超新星で探る宇宙膨張の歴史

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2021-05-14 国立天文台

超新星で探る宇宙膨張の歴史
今回の研究の模式図。宇宙誕生からの経過時間が異なる、多くの超新星の観測データから得られたハッブル定数が、一定の傾向で値を変えていることが示唆された。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(2.4MB)

超新星の観測データをまとめたカタログを活用した研究から、宇宙膨張の歴史がより詳細に描き出されました。宇宙を支配する物理法則に見直しが必要になる可能性があります。

宇宙が誕生した138億年前から現在まで、宇宙空間は膨張を続けています。この膨張率は、宇宙に存在する物質やダークマターによる重力と、未知の作用であるダークエネルギーとによって、時間の経過と共に変化してきました。現在の宇宙におけるこの膨張率「ハッブル定数」は、宇宙の物理法則を論ずるための重要な数値の一つです。

宇宙空間の膨張率の時間変化をどのようにして調べるのでしょうか。そのためには、ある天体から光が放たれたのはいつ頃で、その時点の宇宙は現在よりどの程度小さかったかを知る必要があります。遠い天体から放たれた光は、宇宙膨張によって本来より伸びた波長となって私たちに届きます。この波長が伸びた量を測定することで、当時の宇宙の大きさを正確に知ることができます。一方、天体から放たれる本来の光の量が明らかな場合は、私たちに届いた光の量を観測すると、その天体までの距離が分かります。その距離を光の速度で割り算をすると、天体から光が放たれた時期を求めることができます。このような測定をさまざまな距離の天体について行い、宇宙の膨張率の時間変化を調べるのです。

「Ia型(イチ・エーがた)超新星」は、放たれる光の量が明らかな天体現象の代表例です。爆発を起こすと太陽の百億倍にも達するほど明るく輝き、遠い距離にあっても観測が可能なため、宇宙膨張の歴史を知るための有用な道具になるのです。

国立天文台の研究者を中心とした国際研究チームは、Ia型超新星の観測データをまとめたカタログを活用し、1000個以上の超新星の観測結果から宇宙膨張の歴史を描き出しました。距離をいくつかの範囲に区分し、それぞれの区分に含まれる超新星を使ってハッブル定数を算出したところ、その値は区分によって、すなわち宇宙の誕生から経過した時間に応じて、変化している可能性が明らかになったのです。ハッブル定数は、近傍の天体の観測から求めた値と、初期宇宙の観測を元に導いた値とに差があることが知られています。今回の研究ではそれと同じ傾向のハッブル定数の変化が見られました。

このハッブル定数の変化は、観測の選択効果や、超新星の性質の時間変化による可能性もあります。しかし、膨張宇宙のモデルでこれまで定数とされていたダークエネルギーの影響が、時間と共に変化することでも説明できるかもしれません。後者であれば、宇宙を支配する物理法則を見直すことが必要になる可能性があります。それを見分けるためには、すばる望遠鏡などを用いて、今後さらに遠方の暗い超新星を多数捉え、宇宙膨張の歴史をより精密に描き出すことが必要です。研究チームは、今後も解析データを増やして研究を続けることを計画しています。

この研究成果は、M.G. Dainotti et al. “On the Hubble Constant Tension in the SNe Ia Pantheon Sample” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2021年5月17日付で掲載されます。

1701物理及び化学
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