耐荷重性の高い十字型溶接が可能に 長周期地震動に強い新型制振ダンパーの普及に貢献
2021-03-10 物質・材料研究機構
NIMSは、地震から建物を守る制振ダンパー用に開発された、従来比10倍の疲労耐久性を示すFMS合金について、疲労耐久性はそのままに、FMS合金同士を溶接しても割れが発生しない新成分の合金を開発しました。合金を十字やH字に接合できるようになることで、より高い荷重に耐えられるなど制振ダンパーの高性能化が期待されます。
概要
- NIMSは、地震から建物を守る制振ダンパー用に開発された、従来比10倍の疲労耐久性を示すFMS合金について、疲労耐久性はそのままに、FMS合金同士を溶接しても割れが発生しない新成分の合金を開発しました。合金を十字やH字に接合できるようになることで、より高い荷重に耐えられるなど制振ダンパーの高性能化が期待されます。
- 鋼材制振ダンパーは、地震時に弾塑性変形することで地震のエネルギーを熱エネルギーに変換して揺れを抑え、建物を地震から守ります。東日本大震災で問題になった長周期地震動など、繰り返しの弾塑性変形に対する耐久性を高めるため、NIMSはこれまで株式会社竹中工務店、淡路マテリア株式会社との共同研究により、疲労耐久性10倍のFe – Mn – Si系合金 (FMS合金) を開発し、2014年、非溶接のFMS合金板を制振ダンパー心材に用いて、せん断パネル型制振ダンパーとして超高層ビル「JPタワー名古屋」に初適用しました。また、FMS合金と溶接構造用鋼の異材溶接技術を開発し、溶接ブレース型制振ダンパーとして、2018年、大規模展示場「Aichi Sky Expo」に第二の実用化を果たしました。さらなる実用化に向けて、超高層建物に求められる耐荷重性を高めるために、制振ダンパー心材であるFMS合金を十字、H字に溶接して大面積化することが求められています。しかし、FMS合金同士の溶接は、高温割れ (凝固割れ) が発生しやすいため、制振ダンパー心材を十字、H字にするには、緻密な溶接施工条件の構築が必要とされていました。そこで高い荷重を負担する大断面の高耐力ブレースの活用展開を加速するために、溶接しても割れが発生しない、つまり溶接施工性がよい新しいFMS合金の開発が望まれていました。
- 今回、NIMSの研究チームは、高い疲労寿命を得るための成分設計と、高温割れ (凝固割れ) を防ぐための成分設計を組み合わせた第二世代のFMS合金開発を行いました。そして、添加するニッケル (Ni) とクロム (Cr) の成分比をわずかに調整することで、室温での変形が可逆的に生じつつ、溶接時の割れが起きにくい結晶構造の変化が起こり、溶接しても超長疲労寿命を示す新合金の開発に成功しました。新合金は、第一世代のFMS合金とほぼ同性能の疲労寿命を示しつつ、実際に溶接しても割れが発生しないことを実験で確認しました。
- 本研究成果を元に、第二世代FMS合金の溶接構造体化、部材化に関する事業「超長疲労寿命の溶接構造による高耐力ブレース型建築用制振ダンパーの開発」 (事業代表 : 株式会社竹中工務店井上泰彦研究主任) が、2020年科学技術振興機構 (JST) 「研究成果最適展開支援プログラム (A – STEP) 産学共同[本格型]」に採択されました。今後、このプロジェクトのもとで、この第二世代FMS合金を用いて、心材の断面を十字やH字に接合した大断面溶接構造制振ダンパーの開発を進めます。
- 本研究は国立研究開発法人物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 振動制御材料グループ 澤口孝宏グループリーダー、溶接・接合技術グループ中村照美グループリーダーらからなる研究チームによって行われました。本研究成果は、Scripta Materialia誌にて、2021年2月24日にオンライン掲載されました。
プレスリリース中の図 : (a)第一世代FMS合金と(b)第二世代FMS合金の溶接部組織.
掲載論文
題目 : Development of ferrous-based weldable seismic damping alloy with prolonged plastic fatigue life
著者 : Fumiyoshi Yoshinaka, Takahiro Sawaguchi, Susumu Takamori, Terumi Nakamura Goro Arakane, Yasuhiko Inoue, Susumu Motomura, Atsumichi Kushibe
雑誌 : Scripta Materialia, Volume 197, 113815
掲載日時 : 2021年2月24日オンライン掲載
DOI :10.1016/j.scriptamat.2021.113815