従来より3桁小さいパルスエネルギーを使用し、従来と同等のレーザーピーニング効果が得られることを発見した。

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超小型レーザーを使用した最先端の超小型レーザーのパルス時間幅が従来と比較して1桁短いという特徴を活用し、従来より3桁小さいパルスエネルギーを使用した場合においても材料に対するレーザーの照射方法を工夫することにより、従来と同等のレーザーピーニング効果が得られることを発見した。「Society 5.0科学博」へ出展

2021-07-14 分子科学研究所

概要

自然科学研究機構分子科学研究所は、大阪大学産業科学研究所、株式会社ユニタック、株式会社LAcubedと共同で、「Society 5.0科学博」に「超小型レーザーを使用した最先端のレーザーピーニング(1)」を出展します。「Society 5.0科学博」は、内閣府と国立研究開発法人海洋研究開発機構との共同主催により、2021年7月15日(木)から東京スカイツリータウンⓇにおいて開催されます。本年は、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の初年度であり、「Society 5.0(2)」の未来像のほか、SIP(3)・ImPACT(4)の成果、国の研究機関等における先端的・独創的な技術が集結します。また、インターネットを活用し、来場できない方にもご自分のスマートフォンやパソコンから、いつでも、どこからでもオンラインで体感できる「サイバー展示」も実施されます。

「Society 5.0科学博」の詳細は、ホームページ(https://society5expo.jp)をご覧ください。

従来より3桁小さいパルスエネルギーを使用し、従来と同等のレーザーピーニング効果が得られることを発見した。

ⒸTezuka Productions

研究開発の背景

レーザーピーニングは、高出力のパルスレーザーを照射して材料の表面に圧縮の残留応力(5)を形成することにより、材料の機械的な強度を飛躍的に高める表面処理技術です。疲労寿命(6)の延長に高い効果があるため、厳しい環境で使用されるジェットエンジンの長寿命化等に利用されてきました。しかしながら、高出力のパルスレーザーは装置が大型で、その運用にはクリーンルームが必要となるため、現場作業が必要な航空機の保守や橋梁等のインフラへの適用は困難であり、屋内での利用に限られていました。

分子科学研究所平等研究室は取扱が容易な手のひらサイズの超小型レーザーを開発してきましたが、レーザーピーニング用のエネルギー源としてはパルスエネルギーが従来と比較して3桁小さいため、力不足で利用できないと考えられていました。

研究の成果

分子科学研究所平等研究室は、大阪大学産業科学研究所細貝研究室および株式会社LAcubed(自然科学研究機構ベンチャー第一号)と協力し、超小型レーザーのパルス時間幅が従来と比較して1桁短いという特徴を活用し、従来より3桁小さいパルスエネルギーを使用した場合においても材料に対するレーザーの照射方法を工夫することにより、従来と同等のレーザーピーニング効果が得られることを発見しました(5. 論文情報 参照)。

また、株式会社LAcubedは、手のひらサイズの超小型レーザーと株式会社ユニタックが開発した小型レーザー電源および小型の人協働ロボット(7)を組合せることにより、従来と比較して桁違いに小型・軽量で、持運びが容易なレーザーピーニング装置を開発しました。

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今後の展開・この研究の社会的意義

手のひらサイズのレーザーを使用することにより、小型で取扱性に優れるレーザーピーニング装置が完成したことから、工場の生産ラインにおける活用が期待されます。さらに、持運びが容易で屋外でも使用できることから、これまで適用が難しかった橋梁などの屋外のインフラ保守への応用が期待されます。また、ドローンやレーザーによる点検技術などと組合せることにより、僻地にあるインフラの保守・延命などへの応用が期待されます。

用語解説

(1) レーザーピーニング:
高出力のパルスレーザーを材料の表面に照射して材料の強度を飛躍的に高める技術。ジェットエンジンなど主に金属材料や構造物の長寿命化に使用されている。

(2) Society 5.0:
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会
(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html)

(3) SIP:
戦略的イノベーション創造プログラム
(https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/index.html)

(4) ImPACT:
革新的研究開発推進プログラム
(https://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/about-kakushin.html)

(5) 残留応力:
外力を受けたとき、物体の内部に生じる力を応力と言う。外力を除いた後でも物体の内部に存在する力を残留応力と言う。

(6) 疲労寿命:
材料に長期間繰返し応力が加わると、短期間では破壊しないような低い応力でも破壊することがある。疲労寿命は破壊が生じるまでの応力の繰返し回数を言う。

(7) 人協働ロボット:
人と同じスペースを共有しながら一緒に作業できるよう設計されたロボット。産業用ロボットに必要な安全柵による隔離は不要で、人と並んで作業を分担したり、人の作業を補助したりすることができる。

論文情報

掲載誌:Metals
論文タイトル:“Quarter Century Development of Laser Peening without Coating”
(保護コーティングが不要なレーザーピーニングの四半世紀の開発)
著者:Yuji Sano
掲載日:2020年1月19日(オンライン公開)
DOI:doi.org/10.3390/met10010152

掲載誌:Metals
論文タイトル:“A Mechanism for Inducing Compressive Residual Stresses on a Surface by Laser Peening without Coating”
(保護コーティングが不要なレーザーピーニングによる圧縮残留応力導入メカニズム)
著者:Yuji Sano, Koichi Akita, Tomokazu Sano
掲載日:2020年6月18日(オンライン公開)
DOI:doi.org/10.3390/met10060816

研究グループ

分子科学研究所
大阪大学産業科学研究所
株式会社ユニタック
株式会社LAcubed

研究サポート

「Society 5.0科学博」に出展するレーザーピーニング技術および装置の開発には、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ユビキタス・パワーレーザーによる安全・安心・長寿社会の実現」、中小企業庁戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)「狭隘部への適用が可能な可搬型レーザピーニング装置の開発」、JST未来社会創造事業大規模プロジェクト型「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」、天田財団奨励研究助成「ハンドヘルドレーザによる高張力鋼溶接継手の疲労強度向上」の成果を活用しました。

研究に関するお問い合わせ先

佐野 雄二(さの ゆうじ)
分子科学研究所 特命専門員

細貝 知直(ほそかい ともなお)
大阪大学 産業科学研究所 教授

報道担当

自然科学研究機構 分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当

大阪大学 産業科学研究所 戦略室 特任准教授(常勤)
加藤久明(かとう ひさあき)

関連研究員

平等拓範グループ
分子科学研究所 社会連携研究部門

佐野 雄二(さの ゆうじ)
分子科学研究所 特命専門員

0705金属加工
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