SCIP開発メンバーの集合写真 (先端技術センター/クリーンルームにおいて撮影)。手前にある黒い箱がカバーを開けた状態のSCIP。
[関連リンク]
国際共同気球実験: SUNRISE (日本語) : https://solarwww.mtk.nao.ac.jp/sunrise-scip/about/
SUNRISE-III: a balloon-borne Solar Observatory (マックスプランク太陽系研究所。英語): https://www.mps.mpg.de/solar-physics/sunrise
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