「このブランドを好む人は他にどのブランドを好むか」を売上データより正確に
2019-12-16 東京大学
1.発表者:
張 軼威(東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 博士課程 1 年生)
汪 雪婷(東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 特任研究員)
酒井 嘉昭(ジオマーケティング株式会社)
山崎 俊彦(東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 准教授)
2.発表のポイント:
◆マーケティング分野において潜在的な顧客やファンの興味や認知を知ることは、戦略立案等に向けて非常に重要なファクターの一つです。
◆これまではクレジットカードやポイントカードの売上データ解析、もしくはアンケートなどの消費者意識解析などにより調査がなされていました。
◆我々は第三の手法として各ブランドが運営する SNS のフォロワーたちが日常どんな情報発信を行っているかを解析することで一般ユーザの興味・関心を推定する技術を実現しました。
3.発表概要:
東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 山崎研究室の張軼威大学院生らは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿されるハッシュタグ等を使って、あるブランドを好む人は他にどのようなブランドを好むかといった消費者の興味・認知を高い精度で数値化することに成功しました。
これまで同種の手法としてはクレジットカードやポイントカードの売上データ解析、もしくはアンケートによる消費者意識調査が採用されてきました。しかし、売上データ解析はクレジットカードを持つ人達の属性が限られるという問題や、ある特定のブランドに興味を持っていても近くにそのブランドの店舗がなければ購入することができないという地理的制約があります。一方、アンケートは膨大な時間や費用がかかり、気軽に行えるものではありません。
そこで我々は SNS に投稿された各ブランドのオフィシャルブランドのフォロワーが日常的に投稿するハッシュタグ等の情報を用いてそれぞれのブランドのファンの意識や特徴を解析し、さらに他のブランドとのファンの特徴の近さを数値として計算できる手法を確立しました。
国内でビジネスを展開する 108 ブランドの SNS アカウントを対象に各ブランドのフォロワー1,000 人ずつを解析した結果、クレジットカード・ポイントカードはある特定のブランドのことを「知っている」「興味がある」といったユーザの興味・認知を相関係数 0.2-0.3 程度でしか予測できないのに対し、我々の手法は相関係数 0.43-0.53 という高い精度で予測できることを確認しました。また、これは他の類似研究と比較しても非常に高い精度です。
今後は、SNS における効果の高い PR 手法の提案、商業施設における店舗フロアプランの提案などの応用が考えられます。
なお、消費者動向解析はジオマーケティング株式会社との共同研究成果、SNS 解析は株式会社サイバー・バズとの共同研究成果です。
本研究成果は、2019 年 12 月 16 日から開催される国際会議「ACM International Conference on Multimedia Asia (ACMMM Asia)」にて発表されます。
4.発表内容:
【研究背景と経緯】
マーケティング分野において、潜在的な顧客やファンの興味や認知を知ることは戦略立案等に向けて非常に重要なファクターの一つです。これまで、クレジットカード・ポイントカードの購入履歴やアンケートを使った調査が一般的でしたが、それぞれデメリットがあります。まず、クレジットカードは保持できる条件(年齢など)が限られます。また、クレジットカード・ポイントカードは実際に購入した履歴しか得ることができないので、地理的に顧客の近くにないブランドは当然のことながら顧客が興味を持っていたとしても購買されることは稀となります。すなわち、顧客が住む地域とそこに存在するブランドという地理的・物理的な制約を受けます。アンケートは大規模に行おうとすると膨大な時間や金銭的なコストがかかり、気軽に何度も行えるものではありません。そこで、各ブランドのオフィシャル SNS アカウントのフォロワー(ファン)がどのような日常を送っているか解析することでそれぞれのブランドに対する顧客の興味や認知を推定できるのではと考えました。
【研究内容】
SNS で各ブランドが展開するオフィシャルアカウントのフォロワー達が日常投稿しているハッシュタグ等の情報を収集・解析し、どんな興味や嗜好をもっているかを数値特徴量として表現する手法を確立しました。これにより、各ブランドのフォロワーについて(興味・嗜好カテゴリはアルゴリズムが自動的に文類しますが、例として)ペット好きの人の割合、旅行好きの人の割合、・・・をそのブランドの特徴として表現することができます。特徴量同士は「距離」や「近さ(類似度)」を計算することができるので、どのブランド同士のファンが近い特徴を持っているか、すなわち全体的な傾向としてあるブランドを好む人は他にどのブランドを好むかということが推定できます。「この 2 つのブランドを同時にフォローする人が多いから近い」という単純な計算手法ではなく、あくまでも各ブランドのフォロワーの日常の投稿を解析しているので、例えば新興・海外ブランドとの距離も計算することが可能です。
日本でオフィシャル SNS アカウントを展開する 108 のブランドを対象に、各ブランド 1,000 人のユーザを対象として解析を行いました。同時に、ネット上のアンケートにて各ブランドの購入経験・興味・認知について調査を行い、これを正解データとしました。クレジットカード・ポイントカードの履歴は、ジオマーケティング株式会社が協力会社より匿名化処理を施した後、提供を受けました。その結果、クレジットカードやポイントカードでは「このブランドの商品を購入したことがある人はこちらのブランドも購入したことある」ということはよく予測できるのに対し、興味や認知の予測はほとんどできていないことがわかりました(アンケートとの相関係数 0.2-0.3 程度)。逆に我々が開発した手法は、ブランドへの興味や認知を精度良く予測することができることが確認できました(アンケートとの相関係数 0.43-0.53)。これは、「興味はあるけど予算的にいまは購入できない」と思っている顧客など、将来の潜在顧客を見つけるのに有効な手法であるといえます。クレジットカード・ポイントカードやアンケートによる調査も利点はあるのでそれらの手法を置き換えるものではなく、あくまでも第三の顧客動向調査・予測手法として SNS を使った手法を提案するものです(図 1)。
【今後の応用と展開】
今後の応用と展開としては、SNS における効果の高い情報発信や PR 手法の提案、大型商業施設での店舗配置デザイン支援、インスタグラマー・マッチングなどの応用が考えられます。
5.発表会議:
国際会議名:ACM International Conference on Multimedia Asia 2019 論文タイトル:Measuring Similarity between Brands using Social Media Content 著者:Yiwei Zhang, Xueting Wang, Yoshiaki Sakai, and Toshihiko Yamasaki
DOI 番号:10.1145/3338533.3366600
6.添付資料:
図1 SNS を用いたユーザの興味・認知予測と、クレジット・ポイントカードとによるそれとの精度比較
クレジット・ポイントカードは実際の購買履歴なので「買ったことがある」ということをよく当てることができるのにし、興味や認知の予測は不得意である。それに対し、SNS 解析では興味や認知をクレジット・ポイントカードよりも精度良く予測できている。