2021/4/5 アメリカ合衆国・マサチューセッツ工科大学(MIT)
・ MIT が、遺伝子組み換え微生物によるセンサーを安全に使用するための、ハイドロゲルシェルのケージ製造技術を開発。
・ 近年、重金属等の環境汚染物質のセンサーとして利用できる遺伝子組み換え微生物の開発が進んでいる。これらのセンサーは、自然環境で使用することで汚染物質レベルの経時的な変化の追跡に役立てることができるが、環境への流出により他の有機物に及ぼす影響が懸念される。
・ 今回、ハイドロゲルの球体シェルに埋め込んだ大腸菌センサーを使用し、他の有機物から隔離しながら目的の汚染物質の検出を実証。同シェルは環境によるダメージからセンサーを保護する役割も担う。
・ 微生物が通常持ち合わせない遺伝子回路を遺伝子組み合えにより発現させることで、様々な分子を検出するセンサーとして利用できるようにする。このような遺伝子回路は、対象物の検出により緑色蛍光タンパク質(生物発光)を生成するよう設計される。また、DNA にイベントを記録させる回路もある。
・ 微生物の細胞に遺伝子回路を確実に正しく導入するため、遺伝子回路には環境に有害な抗生物質耐性遺伝子が含まれることが多い。細菌や微生物の多くでは、水平遺伝子伝播による異種類間での遺伝子の交換が起こり得る。
・ このような遺伝子交換の回避には、自然からは得られない人工分子を必要とするような微生物センサーの設計による「化学物質汚染」として知られる手法で対処が可能だが、変異による無効化の恐れがある。
・ また、微生物をデバイスに閉じ込めることで外部への流出を防ぐ物理的な対処法もあるが、プラスチックやガラス等の従来材料では拡散障壁が形成され、検出対象の分子との相互作用が妨げられる。
・ 本研究では、必要な栄養素と共にアルギン酸塩に微生物を埋め込み、アルギン酸塩とポリアクリルアミドを組み合わせた極めて強靱でストレッチャブルなハイドロゲルで覆った。この外層に含まれる直径 5~50nm の孔は糖類や重金属を通すが、DNA や大きなタンパク質を通さない。直径約 5mm のシェルで最大 10 億個の細菌細胞を搭載できる。重金属のカドミウムを検出するよう設計した大腸菌を同シェルに閉じ込めた。
・ チャールズ川の水試料にカドミウムを添加し、同センサーを配置。シェル内センサーの汚染物質検出能力を試験した結果、正確に検出できた。また、シェルからの微生物の脱出や遺伝子材料の流出がないことも確認。さらに、自然界に存在しないアミノ酸の人工分子に依存するよう組み替えした異種の大腸菌での同シェルの有効性も実証した。
・ 今後の研究では、実際の状況をシミュレートしたモデル環境での同センサーの試験を予定。このようなセンサーは、環境汚染物質の検出に加え、消化官での出血の検出等の医療アプリケーションでの利用も可能となる。
・ 本研究には、米国立衛生研究所(NIH)、米国海軍研究局(ONR)、米国防高等研究計画局(DARPA)、米国立科学財団(NSF)、MIT Institute for Soldier Nanotechnologies を通じて米国陸軍研究所(ARO)および Abdul Latif Jameel Water and Food Systems Laboratory(J-WAFS) Graduate Student Fellowship
が資金を提供した。
URL: https://news.mit.edu/2021/bacteria-sensors-hydrogel-0405
<NEDO海外技術情報より>
(関連情報)
Nature Chemical Biology 掲載論文(アブストラクトのみ:全文は有料)
Hydrogel-based biocontainment of bacteria for continuous sensing and computation
URL: https://www.nature.com/articles/s41589-021-00779-6
Abstract
Genetically modified microorganisms (GMMs) can enable a wide range of important applications including environmental sensing and responsive engineered living materials. However, containment of GMMs to prevent environmental escape and satisfy regulatory requirements is a bottleneck for real-world use. While current biochemical strategies restrict unwanted growth of GMMs in the environment, there is a need for deployable physical containment technologies to achieve redundant, multi-layered and robust containment. We developed a hydrogel-based encapsulation system that incorporates a biocompatible multilayer tough shell and an alginate-based core. This deployable physical containment strategy (DEPCOS) allows no detectable GMM escape, bacteria to be protected against environmental insults including antibiotics and low pH, controllable lifespan and easy retrieval of genomically recoded bacteria. To highlight the versatility of DEPCOS, we demonstrated that robustly encapsulated cells can execute useful functions, including performing cell–cell communication with other encapsulated bacteria and sensing heavy metals in water samples from the Charles River.