2020-09-03 九州大学,科学技術振興機構,キヤノン財団
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センターの安達 千波矢 センター長、九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の松島 敏則 准教授、Changchun Institute of Applied Chemistry(中国)のQin Chuanjiang(シン センコウ) 教授は、有機・無機ハイブリッドペロブスカイトレーザーにおけるレーザー作用の抑制因子を解明することで、室温・空気中において安定した連続波レーザー(CW)の発振に成功しました。レーザー光は、LEDとは異なり、コヒーレント光源であり、科学研究、通信、製造、エンターテインメントなど、現代社会における私たちの生活のさまざまな用途に利用されています。レーザーは、利得媒体、励起光源、光共振器から構成されており、特に利得媒体は誘導放出によって光を増幅するための鍵となる材料です。中でも、有機・無機ハイブリッドペロブスカイト材料は、波長選択性、優れた安定性、溶液塗布法による低コスト化など、次世代のレーザー利得媒体として有望視されています。今回の光励起による室温・空気中のCW発振は各種計測用光源など実用的なアプリケーション開発への道を切り拓くと共に、次世代フォトニクスデバイス光源として期待される電流励起レーザーへの重要なステップとなります。
本研究では、擬二次元ペロブスカイト構造において、低い三重項エネルギー状態を有する有機配位子を構造内に組み込み、長寿命の三重項励起状態をハロゲン化鉛の無機層から有機層へエネルギー移動させることで、パルスおよびCW光励起レーザー発振に成功しました。図1には、配位子としてPEAおよびNMAを含有するペロブスカイトの構造(P2F8、N2F8)と三重項エネルギー移動の様子を示しています。P2F8ではPEAの三重項エネルギーが高いために、無機層からPEAへのエネルギー移動は困難ですが、N2F8では容易に三重項エネルギーがNMAに移動し、三重項励起子を効果的に無機層から除去することが可能となりました。これらのエネルギー散逸過程のメカニズム解明に基づき、レーザーに必要なDFB構造を適用することで、CW励起下において安定した緑色の擬二次元ペロブスカイトレーザーの開発に成功しました。CWレーザーの発振強度は、相対湿度55パーセントの空気中において、1時間後でも顕著な発振特性の劣化は観測されず、高い安定性が明らかになりました。本研究は、近い将来、電気的励起によるペロブスカイトレーザーへの展開を進めていきます。
本研究成果は、2020年9月3日(日本時間)に「Nature」でオンライン公開されます。
本研究成果は科学技術振興機構(JST) ERATO「安達分子エキシトン工学プロジェクト」(JPMJER1305)およびCREST(JPMJCR16N3)の一環で得られ、また、日本学術振興会 科学研究費、キヤノン財団、韓国のPohang Accelerator Laboratoryの支援を受けました。
<論文タイトル>
- “Stable room temperature continuous-wave lasing in quasi-2D perovskite films”
(擬二次元ペロブスカイト薄膜における安定した室温連続レーザー発振)
- DOI:10.1038/s41586-020-2621-1
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
安達 千波矢(アダチ チハヤ)
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長
Qin Chuanjiang(シン センコウ)
中国科学院・長春応用化学研究所(CIAC-CAS) 教授
<JST事業に関すること>
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
<報道担当>
九州大学 広報室
科学技術振興機構 広報課
一般財団法人キヤノン財団 総務部