ツバルのサンゴが記録していたサンゴ礁劣化の歴史

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サンゴ骨格年輪に黒色バンドとして記録された無酸素環境

2020-05-25 東京大学

東京大学大学院理学系研究科の中村修子特任研究員(プロジェクト当時、現笹川平和財団海洋政策研究所研究員)と茅根創教授のグループは、2009年ツバルの首都フォンガファレ島で採取したサンゴ年輪の最上部に、黒色バンドが見られることを発見しました。黒色物は、硫化鉄がサンゴ骨格の炭酸塩結晶中に沈殿しており、海底堆積物に見られる黒色還元層と同様の成因であることが分かりました。年輪の黒色バンドは、嫌気性バクテリアによる硫酸還元(無酸素状態: Anoxic)が1990年代から季節的に発生し、サンゴが斃死(へいし=大規模死)して藻場に変わってしまう生態系の劣化が生じたことを記録していました。

地球温暖化・海面上昇の危機に直面するツバル環礁は、人口増加による生活排水と廃棄物汚染の問題も深刻です。しかし水質の計測は行われておらず、サンゴ礁生態系への人為影響がいつから、どのように起きたのか不明でした。この解決に、長期ロガーとしてハマサンゴ骨格年輪のボーリング調査が行われました。

13項目に及ぶ化学・生物分析により、黒色部からは鉄を主体とした重金属類、付着藻類など過剰な有機物および嫌気性バクテリアの遺伝子断片を検出しました。また黒色バンドに見られた赤褐色—灰青色—黒色の色グラデーションが鉄の酸化還元状態を反映し、黒色部が強還元(無酸素: Anoxic)環境で形成される硫化鉄を含むことを明らかにしました。これらの結果は、嫌気性バクテリアによる硫酸還元(無酸素状態: Anoxic)が1990年代から季節的に発生し、枝サンゴの斃死などサンゴ礁生態系の劣化につながったことを示しています。ラグーンでの重金属類や硫酸還元を招く富栄養化は、廃棄物や生活排水を起源とし、サンゴが人為影響を記録していました。サンゴ年輪研究では初の同位体や放射光実験による重金属/有機分析、微生物DNA解析の手法を組み合わせ、詳細な環境復元に成功しました。とくに年輪内の鉄の酸化還元指標と微生物遺伝子解析は新しい環境指標としての可能性を広げます。

ツバルのサンゴ年輪の黒色バンドと人為起源の季節性無酸素環境形成イメージ
(a) ツバルの首都フォンガファレ島のサンゴ年輪写真。 放射性炭素(14C)による年代決定、1972-1991年に成長停止し、その後成長再開したが、黒色バンドの混入が見られた
(b, c) 黒色バンド部分拡大
(d) ハマサンゴ周辺の立ち枯れた枝サンゴ。付着藻類に覆われている
(e) 月単位の酸素同位体比 (δ18O)測定により年輪内に季節を導入し、 黒色バンドの位置を重ねた結果、黒色部は11月から翌3月頃にかけて、西風の雨季に混入することが分かった
(f) 黒色バンドには赤褐色—灰青色—黒色の色グラデーションがある。 また黒色部は鉄を多く含み、色グラデーションは鉄の酸化還元状態を反映していた。黒色部には外部由来の有機物と嫌気性バクテリアの遺伝子断片も見られた。 過剰有機物のバクテリア分解過程で硫酸還元まで進行し、無酸素環境下 硫化鉄がサンゴ骨格に黒色バンドとして沈着する
© 2020 中村 修子

島はサンゴの礫(れき)や有孔虫の堆積で形成され、健全なサンゴ礁が礫を定期的に供給すれば国土は維持されます。海面上昇に対する環礁島の本来のレジリエンス(復元力)を回復するために、サンゴ礁生態系の修復が必要です。ローカルな環境修復とグローバルな環境変化への適応が一致した政策や支援の策定が望まれます。

「黒色物の混入したサンゴ年輪を初めて見た時はショックでした。さらにこれが大都市の海底のヘドロと同じ強還元/無酸素 (Anoxic)環境を反映していたことに驚きました」と中村研究員は話します。 「ラグーンで年輪を採取したハマサンゴは悪化した環境で生き残った最後の1群体であり、こうして年輪の中に黒色バンドを記録してサンゴ礁劣化を必死に訴えているように感じます」と茅根教授は続けます。

さらに中村研究員は、 「今回、サンゴ年輪から詳細な環境復元を可能としたのは、同位体や放射光実験による重金属/有機物分析、微生物DNA解析を組み合わせた複合分析によります。これまでサンゴ年輪研究では用いられなかった、鉄の酸化還元指標や微生物DNA解析が新たな世界を広げる可能性を示しており、過去の環境の記録者としてのサンゴ年輪の新たな研究が期待されます」と話しています。

論文情報

Nobuko Nakamura, Hajime Kayanne, Yoshio Takahashi, Michinari Sunamura, Go Hosoi & Hiroya Yamano, “Anthropogenic Anoxic History of the Tuvalu Atoll Recorded as Annual Black Bands in Coral,” Scientific Reports: 2020年4月30日, doi:10.1038/s41598-020-63578-4.
論文へのリンク (掲載誌)

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