アモルファス高分子の高次構造形成や粘度上昇をもたらす分子ユニット

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わずか数%で高分子物性が劇的に変化

2018/10/24  東京工業大学,理化学研究所,東北大学

要点

  • 水分に弱い水素結合とは原理的に異なる新しい会合性分子ユニットを発見
  • 高分子量かつ分子量分布の広いアモルファス高分子へ適用可能
  • アモルファス高分子材料への熱可塑性の付与やナノパターニング材料、物質輸送材料などへの応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の石割文崇助教、福島孝典教授らの研究グループは、同物質理工学院 応用化学系の戸木田雅利准教授、東北大学 多元物質科学研究所 高田昌樹教授(理化学研究所 放射光科学研究センターグループディレクター)と共同で、高分子鎖の末端に導入するだけでアモルファス高分子[用語1]に3次元的な高次構造を誘起し、劇的な粘度の上昇をもたらす分子ユニットを開発した。

高分子に3次元の規則構造を誘起する技術[用語2]は、ナノパターニング材料や物質輸送材料、フォトニック材料の開発など、様々な分野で重要となっている。研究グループは、特異な置換パターンを持つトリプチセン誘導体[用語3]を、広く産業で用いられているポリジメチルシロキサン[用語4]の末端のみに導入した新たな分子を作製。このテレケリックポリマー[用語5]の構造を調べたところ、トリプチセンが入れ子状に自己集合した2次元シートが、規則的に積層して3次元構造を形成することを発見した。この構造変化によって、室温で液体だったポリジメチルシロキサンの粘度が1万倍以上に上昇したことで固体化し、熱可塑性[用語6]を付与できることも明らかとなった。

このトリプチセン分子ユニットは、一見大きな会合力を持たないように見えるが、分析してみると非常に高い自己集合能力を持つ新しい会合性分子であることがわかった。このような高分子の末端修飾法は、様々な高分子系にも適用できると期待される。また、置換基の位置のみが異なるトリプチセン誘導体を導入しても上記のような構造化は全く示さないという興味深い結果も得た。

本研究成果は、2018年10月3日(米国時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

研究の背景

高分子で3次元の規則的な構造を誘起することは、ナノパターニング材料をはじめ、物質輸送材料やフォトニック材料の開発など様々な分野で重要視されている。その実現のためには、自己集合(ミクロ相分離)を起こすブロックコポリマー[用語7]を用いるのが一般的である。

一方で、高分子の末端部位のみを修飾したテレケリックポリマーでは、高分子鎖全体に対して末端ユニットは重量比が非常に小さいため、一般に高次構造の誘起は困難であると考えられてきた。実際、テレケリックポリマーで高次構造を誘起した報告例は、非常に強力な会合能を持つ多重の水素結合部位[用語8]を導入した、分子量数千がDa(ダルトン)程度の低分子量体かつ、分子量分布[用語9]の非常に狭いものに限られていた(図1右)。

図1. 今回発見した分子ユニット「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(左)と、既存の4重水素結合性官能基を導入したテレケリックポリ(オリゴ)ジメチルシロキサン(右)の物性差。

図1.
今回発見した分子ユニット「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(左)と、既存の4重水素結合性官能基を導入したテレケリックポリ(オリゴ)ジメチルシロキサン(右)の物性差。

研究内容と成果

研究グループでは以前から、1,8,13位に置換基を持つ「三脚型トリプチセン」誘導体が、トリプチセンの2次元入れ子状パッキング(図1左下)によりシート構造を形成し、そのシートが1次元的に積層した規則な構造(2次元(D)+1次元(D)構造)へと自己集合することを見出していた。今回、この三脚型トリプチセンと類似の構造を持つ1,8位に置換基を有するトリプチセン誘導体を、代表的なアモルファス高分子であるポリジメチルシロキサン(数平均分子量約2万Da、分子量分布 Mw/Mn = 約2)[用語9]の鎖末端に導入し、合成を行った。その構造を大型放射光施設SPring-8(BL45XU)の放射光X線[用語10]で解析したところ、トリプチセンはまず2次元シート構造を形成し、そのシートが約20 nmという1次元的に長周期に積層した「2D+1D構造」という規則的な構造に集合することが明らかとなった(図2)。

また、この高次構造化に伴い、末端修飾前は液体であったポリジメチルシロキサンの粘度が1万倍以上に劇的に上昇することがわかった。この粘度上昇により固体化し、加熱、冷却することにより可逆的に融解/固化を繰り返すような、熱可塑性を示すことも明らかとなった(図1左および図2)。

トリプチセン分子ユニットは、一見すると水素結合のような明確な相互作用を持たないにもかかわらず、非常に高い会合能力を有し、幅広い分子量分布を持つポリマーに対してわずか数%程度の導入率で高次構造を誘起することがわかった。(図1左および図2)。

図2. 無置換のポリジメチルシロキサン(上段)および「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(下段)の構造と物性

図2.
無置換のポリジメチルシロキサン(上段)および「1,8位置換トリプチセン」を導入したテレケリックポリジメチルシロキサン(下段)の構造と物性

今後の展開

1,8位置換トリプチセン分子ユニットによる高次構造形成能を活かしたナノパターニング材料、物質輸送材料などの開発や、粘度の大幅上昇を利用した熱可塑性材料などの開発が期待される。さらに、本系では水素結合を利用していないことから、これらの高分子は水素結合を阻害する水分の存在下での使用も可能であると考えられる。現在、さらに高い会合能を持つ分子ユニットの開発を検討しており、今後、この末端修飾法の様々な高分子系への適用が期待される。

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