2018-12-17 (ハワイ現地時間)
米国・カーネギー研究所などの研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (ハイパー・シュプリーム・カム, HSC) を使い、太陽系で最も遠い地点で天体を発見しました。この新天体は太陽-地球間の距離の 100 倍以上という、非常に遠い場所で発見され、現在知られている太陽系天体の中で、発見時の距離が最も遠い天体となります。
図1: すばる望遠鏡が2018年11月10日に観測した、新天体「2018 VG18」の発見画像。1時間ごとに撮影された画像から、新天体の動きが見て取れます。 (クレジット: Scott S. Sheppard, David Tholen)
この新天体は、国際天文学連合小惑星センターによって2018年12月17日付けで公表され、「2018 VG18」という仮符号が与えられました。発見者はカーネギー研究所の Scott Sheppard, ハワイ大学の David Tholen, そして北アリゾナ大学の Chad Trujillo です。
新天体 2018 VG18 は、太陽-地球間の距離の約 120 倍 (120天文単位) という、たいへん遠い場所で発見されました。これは、冥王星 (距離 34 天文単位)の 3.5 倍以上の距離となります。これまで太陽系で最も遠くで発見された天体「エリス」は発見当時、距離が 96 天文単位でしたので、それを上回る距離での発見となります。
図2: 2018 VG18 の想像図 (クレジット:Roberto Molar Candanosa / カーネギー研究所)
研究チームは、理論的に予測されている太陽系の未知の惑星「プラネット・ナイン (第九惑星)」を含む、太陽系外縁部の天体の探査を行なっています。今年10月に発表された遠方の太陽系外縁天体 2015 TG387 も同研究チームによるすばる望遠鏡を使った発見でした。距離 80 天文単位で発見され、その軌道の性質はプラネット・ナインの存在を支持すると研究チームは考えています。
研究チームは2014年にも外縁天体「2012 VP113」(現在の距離 84 天文単位) を発見し、その軌道からプラネット・ナインの存在を提唱しました。2012 VP113 と 今年10月に発表された 2015 TG387 の軌道は、海王星や木星といった太陽系の大きな惑星から離れており、これら惑星から受ける重力的な影響はほとんどないとされています。このような太陽系外縁天体を発見することは、太陽系の外縁部での様子を探る上で重要だと研究チームは考えています。今回発見された天体 2018 VG18 の軌道はまだ未確認であるため、その存在がプラネット・ナインを裏付けるかどうかはまだわかっていません。
「2018 VG18 はこれまでに観測されたどの太陽系天体よりも遠く、また遅く動いているため、その軌道を把握するにはこれから数年の追跡観測が必要となります」と、研究チームの Sheppard さんは語ります。「ですが、新天体はこれまで確認された遠方の外縁天体に近い場所で発見されており、もしかしたらこれら天体と似た軌道を持っているかもしれません。これまでに発見されている遠方の太陽系外縁天体の多くは、軌道の性質がお互いに類似しており、これらは数百天文単位というたいへん遠方にある未知の惑星の影響を受けている、と考えられます。」
「新天体 2018 VG18 について現在我々が知っているのは、その距離と大体の大きさ、そして色だけです」と、研究チームの Tholen さんは続けます。「新天体はたいへん遠くにあるため軌道速度が遅く、おそらく太陽の周りを一周するのに 1,000 年はかかるだろう。」
2018 VG18 の発見画像は、ハワイ島マウナケアのすばる望遠鏡を使い、2018年11月10日に撮影されました。
新天体の発見後、確認をするために追跡観測が行われました。研究チームはカーネギー研究所が所有する、南米チリのラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡を用い、12月初めに二度目の観測を行いました。追跡観測には北アリゾナ大学の大学院生、Will Oldroyd さんも参加しました。1週間に渡るマゼラン望遠鏡による追跡観測により、研究チームは新天体の動き、色や明るさといった基本的な性質を測定しました。
追跡観測により2018 VG18 は距離 120 天文単位に存在していることがわかり、100 天文単位を超える距離での、初めての天体の発見となりました。その明るさから新天体の大きさは約 500 キロメートルであり、おそらく球形の準惑星であろうと研究チームは考えています。また新天体は氷を多く含む天体に見られる、ピンク色の色調をしています。
この発見は、日本が運営するハワイの望遠鏡と、米国の研究機関や大学が運営する南米チリにある望遠鏡を使って成し遂げた、国際的な研究成果です」、と北アリゾナ大学の Trujilo さんは、語ります。「大口径の望遠鏡に搭載された新しい広視野カメラのおかげで、我々は冥王星よりもはるかに遠い、太陽系の外縁部を探査できるようになったのです。」
太陽系天体を専門とする、国立天文台の渡部潤一副台長は、今回の発見に対し、以下のコメントを寄せています。「太陽から 100 天文単位を超えるところで新天体が発見されたのは、今回が初めてです。すばる望遠鏡の広視野で深いサーベイ能力が十分に生かされた成果で、今後も同様の遠方の太陽系外縁天体が発見されてくると期待されます。そうなると、次第に太陽系外縁天体の分布が一様かどうか、また一様でないとすれば、その原因は未知の第九惑星なのか、などの議論が盛んになってくると期待されます。」
図3: 新天体2018 VG18 と太陽系の他の天体の距離 (クレジット: Roberto Molar Candanosa, Scott S. Sheppard / カーネギー研究所)
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