ビッグデータにプラズマの状態を語らせる~ 加熱パワーと温度勾配の関係を数式で表す~

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2021-07-21 核融合科学研究所

世界中で進められている核融合研究では、極めて大量のデータが蓄積されています。このビッグデータを最大限活用して核融合発電の実現を加速しようという研究が、近年注目されています。この研究を推進するには、ビッグデータを活用する手法の開発が必要不可欠です。核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験で積み上げたビッグデータを使ってプラズマの状態を把握する手法の開発に成功しました。

将来の核融合発電では重水素等を燃料としたプラズマを加熱して高温にし、核融合反応を起こしてエネルギーを取り出します。通常、プラズマは中心部で温度が高く、そこから離れるにつれて温度が下がります。この温度の位置ごとの違いの様子を「温度分布」、その傾きを「温度勾配」と呼びます。では、どのくらいプラズマを加熱したら、どのくらいの温度勾配ができて、中心部がどのくらいの温度になるのでしょうか?これは「熱輸送」と呼んでいる問題であり、プラズマを核融合が起こる条件の温度にするために必要な加熱パワーを見積もったり、温度が上下した場合にどのように制御したら良いかを考えたりするためにとても重要です。ところが、この問題はとても複雑です。その理由は、プラズマの中では、プラズマを構成するイオンや電子が衝突しあったり、大小さまざまなサイズの渦ができたりなど、複雑極まりない現象が起こっているからです。LHDのプラズマ実験や世界屈指のスーパーコンピュータを用いたシミュレーションで、プラズマの複雑な現象が温度分布にどのような影響を及ぼすのかが研究されていますが、未だ十分には解明されていません。
そこで、今回紹介する研究では、プラズマの中で起こっている複雑な現象を、ひとまず「ブラックボックス」とし、「どのくらい加熱したら」を「入力」、「どのくらいの温度勾配ができるか」を「結果」として、この「入力」と「結果」をつなぐ関係を簡単な数式で表すことに挑みました。(プラズマ中の複雑な現象を完全に理解することは極めて困難ですが、加熱パワー(入力)と温度勾配(結果)は、それぞれ比較的簡単な計算と実験の計測結果により求まります。)この入力と結果の関係を把握するために活用したのが、LHD実験で蓄積してきたデータです。まず、「入力」と「結果」の組み合わせを、LHDのプラズマ実験31回分から3000点近く揃えました。AI(人工知能)にこのデータ群を「食わせて(与えて)」もよかったのですが、いろいろな物理量の関係性が分かるようにするため、「線形重回帰」と呼ばれる手法を用いました。これは、統計の入門書の最初の方に出てくるもので、「ワインの方程式*」でも使われている手法です。この手法で、「熱輸送の特徴を表す数式」を導き出しました。
この数式は、基となるデータ群の「入力」と「結果」の関係をある精度の範囲で再現しますが、別の対象に当てはめようとした時の精度も確かめておかないといけません。データ群を取得したのと似た加熱方法や密度範囲のプラズマを対象に、計測された温度分布(実験2回分、合計12タイミング)が再現できるか試しました。その結果、概ね、この数式によって中心温度の上昇や下降といった温度変化の傾向は再現することができました。
まだまだ手法の改良やデータの拡充が必要ですし、この手法の性質上、全く違った加熱方法や密度範囲で生成したプラズマには適用できないという制限もあります。ある地域の「ワインの方程式」が違う地域のワインには当てはまらないのと同じです。しかし、積み上げた大量のデータを使ってプラズマの状態を把握する手法とその実用性を示すことができました。本成果は、LHDのプラズマ実験に限らず、世界の核融合研究で蓄積されているデータを最大限活用する方法の道筋をつけるものです。

以上

図

データの取り扱いの流れ。左がLHDのプラズマ実験で蓄積した約3000点のデータで、これを使って熱輸送の特徴を表す数式を求めました。右は、この数式によって、熱輸送の特徴がほぼ再現できていることを示しています。

*ワインの方程式:温度や雨量など、いくつかの事柄がワインの質や価格にどのように影響するかを、過去の多くのデータに基づいて数式で表現するもの。その数式を使って、ワインが出来上がる前から、「今年のワインは素晴らしい出来栄えになるはず」などという予言に使われている。

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2001原子炉システムの設計及び建設
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