2018/12/20 JAXA
今年は、札幌で1877年の観測開始以降、128年ぶりに遅い初雪が11月20日に記録されるなど、例年よりも暖かい日が続いていましたが、11月後半に各地から初雪の便りが届き始めて以降、日本列島は冬型の気圧配置に覆われることが多く、一気に本格的な積雪の季節が到来しました。
図1は、昨年12月23日に種子島宇宙センターから打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」搭載の光学放射計SGLIが捉えた2018年12月19日の日本列島の様子です。SGLIの可視域から短波長赤外域の光を色合成した画像で、水雲が白色、氷雲と積雪が水色、植生が緑色、裸地が茶色、そして水面が黒色に映し出されています。九州南方海上に張り出した高気圧の影響で、西日本や東日本の太平洋側はよく晴れていますが、日本海側には水雲や氷雲がかかっている様子が見られ、また、東日本や北海道の晴れ間には積雪域(少し暗めの水色に見えるところ)が垣間見られます。12月も後半に入り、日本列島の広い範囲が積雪で覆われている様子が伺えます。
図1 「しきさい」が2018年12月19日に捉えた日本列島(SGLIのSW3(波長1630nm)、VN11(868.5nm)、VN8(673.5nm)を赤、緑、青に割り当てて作成したRGB合成画像で、水雲が白色、氷雲・積雪が水色、植生が緑色、裸地が茶色、水面が黒色に見えている)。
以下では、北海道と本州中部について、「しきさい」の250m解像度を生かした拡大画像で、もう少し詳しく見てきましょう。
北海道での季節変化の様子
図2は、「しきさい」が観測した2018年10月05日から12月15日までの画像から北海道付近を切り出した画像で、秋から初冬への季節の移り変わりを捉えています。
図2 「しきさい」が2018年9月19日から12月15日にかけて捉えた北海道(色合成は図1と同じ)。
10月上旬頃はまだ植物の活動度が高く、陸上に緑色の領域が多く見られますが、11月になると植物の活動度が下がってきて紅葉が進み、陸上で緑色に見えていた領域が茶色に変化していく様子が分かります。また、11月4日には大雪山に、11月16日には知床の羅臼岳山頂に冠雪が認められます。札幌で初雪が観測された11月20日には、北海道中央部の大雪山から屈斜路湖にかけての広い範囲が水色に変化しており、一帯が積雪で覆われていることが分かります。その後11月23日に積雪域は一気に北海道のほぼ全域に広がり、11月27-30日に一旦は平地の積雪は融解しましたが、12月に入ると再び北海道全体が積雪に覆われている様子が映し出されています。
本州中部での季節変化
次に図3は、「しきさい」が2018年9月19日から12月19日にかけて捉えた本州中部(関東・中部・北陸)の様子です。
図3 「しきさい」が2018年9月19日から12月19日にかけて捉えた本州中部(色合成は図1と同じ)。
本州でも秋(9月19日)には緑色が濃い領域が多く見られますが、11月頃には紅葉が深まり、山肌が茶色に変化している様子が分かります。また、11月16日までは富士山頂を除けばどこにも積雪が認められませんが、11月23日には日本海側が氷雲に覆われ、雲が晴れた27日には北アルプスや白山など日本海側の山岳域山頂に冠雪が認められます。また、その後も日本海側は雲に覆われることが多く、しばらくの間は詳細な積雪域の分布を宇宙から確認することができませんでしたが、12月16日や12月19日の画像を見ると、日本海側の山沿いの広い範囲に積雪域が拡大している様子が分かります。一方、南アルプス(赤石山脈や駒ケ岳)に目を移すと、11月23日には山頂に冠雪が見られますが、その後一度融解・消失し、12月12日頃に日本の南海上を通過した南岸低気圧がもたらしたとみられる冠雪が12月15日の画像に明瞭に見えています。
本州中部における地表面温度の分布
上の画像では、「しきさい」が捉えた地表面からの反射光(可視域から短波長赤外域の光)の色を見て、植物活動度の変化や積雪域の分布を見てきましたが、「しきさい」は地表面からの熱赤外線を計測することにより、地表面(雲があるところは雲頂)の温度分布をみることもできます。図4の右図は、図3の12月15日の画像(図4左図に拡大版を再掲)と同じ領域を、熱赤外線の「眼」で見た画像です。冠雪している山岳域の山頂は-10℃以下の温度まで冷えているのに対し、平地の東京都心は8℃前後になっている様子が分かります。また水域に目を移すと、天竜川河口の太平洋はまだ20℃近くの温かさであるのに対し、東京湾は12℃前後、内陸の霞ヶ浦は7℃前後、水面の標高が750mを超える諏訪湖は2℃前後の温度になっている様子が分かります。
図4 「しきさい」が2018年12月15日に捉えた本州中部の反射率画像(左:色付けは図1と同じ)および輝度温度画像(右:SGLIのTI01(波長10.8µm)の輝度温度を画像下に示すカラーバーを使用して色づけした画像。寒色系の色ほど冷たく、暖色系の色ほど暖かいことを示している。なお、輝度温度は 実際の表面温度より1-3℃程度低めに表示される可能性がある)。
「しきさい」の観測データの公開について
このように「しきさい」は、秋から初冬へと移ろう日本列島の植生や積雪域の変化そして地表面の温度分布を250mの空間分解能で高頻度にとらえることができます。昨年12月23日に打ち上げられて以降「しきさい」は、2018年1月1日に初画像を取得し、衛星・センサの初期機能確認試験が完了した3月28日以降、定常的に日本、そして地球全域を観測し続けています。
なお、取得された観測データからは、植生、雪氷、海洋、そして大気の各分野の28種類におよぶ物理量が解析処理され、本日(2018年12月20日)より、一般の利用者に向けてJAXAの地球観測衛星データ提供システム(G-Portal)から公開・提供開始されました(観測データについての詳細については、G-PortalおよびGCOM-Cのホームページをご参照ください)。また、GCOM-Cによる準リアルタイム観測画像はこちらでご覧いただけます。
JAXAでは、今後も「しきさい」による観測を継続し、地球上で起こる様々な環境異変の兆候を捉えるとともに、気候変動メカニズム解明のための観測データを蓄積していく予定です。
観測画像について
図1~4
観測衛星 | 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C) |
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観測センサ | 多波長光学放射計(SGLI) |
観測日時 | 2018年12月19日(図1) 2018年10月5日、11月4日、11月16日、11月20日、11月23日、11月27日、11月30日、12月8日、12月15日(図2) 2018年9月19日、11月16日、11月23日、11月27日、11月30日、12月8日、12月15日、12月16日、12月19日(図3) 2018年12月15日(図4) |