地下深部を流れる地下水の長期的な変化を可視化

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地形変化や気候変動による地下水流動状態の変動性評価手法の構築

『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.87

図8-18 東濃地域を事例とした領域設定
リージョナル領域は過去100万年間の地形変化や気候変動を推定し、それらの条件を反映させた定常解析を実施する領域です。ローカル領域は、リージョナル領域の定常解析結果を用いて地形変化や気候変動が地下水流動状態に及ぼす影響を評価する領域です。

図8-19 地下深部の地下水流動状態の評価結果
(a)は涵養域から評価場所までの地下水の移行時間を、(b)は地形変化と気候変動が地下水の移行時間に及ぼす影響の推定結果を示します。これらの図は、図 8-18 に示したローカル領域における A-B-C 位置の鉛直断面です。


地層処分の安全評価は、処分施設閉鎖後の数万年以上に及ぶ期間を対象として実施されます。数万年以上の時間スケールを評価の対象とした場合、地形変化(速度の遅い隆起・侵食)や汎世界的な気候変動の影響は、緩慢ではあるものの累積的かつ広域に及ぶため、それらが地質環境特性に及ぼす影響を評価することが重要となります。そこで、私たちは地形変化及び気候変動が地下水流動状態(地下水の流速や移行時間など)に及ぼす影響を定量的に評価するための手法を構築しました。
本研究で構築した評価手法では、解析条件が異なる複数の定常状態の地下水流動解析結果(定常解析)から算出した変動係数という指標を用いて地下水流動状態が受ける影響を数値化します。変動係数はあるデータの標準偏差を平均値で除したものであり、値が小さいほどデータの平均値に対する相対的なばらつきが小さい、つまり解析条件の違いの影響を受けていないと評価することができます。
図 8-18 に示す東濃地域を事例に、まず現在の地形を用いて定常解析を実施し、ローカル領域内(図 8-18)において、月吉断層と山田断層帯に囲まれた土岐川の地下深部に地下水の流れが遅い領域が分布していることが推定されました(図 8-19(a))。次に、過去 100 万年間の地形変化や気候変動条件を推定し、現在に加えて 100万年前、45 万年前、14 万年前の古地形を推定した地形モデルを構築しました。さらに、それぞれの地形モデルに涵養量が多い温暖期と涵養量が少ない寒冷期の 2 パターンを境界条件とした 8 ケースの定常解析を実施し、変動係数を算出しました。その結果、解析結果の三次元的な補間によるばらつきが見られるものの、土岐川の地下深部にある地下水の流れが遅い領域は、その変動係数が相対的に小さい領域内に存在することが推定されました(図 8-19(b))。このことから、他の領域と比較して流れが遅い地下水が分布している土岐川の地下深部は、過去 100 万年間の地形変化や気候変動の影響を受けにくい場所であると解釈できます。地下水の水質などの地球化学特性情報からも土岐川の地下深部では地下水の流れが遅いことが推定されており、本評価手法による評価結果の妥当性が確認できました。
地形変化や気候変動が地下水流動状態に及ぼす影響が小さい領域を定量的に推定することができる本評価手法は、地層処分事業において地質環境特性の数万年以上の長期的な変化を評価する上で有効な評価技術となります。
本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成 28 年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部です。(尾上 博則)

●参考文献
尾上博則ほか, 長期的な地形変化と気候変動による地下水流動状態の変動性評価手法の構築, 原子力バックエンド研究, vol.26, no.1, 2019, p.3–14.

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